堀込高樹の作曲論

──それにしても、ソロ体制のKIRINJIになってからは仕事がかなり矢継ぎ早というか、制作面での継続モードがより強く意識されているようにも感じます。

「どうなんですかね? よく思うのは、僕らくらいの年齢のアーティストって、今ここで、じっくり腰を据えて、みたいなことをやっていると、1、2年くらいすぐ経っちゃうんですよ」

──確かに、いろんな局面で腰を据えがちになりますね(笑)。

「一度据えたら、なかなか立てないですから(笑)。なので、〈僕は腰を据えないようにしよう〉と思ったんです。2020年からコロナでライブ活動が活発にできなくなって、そんな状態でグループの編成も変えた。そういうことがあると活動自体がどんどん停滞してゆくから、ここはちょっと頑張って制作を活発にやらないと、と思いました。体制も変わったことをアピールしたいですし。これで〈2年は新曲出しません〉みたいな感じでやっているとリスナーにも完全に忘れられちゃいますし」

──シングルを間隔を空けずに出していくことで注目をキープするというのは、世界的な流れでもありますよね。

「〈ああいう3ヶ月に1曲出すようなパターンって自分にもできるかな?〉って考えました。海外だとコライトといって、いろんな人が曲作りに関わっているからあのスパンで出せるんじゃないかな、とか。僕の場合は、〈あいつは曲がやっぱり面白いよね〉ってところがアイデンティティーだから、あまり他の人に委ねてしまうのは危険なんじゃないかなと感じていて、コライトという領域には踏み込めていない。でも、年に2、3曲だったら出せるかなと自分に喝を入れています」

──逆に、作った曲をあえて寝かせることもありますか?

「あんまりないですね。最近は作ったらすぐ出すというパターンになっています。ストックがほぼないから、出来た曲を次々に出しています」

──でも、ストックがないから困ったな、ということでもなさそうです。

「そうですね。なかったら〈じゃ、書くか〉みたいな感じです(笑)。まったくストックがないわけじゃないんですよ。でも、前に作りかけた曲を聴き返してみても、あんまり今の気分じゃなかったりするし、いろいろいじってみても結局ものにならないということがわりとあるので。でも、それは昔から変わりませんね。ストックを振り返るのはあんまり面白くないなと思う性質なんです」

 

自分の作品ばかりに力を注いでしまう

──堀込高樹の作曲論としては、あまり貯めない、振り返らない。興味深いですね。

「同じくらいの年代だとプロデュースとか楽曲提供にシフトしていく人も多いですが、僕はそういうタイプではない。ある意味プロデューサー志向の人は偉いとも思います。人の面倒を見ようということだから」

──でも、高樹さんは若い頃からそっち側と見られがちだったのでは?

「そうなんですよ。眼鏡のせいだと思うけど(笑)」

──〈そっちじゃないんですよ〉ということを自分の作品を出すことで主張し続けてきたのがKIRINJIの歴史なのかなと思いますね。

「職人的なことができるタイプと思われているんですよね。でも僕は誰かをプロデュースしてどうにかするよりは、自分の曲を作りたいなと思ってしまう。

これまでに何曲も書いていますが、提供した人に会うことも基本的にありません。藤井隆くんの “わたしの青い空”は本間(昭光)さんが、“未確認飛行物体”はCHOKKAKUさんが僕のデモをすごく尊重してくれて仕上げてくれたからうれしかったなあ。

藤井隆の2004年作『オールバイマイセルフ』収録曲“わたしの青い空”。作詞作曲は堀込高樹

とにかく、僕は面倒見がよくないんですよ(笑)。自分の作品ばっかりに力を注いでしまう」

──究極的にいうと、自分大好きということなのでは?

「自分のことが好きすぎる50代ってちょっと困りものですよね(笑)。でも、〈次にこういうものを作りたい〉という気持ちが途切れずにあるということだし、作品を常にリリースできる環境を整えるように頑張っています」