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 イタリアのヴェルディ音楽院を首席で卒業し、1988年にハンガリー国立歌劇場にてデビュー後はヨーロッパの名門歌劇場で活躍。オペラの人気演目に欠かせない〈リリコ・スピント〉に分類される輝かしい声を持つ、アジアが生んだ〈100年に1人〉の逸材として称賛を集めていた韓国人テノール歌手、ベー・チェチョル(1969年生)。2003年9月にはオーチャードホール公演『イル・トロヴァトーレ』で日本デビューも果たし、聴衆を大いに沸かせた彼はその頂期にあった2005年、突然甲状腺がんの宣告を受け、その摘出手術の際に声帯と横隔膜の神経を切断され、歌声に加えて右肺の機能を失ってしまう。だが彼の声に魅せられた多くの日本人ファンから支援の輪が広がり、2006年に京都大学名誉教授一色信彦医師による甲状軟骨形成手術に臨み、厳しいリハビリの日々を経て、教会などでの演奏活動を再開。3年後には奇跡とも云えるステージ復帰も遂げた。

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 NHKは2008年、再起に向けてリハビリを続けるチェチョルのドキュメンタリーを製作。大きな反響を得た同番組は後に海を越えてKBSでも放送され、その感動は韓国内にも広がったという(KBSがNHKから日韓に関わるドキュメンタリーを購入し、韓国全土で放送するのは異例のこと)。そこから生まれたのが、日韓合作による映画『ザ・テノール 真実の物語』である。

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 映画化の構想を打診されたチェチョルは先ず、本作のプロデューサーであるキム・Jenny・ジョンアに親友の音楽プロデューサー、輪嶋東太郎を紹介。ジョンアは日本で輪嶋と会って意気投合し、この「人々に希望を与える感動の物語」に彼の存在が不可欠なのを確信する。こうして本作は「がんで声を失った韓国人オペラ歌手と、彼を信じて支えた日本人音楽プロデューサー」それぞれの不屈の魂と、不滅の友情を描いたドラマとなるべく動き始める。

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 注目すべきは国境を越えた最高のスタッフとキャストが集結したこと。監督のキム・サンマンがチェチョル役に選んだのは、自身の長編第2作『ミッドナイトFM』で組んだ経験もあり、『オールド・ボーイ』や『人類資金』などで韓国映画界のホープとなったユ・ジテ。役に対する深い理解と演技力に加えて、英語に堪能であることも決め手となったようだ。そして輪嶋をモデルとする沢田幸司役には、同じく英語力に定評がある、日本が誇る演技派の伊勢谷友介。面白いことにこの2人は奇しくも同い年で、それぞれ俳優として活動する傍ら監督業にも熱心という共通点を持つ。それもあってか、彼らは初めて出会った時からすぐに打ち解け、その役柄と同様に強い友情を育んだという。そんな主役たちを支える女優陣も華やか。チェチョルの妻、ユニを演じるチャ・イェリョンはモデル出身の美貌に加え、本作では女優としての才能も開花。沢田のアシスタントとして活躍する型破りな新入社員、美咲役を好演した北乃きいが、劇中でギターと歌声を披露しているのも見逃せない。

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 次の注目ポイントは、テノール歌手の物語だけに、作品の中にオペラ・ファンなら思わず微笑まずにはいられない〈お楽しみ〉が散りばめられていること。特に本作の原題である〈THE TENOR LIRICO SPINTO〉が抒情的な繊細さと劇的な歌声に適した強靱さとを併せ持つ、テノール界の花形旗手を意味するとあって、期待は大いに高まるはず。果たして、イタリア語の歌詞を完璧にマスターし、発声から呼吸、歌う時の姿勢まで細かく指導を受けたユ・ジテに、チェチョル本人の全盛期の歌声で吹き替えられた歌唱シーンは圧巻! しかも冒頭の《誰も寝てはならぬ》(プッチーニ『トゥーランドット』)に加えて、クライマックスで超高音のハイCを響かせる《見よ、恐ろしい炎よ》(ヴェルディ『イル・トロヴァトーレ』)のハイライトまで堪能できるのが嬉しい。また『イル・トロヴァトーレ』からはメゾの《炎は燃えて》やソプラノの《恋はバラ色の翼にとって》などの聴かせどころアリアも登場する他、同じヴェルディの『リゴレット』や『オテロ』の旋律もふんだんに流れる。更には美咲役の北乃きいが、音楽事務所の面接の時にギターで掻き鳴らす《見よ、恐ろしい炎よ》や、公演の打ち上げで披露する《私を泣かせて下さい》(ヘンデル『リナルド』)の弾き語りも必聴だ。もっとマニアな方には、チェチョルが拠点としていたのはドイツのザールラント州立劇場?という設定なのにロケ地は別のオペラ・ハウス(セルビア)だったり、彼が最初渋っていた『イル・トロヴァトーレ』日本公演の出演承諾の決め手となったのが(イタリア・オペラ史上最高のメゾ・ソプラノとして名高い)伝説の歌姫フィオレンツァ・コッソットとの共演だったりする点に面白さを感じてもらえるかも。(映画の中のコッソットは恐らく別の歌手が演じていたと思う…何しろ、御年80歳近いので)

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 以上、あらすじについては触れなかったが、音楽で結ばれた2人の男の友情が世界に例のない奇跡を生み、感動のステージの幕を開ける瞬間をぜひスクリーンの前で見届けて欲しい。

 

MOVIE INFORMATION

映画「ザ・テノール~真実の物語」

君の歌声を、ふたたび。
ガンで声を失った天才オペラ歌手と、彼を信じて支えた日本人音楽プロデューサー。
不屈の魂から生まれた、世界でただひとつの奇跡と感動の実話!

監督・脚本:キム・サンマン 音楽:キム・ジュンソン
出演:ユ・ジテ/伊勢谷友介 チャ・イェリョン/北乃きい/ナターシャ・タプスコビッチ/ティツィアーナ・ドゥカーティ/他
配給:『ザ・テノール 真実の物語』プロジェクト (2014年 日本・韓国 121分)

the-tenor.com
◎10/11(土)新宿ピカデリー、東劇ほか全国ロードショー

 


 

intoxicate presents
特別試写会


映画「ザ・テノール 真実の物語」
特別試写会に35組70名様をご招待!

日時:10/2(木) 18:00開場 18:30開映
会場:松竹試写室

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