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アジア音楽に過去のものを新鮮に響かせるヒントがある

──自分と自分を取り巻く社会や環境を音楽に反映してゆくのがいちばん面白いってことなんでしょうね。それがポップソングとしてみんなが聴きたいものにハマってるわけだから幸福なことです。

「それはうれしいことですよ。そして、自分の音楽がポップスとして機能するかということは常に考えています。口ずさめないものは止めようとか。凝ってはいるかもしれないけど、難しいことはあんまりやってないと思います。歌詞も最近の僕の曲はわかりやすいですし」

──それこそデビューされてからポップスの形もだいぶ変わってきてるじゃないですか。

「あんまりそこは意識しないです。聴いてきた音楽は基本的に60年代から80年代くらいのものなので、そこは逃れられない。やっぱり起承転結のある曲が好き。

ただし、曲の構成が今っぽいかどうかは結構気にしますね。今回の“Rainy Runway”は、イントロがほぼありません。1番、2番、エンディングという構成。最近は若者には飛ばし聴きされると話題のギターソロもエンディングにはあるけど、中間部分にはない。最初はイントロも間奏も作ったのですが、それがあるとちょっと昔のJ-Popみたいな顔つきの曲になるなと。時間の流れの感じ方みたいなものは、今の音楽に準じたほうがいい。

そういうところとミックスのバランスを意識して、〈こういうのKIRINJIらしいよね〉と自分なりに思えるところに落とし込んでいく。そういうことを今回のシングルでは考えました」

──イントロの話もそうですけど、決断が大胆なところが高樹さんにはある気がします。

「結構(イントロをなくすのは)勇気がいるのですけどね。いいイントロができちゃったらどうしても鳴らしたくなるじゃないですか。それに、イントロをつけると間奏をしっかり作りたくなる。でも今回は、前置きなしでいきなり本題に入った感じでも、聴いた後に物足りなさを感じない曲になりました。

最近、僕のラジオ番組(α-STATION『NEW MUSIC, NEW LIFE』)で(ライブハウス〈月見ル君想フ〉店主の)寺尾ブッタさんがアジアの曲をいろいろ紹介してくれるコーナーがあります。そこでかかる曲はシティポップ的なフレイバーはあるけど、ノリはヒップホップやダンスミュージックで、構造は基本的にはループという曲が多い。ワンコード、ワンループでつなげているけど、曲として聴き飽きさせないような工夫がすごく練られていると思います。

今回“Rainy Runway”も、1番、2番と単に2回同じ展開を繰り返しているだけじゃなく、実はコードやメロディーを結構変えています。昔からあるようなものを今どうやって新鮮に響かせるかということについては、アジアの音楽を聴いているとヒントがありますね。〈そうか、これを俺もやればいいんだ〉って思う。自分で作りはじめると結局16小節で完結するものにしてしまうのですが、そういう今の流れを意識するかしないかでだいぶ仕上がりは違うと思います」

 

夢見がちな50代?

──6月18日からは、西日本を中心に10ヶ所をまわる初の弾き語りツアー(〈KIRINJI 弾き語り ~ひとりで伺います〉)ですね。これも新しい試み。

「芸の幅というか表現の幅を広げようと思っていて(笑)。

というか、コロナ禍でぜんぜん地方にライブに行けてなかった。バンドで行くとなると大ごとですけど、1人の弾き語りなら動けるので、細かく回ることにしました。まさか自分でもこのキャリアのこのタイミングでやると思ってなかったですけど。東北のほうにも、雪が降らないうちに行けたらいいですね」

──弾き語りって曲の骨格をはっきりさせていく作業なので、自分の曲の構造をとらえ直すいい機会かもしれない。

「骨格さえちゃんと押さえておけば、あとは比較的自由に曲を解釈できる。もともとキーボードで作っていた曲をギターに置き換えるのでコードを少し変えなきゃいけなかったり、弾き語りだと曲が短くなるので1時間半のライブは大変ですけど、そういう作業も面白いです」

――さだまさしさん的な長めのしゃべりもあっていいのかも(笑)?

「弾き語りの方が曲間にしゃべるのは、よくわかります。というのも、弾き語りで間奏などをカットして演奏すると、曲がかなり短くなって、〈この曲5分くらいあったのに、おかしいな?〉ってなるんですよ。だから、MCで余計なことをしゃべらないように気をつけないと(笑)。

せっかくだから、全公演テープを回して録音してみたいな。グレイトフル・デッドがやっていたように、お客さんがライブを録音して共有する、NFTにする、みたいなことも、もっと弾き語りが上手になったらやってみたいですね」

──え、それもすごいアイデアですけど、権利関係とか大丈夫なんですか?

「いや、そこはどうかわからないですけどね。なんか、夢見がちな50代みたいで恥ずかしいなあ(笑)!」

 


RELEASE INFORMATION

KIRINJI 『Rainy Runway』 Verve/ユニバーサル(2022)

リリース日:2022年6月22日
配信リンク:https://KIRINJI.lnk.to/Rainy_Runway

TRACKLIST
1. Rainy Runway

 

LIVE INFORMATION

弾き語りワンマンライブ
KIRINJI 弾き語り ~ひとりで伺います

2022年6月18日(土)鹿児島 ライカ南国ホール
開場/開演:18:00/19:00
https://li-ka1920.jp/news/archives/59

2022年7月8日(金)京都文化博物館 別館ホール
開場/開演:17:00/18:00
http://www.bunpaku.or.jp/

2022年7月9日(土)兵庫・神戸 海辺のポルカ
開場/開演:17:00/18:00
https://www.umibenopolka.com/

2022年7月10日(日)岡山 蔭凉寺
開場/開演:17:00/18:00
https://www.facebook.com/蔭凉寺-296590397054722/

2022年7月22日(金)佐賀 浪漫座
開場/開演:18:00/19:00
http://www.romanza.jp/

2022年7月23日(土)熊本 早川倉庫
開場/開演:17:00/18:00
https://hayakawasouko.com/

2022年7月24日(日)福岡 森本能舞台
開場/開演:17:00/18:00
http://m-nohbutai.com/

2022年8月26日(金)高知 蛸蔵
開場/開演:18:00/19:00
https://www.tacogura.com/

2022年8月27日(土)愛媛・松山 萬翠荘
開場/開演:14:00/15:00
http://www.bansuisou.org/

2022年8月28日(日)香川 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 2階ミュージアムホール
開場/開演:15:00/16:00
https://www.mimoca.org/ja/

SUMMER SONIC 2022
2022年8月20日(土)、21日(日)千葉・幕張 ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ
※KIRINJIは8月20日に出演
https://www.summersonic.com/

BABY Q 大阪場所
2022年9月3日(土)大阪市中央公会堂 大集会室
出演:大橋トリオ/KIRINJI/矢野顕子
https://day-off.today/

 


PROFILE: KIRINJI
96年、堀込高樹、泰行の実兄弟で〈キリンジ〉を結成。97年のインディーズデビューを経て、翌年メジャーデビュー。2013年、堀込泰行がキリンジを脱退。同年に新メンバー5人を迎えバンド編成〈KIRINJI〉として再始動。2021年からは堀込高樹のソロプロジェクト〈KIRINJI〉として活動中。自身の作品の他、様々なアーティストへの楽曲提供やドラマ、映画のBGM、テーマソング制作等、幅広い分野で活躍している。音楽への深い造詣に裏打ちされたジャンルにとらわれない曲作り、アップデートし続けるサウンドプロダクション、ユニークな視点から繰り出される詞世界は、音楽ファンのみならず多くのミュージシャンや著名人からも支持を得続けている。