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エイドリアン・シャーウッドがプロデュースを買って出た、ジャマイカのレジェンド・シンガーによる最新作!

 ジャマイカの名門レーベル〈スタジオ・ワン〉出身、レゲエ界随一の個性で魅了するレジェンド・シンガー、ホレス・アンディ。1972年の初アルバム『Skylarking』から50年後のアニヴァーサリー・イヤーに届いた注目作は、確実に彼の代表作に加えられる傑作だ。

 プロデュースは、実験性の高いレゲエ/ダブ・サウンドで絶大な知名度と信頼度を誇るUK〈On-Uサウンド〉のエイドリアン・シャーウッド。自身が大ファンであることを公言するアンディへ送ったラヴ・コールが実を結んだ、両者の初コラボ作品である。

HORACE ANDY 『Midnight Rocker』 On-U Sound/BEAT(2022)

 全10曲中、アンディが過去の名曲を歌い直したものが4曲あるが、全曲シャーウッドのリクエストとのこと。加えて〈On-U〉ファミリーが書き下ろした、アンディの魅力を引き立てる新曲が5曲。さらにはアンディのマッシヴ・アタックのヴォーカリストとしての側面(同グループの数いるフィーチャリング・ヴォーカリストの中で全アルバムに参加しているのは彼ただひとり)をアピールする曲もあり、まさにアンディのキャリアと美点を総括するような視点から内容が構成された。

 シャーウッド自身が本作を総括して、「自分が聴きたいホレスのアルバム」と語っているが、ベストだと信じる音を自分であつらえてそれを制作することはプロデューサー冥利に尽きるところだろう。だからこその妥協を許さない音の追い込みぶりがヒシヒシと伝わってくる。〈On-U〉の存在理由である尖鋭性は、ここではむしろアンディのトレイド・マークであるハイ・トーン&ヴィブラート・ヴォイスを最も優美に響かせるための音場をストリクトに作り込む審美眼に転化されている。その結果としての美しく、力強い音の過不足ない集積。その繊細な配置とオーディオファイルの耳さえ満足させるだろう音質の快感に、齢70を超えた名歌手の特異なキャラクターが、見事にさらなる新鮮味を帯びて立ち上がってくる。