台北を拠点とするジャズグループ、Zy The Way 中庸が、中国最古の詩集「詩経」をモチーフにしたアルバム『Then And Now 溯』を2024年11月22日にリリースした。本作は3000年以上前に書かれた詩を、ボーカルジャズとして現代に蘇らせるというコンセプトのもと、恋愛や友情、労働、自然といったテーマを描いた10曲を収録。東洋と西洋、過去と現在をつなぐ旅へとリスナーを誘う意欲作だ。
また、本作では、文学者アニー・ルーマン・レン(Annie Luman Ren)博士と協力し、詩の解釈が歴史的・文化的に妥当性を保つよう注意が払われている。
Zy The Wayは、ケイトリン・マギー(凱琳/Caitlin Magee:ボーカル)、マット・フレン(傅麥特/Matt Fullen:ピアノ)、リン・クーアン(林克安:ベース)、マー・シーハン(馬仕函:ドラムス)、ツァイ・ズーヨン(蔡子雍:詩の朗読/ビジュアルアート)によって2019年に結成された。独創的でボーダーレスなサウンドと、ケイトリンの巧みな表現が魅力だ。2023年に発表したEP『A Different Destiny』で注目を集め、アメリカのジャズ誌「ダウンビート」からも高評価を得た。
本記事では、ケイトリンと2021年以来彼らのグローバル配信やヴァイナル制作を手がけてきたレーベル〈Jazzy Couscous〉を運営するAlixにインタビューを行い、バンド結成やコンセプト発案の経緯、アルバム制作の裏側、台湾ジャズシーンにおける挑戦について語ってもらった。
ケイトリンが出会ったジャズと台湾文化
――ケイトリンさんの生い立ちから、キャリアを開始させるまでの経緯を教えてください。
ケイトリン・マギー「母は台湾人で、父はオーストラリア系アイルランド人です。父は外交官だったので、私は18歳になるまでの間に、台湾、オーストラリア、中国、サウジアラビア、ロシア、シンガポールに住んだ経験があります。16歳で台湾に移り、アメリカンスクールに入学しました。
それまでオーボエとクラシックを学んでいたので、音楽の授業では吹奏楽に参加しました。ある日、私が練習室で歌っているのを聞いた教師が〈君はジャズシンガーとしての才能がある〉と褒めてくれたんです。そして、ジャズのレコードを貸してくれたので聴いてみたところ、すっかり魅了されました。その後、オーディションを受けて、ジャズアンサンブルに移りました」
――ジャズと出会ったのも台湾なんですね。
ケイトリン「そうです。その後、ジャズに専念するようになり、スタンダードを学びました。私がジャズアンサンブルに所属していた年は、才能のある若手が集まっていて、台湾で最大のジャズフェスティバル〈Taichung Jazz Festival〉で演奏する機会を得ました。その出演をきっかけに、ジャズクラブに出入りするようになり、ジャズ漬けの生活を送るようになりました。
卒業後はオーストラリア国立大学で法律とジャズを学びましたが、法律は好きではなく、台湾の〈華語文奨学金〉に応募し、2017年に台湾へ移住しました。〈華語文奨学金〉は、外国人が台湾に来て中国語を学ぶプログラムで、生活費もカバーしてもらえます。留学中、ルーツである台湾文化に触れ、人生を再発見した想いでした。そして、〈音楽を本格的にやろう〉と決心しました。
しかし、家族は大学を卒業することを希望していたので、一度オーストラリアに戻り、学位を取得した後、2018年末に台湾に戻りました。そして2019年にZy The Wayを結成しました」