2021年11月6日、台湾発のインディーミュージックの祭典〈金音創作奨 Golden Indie Music Awards〉(以下、GIMA)の第12回授賞式が開催された。
GIMAは台湾のインディーアーティストの多様でオリジナルな表現を促すべく、2010年に設立されたミュージックアワード。その名の通り〈インディー〉にフォーカスした賞となっており、独自性が高く、優れた作品を生み出す数多くのアーティストたちにスポットライトを当ててきた。〈台湾のグラミー〉としても知られている金曲奨(GMA)の各賞がマンダリン・台湾語・客家語・原住民言語と言語をベースにカテゴライズされているのに対して、GIMAでは言語の壁がなく、ジャンルによってカテゴライズされているのが大きな違いだ。
2021年のGIMAのコンセプトは〈クリエイト&イノベート〉。チーム体制も一新し、バンド1976のボーカリスト、陳瑞凱(Raykai Chen)氏がチーフキュレーター、滅火器(Fire EX.)といった有名アーティストのコンサートを手がけてきた何明鴻(Ming Hong Ho)氏がプロデューサーを務めている。
注目の受賞者たち
〈ベストオルタナティブポップソング賞〉を受賞したのは林以樂(Yile Lin)の楽曲“沙漠玫瑰與駱駝(Desert, Roses And Camel)”。インディーポップバンド〈雀斑(Freckles)〉やシュゲイザーバンド〈Boyz & Girl〉の活動で知られており、2013年にマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのオープニングアクトも務めている。また、青葉市子と台湾・韓国・日本ツアーを行うなど、国際的に活躍しているシンガーソングライターだ。その独自の世界観や、普遍的なメッセージ性が評価されての受賞となった。
〈ベストフォークアルバム賞〉は台湾系アメリカ人シンガーソングライター/弦楽器奏者の陳思銘(David Chen)と、ピパ(琵琶)奏者の鍾玉鳳(Chung Yufeng)によるコラボレーションアルバム『垂釣島嶼(Island Catch)』が受賞。ギターやバンジョーを弾き、ブルースやカントリーなどのアメリカンルーツミュージックを素地とする陳思銘と、幼少期から台湾でピパを学び、ジャズやロックなどさまざまなクロスオーバーを経験してきた鍾玉鳳が、音楽でコミュニケーションを取りながら、自分達のアイデンティティーを模索するという実験的なコンセプトが高く評価された。
〈ベストプレイヤー賞〉を受賞したのは、吳政君(Cheng Chun Wu)、陳思銘(David Chen)、若池敏弘の3人。吳政君は台湾で最高峰のパーカッショニストとみなされており、レコーディングからライブまで数多くのセッションに参加している。またアフリカの打楽器にも精通しており、その専門性も評価された。陳思銘はギターをはじめとするさまざまな弦楽器を弾きこなすマルチ奏者であることに加え、歌唱力の高さも受賞理由となった。若池敏弘は台湾を拠点に活動している日本人のエスラジ/タブラ奏者。台湾でのインド音楽の普及に努めている点などが高い評価を得た。
〈ベストジャズソング賞〉を受賞したのは、ヴィブラフォン奏者の魯千千(Chien Chien Lu)によるデビューアルバムの表題曲“The Path”。魯千千は国立台北芸術大学でクラシック音楽、アメリカのフィラデルフィア芸術大学でジャズを学び、〈Clifford Brown Jazz Festival〉などの権威ある音楽フェスティバルで演奏し、ヨーロッパやアジア、アメリカでツアーも行っている実力派だ。同アルバムに収録されている、台湾民謡の“雨夜花”をジャズへアレンジした楽曲“Blossom In A Stormy Night”も必聴。日本でもPヴァインから国内盤のCD/LPが発売されている。
アジアで最も優れた作品を讃える〈ベストアジアンクリエイティブアーティスト賞(亞洲創作音樂獎)〉を受賞したのはベトナム系フランス人のDJ/プロデューサー、Nodeyのアルバム『:-)』。ベトナムとフランス、中国の文化の融合を試み、ベトナムとアジアに対する前向きなビジョンが表現されている点などを評価されての受賞となった。
〈特別貢献賞〉を受賞した伝説のレコード販売員、吳武璋による熱いスピーチ
台湾のインディーシーンの発展に貢献した人物に贈られる〈特別貢献賞〉は誠品書店の伝説的なレコード販売員、吳武璋に贈られた。
音楽を熱心に聴き、学び、さまざまな音楽を台湾に輸入し、紹介してきた人物で、台湾のレコードバイヤーやアーティスト、DJに多大な影響を与えている。客の質問に対して丁寧に答え、いい音楽に出会えるように、いつでも力になってくれる先生のような存在で、台湾の音楽関係者からの人望も厚い。吳氏は授賞式で10分以上もの熱のこもったスピーチを展開した。以下はその中からの引用となる。
若い人たちへ、レコード店で働きたいと思ったことはありますか? 私はレコード業界についてずっと情熱を持ってきました。
先ほど、みんなで血肉果汁機(Fresh Jucier)のライブを観て、圧倒されました! もし私が彼らのCDの帯文を書くならこう書くでしょう。〈辛い食べ物はいかが? 青白くなってませんせんか? あるいは貧血? それならこのジュースを持ち帰ってください – ‘血肉果汁機’ – きっと良くなりますよ!〉。
あなたのアイデアに限界はありません。あなたの好きなように音楽を紹介してください。最も大切なのはあなたの情熱を伝えて、それを人々に感じさせることです。
吳武璋の受賞スピーチより一部抜粋