©Kana Tarumi

堀込高樹のソロ・プロジェクトとして新たに船出したKIRINJIが初のアルバムを完成――時代の気分と自分の気分を投影された『crepuscular』の薄明かりは何を照らす?

不安もあるけど希望もある

 昨年末、約8年間のバンド体制での活動にピリオドを打ち、堀込高樹のソロ・プロジェクトとして新たな船出を切ったKIRINJI。今年4月には、コロナ禍での心情、人恋しさをリリックに映し出したメロウ・チューン“再会”を配信。続いて7月には、フィメール・ラッパーのAwichをフィーチャーした“爆ぜる心臓”をリリース。いつになくヘヴィーな質感を湛えたサウンドの“爆ぜる心臓”は、映画『鳩の撃退法』のために書き下ろした楽曲とはいえ、KIRINJIの新しい側面を見せた、言わば意欲的な楽曲だった。そして8月には現体制となって初のライブを開催……というここまでの流れ。そして、さらなる新曲が編まれていく。

 「作り方は変わりません。バンドでやってたときも、僕が作り込んだデモを生演奏に差し替えるという制作方法でしたから。ただ、演奏する人が変わると、当たり前ですがグルーヴが変わったり音色が変わるので、それによってまたフィードバックがある。今回、新しい人たちに参加してもらって、そのニュアンスがどこまで聴く人に伝わるのかわかりませんが、自分としては大きな手応えを得ました」。

KIRINJI 『crepuscular』 ユニバーサル(2021)

  宮川純(キーボード)、伊吹文裕、石若駿、橋本現輝(すべてドラムス)、角銅真実(マリンバ、パーカッション)、川口義之(バリトンサックス)──バンド体制のときから引き続き参加している千ヶ崎学(ベース)以外〈新しい人たち〉を迎えて編まれ、そうしてこのたび届けられたのが『crepuscular』。前作『cherish』から約2年ぶりのニュー・アルバムである。

 「〈crepuscular〉とは、パッとしないけど、お日様の光を見るとちょっとアガるなぐらいのムードというか、〈3.11〉のあとに街の電気が消えて、コンビニに入っても照明がぼやーっとしてる感じがあったじゃないですか。あの感覚をこの1、2年で思い出して。不安もあるけど希望もある、みたいなアンビバレントな感じ。はじめは〈薄明光線〉みたいなものをタイトルにしようと思いましたが、その手のワードを曲名やアルバムのタイトルにしているアーティストが、ここ一年ぐらいけっこう多くて。まあ、うすぼんやりしてるなかで毎日暮らしてるから、みんなそういう気分なんだろうなって思ったし、いい兆しを求めてるっていうことなんでしょうね。それで、何か他にいい言葉がないかと考えて、クレプスキュールっていうレーベルがベルギーにあって、確かトワイライト的な意味じゃなかったっけ?って調べてみたら、あれはフランス語でしたけど、英語だと〈crepuscular〉。あまり聞き慣れてる言葉でもないし、小文字で書くとカワイイなとか、楽しい感じがするなと思って」。