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コラム

ウー・ルー(Wu-Lu)『LOGGERHEAD』南ロンドンの気鋭音楽家が奏でる、ヒップホップからオルタナまでが渦巻く混沌とした世界

 「俺ってミニマルなサウンドが好きなんだけど、自分では作れないんだ(笑)。どうしてもいろいろ加え続けてしまう。思いついたものを乗せ続けていくから、コラージュがどんどん大きくなってくんだ。果てしないんだよ」。

 そう語るのはウー・ルーことマイルス・ロマンス・ホップクラフト。南ロンドンを拠点にプロデューサー/ミュージシャンとしてオスカー・ジェロームやエゴ・エラ・メイらの作品に参加してきた彼だが、一方では2015年の初EP『Ginga』以来コンスタントに自身名義の楽曲リリースも重ねていた。昨年は北ロンドンのレックス・アモールをフィーチャーした“South”、数年来の友達だというモーガン・シンプソン(ブラック・ミディ)がドラムを叩くパンキッシュな“Times”を立て続けに発表した後にワープと契約。退廃的な突進力を備えた“Broken Homes”を経て、このたび初のフル・アルバム『LOGGERHEAD』の完成に漕ぎ着けた。そこに渦巻く混沌のエナジーをどう形容するかはさておき、独自の分厚いサウンド・コラージュを軸にしたミクスチャーな表現の轟きは、本人の長年の嗜好や最近のリスニング傾向を聞けば明快に響くかもしれない。

 「スリップノットのファースト・アルバム(99年の『Slipknot』)はいつも聴いていて、いまだに影響を受けているんだ。あとはDJシャドウの『Endtroducing.....』にも昔からずっとインスピレーションを貰っている。あとはバックロード・ジーとかUKドリル系の音楽も聴いていた。集中して聴いたり取り入れようとしていたわけではないけど、UK系の音楽にはこれまで以上にハマっていたかも。レゲエも聴いてたな、リー・スクラッチ・ペリーとか」。

WU-LU 『LOGGERHEAD』 Warp/BEAT(2022)

 プロダクション面で影響を受けた先人としてはシャドウやディラ、ダンジョン・ファミリー~アウトキャスト、ピンチらの名を挙げ、歌唱面ではルーツ・マヌーヴァのようなラッパーやデーモン・アルバーンに影響されてきたそうで、統制されたノイズと演奏をダイナミックに編み上げた『LOGGERHEAD』は、まさに『Endtroducing.....』的な密度とエクスペリメントを継承した進化形ヒップホップとして捉えられるし、聴き手によってはそのまま昨今のUK新世代バンド・シーンの流れで受容されるものだろう。

 「アルバムの制作を考えはじめたのは、最初のロックダウンの少し前。EPもシングルも出したし、次はもっと大きいものを作ろうと考えていた時に、俺のバンドのベース・プレイヤーのいとこがロンドンでパブをやっていて、その店がロックダウン中は閉まるから、そこに1週間くらいこもってドラマーと3人で練習しようという話を持ちかけてきたんだ。で、機材なんかも持ち込んで、練習だけじゃなく皆でジャムをやるようになった。毎日パブの中で飲みながら何時間も集中して作業を続けて、それがアルバム制作の始まりになったんだ。で、その合宿にインスパイアされて、皆でこのままノルウェーに行こうって話になった。デモを作るのが目的だったんだけど、結果的にアルバムの80~90%くらいがノルウェーの山奥で出来上がったと思う。昼間はとにかくジャムをやって、夜はコンピューターの前に座ってそれをチョップして繋げる毎日だった」。

 演奏の主軸を担ったのはバンド・メンバーのジョーダン・トンプソン・ハッドフィールド(ギター)、タガラ・ミーザ(ベース)、ジェガ・ゴードン(ドラムス)といった顔ぶれで、元ブラック・ミディのマット・ケルヴィンも数曲でギターを演奏。彼らとのセッションから生まれた弾力のあるブレイクビーツとインダストリアルでノイジーな緩急の意匠に、ディストーションのかかったリリシズムが吐き出されていく。

 収録曲は先行カット以上に多彩で、ソーリーのアーシャが声を添えた爆発的にグルーヴィーな“Night Pill”、ドリルンベースとUKドリルの間を行くようなアモンとのラップ・チューン“Facts”、パルチザンからEP『You Of Now Pt. 1』を出したばかりのレア・センが〈あなたの心の健康が悪化するのを見たくない〉と繰り返すダークな“Calo Paste”などのコラボも収録。ドライヴ感のあるベースがゴリゴリと迫る“Scrambled Tricks”、ツイン・ドラムのラウドなループにスリー6マフィア風味のフロウが粘つく“Blame”、演奏の鋭角をダブで研磨したような“Ten”など、密度の濃い楽曲が並ぶ。「子どもの頃から好きで聴いてきた音楽をすべて取り入れたくなった」と説明するように、ジャズ、ジャングル、ダブ、ポスト・パンク、オルタナなどサウンドの断面は色とりどりだが、すべてがヒップホップ・オリエンテッドなウー・ルーならではの独自性へと昇華されているのが最高だ。そんな混沌の音世界を象徴するかのように自己の内面を表現したアートワークも示唆的なものに映るかもしれない。

 「ここ数年で、自分にとって急激な転換点が訪れた。人と意見が合わないからといって、抱え込むのではなく、きちんと自分の考えを表に出すことも大切だということがわかったんだ。アルバムのジャケットは、まさに俺の頭の中。1人の俺は戦う気満々で、もう1人はどうすればいいかわからない。そしてもう1人は現実から目を逸らしている。そんな状態を表現したのがこのジャケットなんだ」。

 


ウー・ルー
本名マイルス・ロマンス・ホップクラフト。ロンドンを拠点に活動するプロデューサー/マルチ・ミュージシャン/ヴォーカリスト。2015年のファーストEP『Ginga』を皮切りにコンスタントな楽曲リリースを始め、2018年のコンピ『Brownswood Bubblers Thirteen』に“Sailor”が収録されて注目を集める。並行してオスカー・ジェローム、ザラ・マクファーレン、エゴ・エラ・メイ、ヴィジョニストらの作品に参加。2021年にワープと契約して“Broken Homes”を発表する。注目を集めるなか、ファースト・アルバム『Loggerhead』(Warp/BEAT)を7月8日にリリースする予定。

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