すでに名盤の誉れ高い『Midnight Rocker』に続き、最高にヘヴィーなダブが楽しめるサウンドシステム版『Midnight Scorchers』が登場! その狙いを仕掛け人のエイドリアン・シャーウッドが語る!
“This Is A Black Man’s Country”(67年)でデビューして以来、“Skylarking”などコクソン・ドッドと組んだ70年代スタジオ・ワン産の名曲群、さらに90年代以降に実現したマッシヴ・アタックら後進とのコラボなど、50年超のキャリアを通じて幅広い音楽ファンに親しまれてきたホレス・アンディ。51年にジャマイカのキングストンで生まれた彼はすでに70代の峠を越える大御所だが、彼が今年の初めにリリースした『Midnight Rocker』の現役アーティストとしての素晴らしい出来映えは、この偉大なレジェンドにまつわる記憶の更新を推奨するものだった。英ガーディアン紙は早くもその時点における年間アルバムのトップにその〈円熟期の傑作〉を挙げ、各方面から絶賛されている。レジェンドと組んで同作を作り上げたのは、言わずもがなのOn-U総帥にしてUKダブのパイオニア、エイドリアン・シャーウッドだ。多くの重鎮と仕事してきたエイドリアンだが、彼と大御所の仕事といえばリー・スクラッチ・ペリーの『Rainford』と『Heavy Rain』(共に2019年)が思い浮かぶ……ということで、当初から明かされていたように『Midnight Rocker』のダブ・アルバム『Midnight Scorchers』がこのたび堂々の登場となった。
「〈Scorcher〉というのはスラングで、〈素晴らしい〉〈カッコイイ〉という意味なんだ。スラングとして使われる〈on fire〉の意味と似ている。ダンスフロアでかかる最高にカッコイイ音楽ってことさ」(エイドリアン・シャーウッド:以下同)。
リーの『Heavy Rain』がそうであったように、もちろん『Midnight Scorchers』も単なる『Midnight Rocker』の丸ごとヴァージョン集という感じではなく、ディープなダブに仕立てたインストやゲストを迎えたダンスホール・リメイク、さらには『Midnight Rocker』に未収録の新曲も含み、サウンドシステム版によるオリジナル・セッションの〈続編〉と捉えたほうが近い。
「最初からプランしていたわけじゃないんだよ。まず『Midnight Rocker』の制作に入って、その後でレコードには収録されなかったものと、追加のトラックをレコーディングしたんだ。そして、それらを使ってサウンドシステム版のアルバムを作ることにした。だから『Midnight Scorchers』のトラックはDJバージョンや超ヘヴィーなサウンドシステムのダブ・ヴァージョンになっている。『Midnight Rocker』の兄弟みたいな存在が『Midnight Scorcher』なんだ。“Ain’t No Love”はカヴァー・ヴァージョンだし、“Feverish”はリメイク。『Midnight Scorchers』では『Midnight Rocker』に収録されたトラックの、最高かつまったく違うヴァージョンを楽しむことができる。ダディ・フレディやローン・レンジャーのヴァージョンや、チェロなんかも入ってすごくおもしろくなっているし、そこにホレスの曲や素晴らしいソウル・トラックのカヴァーが超ヘヴィーなサウンドシステム・スタイルで加わり、とびきりのレコードが生まれたんだ。これができるから俺たちはレゲエが好きなんだよ。ヴァージョンってものをここまで楽しめるのは、レゲエだけだからね」。
ローン・レンジャーとダディ・フレディというレジェンドの参加もトピックだが、インストの占める割合を増し、異なるビートや音素材も使って重厚に再構築した『Midnight Scorcher』は、やはりダブ・アルバムとしての旨味が圧倒的に濃厚。「普通のダブ・アルバムではなくて、それを超えた、何か特別なアート作品を作りたいと思った」と語るエイドリアンの純粋な狙いが見事に的中した素晴らしい一枚だ。なお、この後にはエイドリアンが世界各地の才能を招いた『Dub No Frontiers』も届くはず。そちらも覚えてはおきつつ、まずは『Midnight Rocker』と『Midnight Scorchers』の奥深いストーリーを存分に味わうこととしたい。
上から、9月30日にリリースされるエイドリアン・シャーウッドのニュー・アルバム『Dub No Frontiers』(Real World)、2022年のコンピ『Pay It All Back Vol. 8』(On-U Sound)