©Micheal Moodie

See A Man's Face
伝説的なレゲエ・シンガーのホレス・アンディが待望のニュー・アルバムで手を組んだのは、説明不要なOn-U総帥のエイドリアン・シャーウッド。御大の唯一無二な声から名唱を引き出した名匠の逸品を堪能しよう!

 「エイドリアンは音楽的にすごく頭の切れる人。彼はイメージしたものを完璧な形で音にすることができる。もちろんジャマイカのプロデューサーとは違う。ジャマイカの音はもっとハードコア。何と言うか、同じルーツでもジャマイカはハードコアでヘヴィーだけど、エイドリアンにはイギリス特有の音楽的な味つけがしてあるような感じ。どちらがいいとかではなく、エイドリアンのことは音楽的に素晴らしいと思ってる」。

HORACE ANDY 『Midnight Rocker』 On-U Sound/BEAT(2022)

 エイドリアン・シャーウッドをこう評するのはホレス・アンディ。70~80年代にスタジオ・ワンやワッキーズなどに数々の名作を残してきた伝説的なレゲエ・シンガーだが、そんな現役のレジェンドによるニュー・アルバム『Midnight Rocker』はシャーウッドの率いるOn-Uからのリリースとなった。90年代以降はマッシヴ・アタックに欠かせないコラボレーターとして新たなリスナーを獲得してきた彼だが、その後もアルファやアシュリー・ビードルとアルバムを制作したり、リヴァ・スターからMrジュークス、エミカに至るまで多彩な後進たちと仕事の幅を広げてきた一方、意外にもシャーウッドとのコラボはこれが初めて。もともと2019年に一緒にツアーしていた時点から制作の話は進んでいたようだが、ジャマイカ/UK間でのデータのやりとりはコロナ禍も相まってシャーウッドいわく「根比べのような制作過程」だったそうだ。それでも「完成を急ぐ必要もなかったし、早く仕上げることよりも、心から納得の行く作品を作ることに力を入れることにした」とのことで、実際に出来上がったアルバムには円熟したレジェンドの唯一無二な歌唱が最高の形でパッケージされている。

 全体の選曲はシャーウッドが行い、“This Must Be Hell”や“Mr. Bassie”など既存レパートリーのセルフ・カヴァーとなる4曲や、マッシヴ・アタック“Safe From Harm”(原曲の歌唱はシャラ・ネルソン)のカヴァーといったトピックも含みつつ、多くの楽曲は現代的な目線のメッセージを踏まえた書き下ろしの新曲だ(ソングライターにはLSKも名を連ねている)。制作に際してのシャーウッドはリー・スクラッチ・ペリーの『Rainford』や『Heavy Rain』に携わって学んだ取り組み方を踏襲したそうで、On-Uの精鋭ミュージシャンたちと共にじっくりアレンジやミキシングを練り上げている。「ホレスの声を際立たせるために彼の声の周りに十分なスペースを設けたかったし、メロディーが美しいから、他がそれを補う必要がなかったんだ。もともとジャマイカの音楽には、曲の中にたくさんのスペースがある。そして、ホレスの声を強調するためにも、今回のアルバムではそのスペースが重要だったんだ」とシャーウッドが説明する通り、サウンド自体の感触は極めて音数を抑制したシンプルな聴き心地で、主役の圧倒的なヴォーカルそのものや楽曲の備えたメロディーの味わいを際立たせている。

 「俺が作りたかったのは、自分がホレスのファンとして聴きたいホレスのレコードだった。それが形になって、皆がいま聴いているレコードが出来上がったというわけさ。俺は、ホレスの大ファンという視点から今回のアルバムを作ったんだよ」。