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エモにとどまらない音楽を追求、しかしメンバー間には亀裂が

ファーストアルバムがヒットしたことで、クリエイティブ面の自由を得たことが大きかったのか、エモだけにとどまらない音楽を追求したいと考える若いバンドのサウンドは、2008年3月にリリースしたセカンドアルバム『Pretty. Odd.』で中期ビートルズを連想させるサイケデリックでオーケストラルなポップに変化。度肝を抜かれたファンはすくなくなかったと思うが、それでも全米2位の大ヒットになったのは、作品のクォリティーの高さもさることながら、当時のP!ATDにはそれだけの勢いがあったということだろう。

PANIC! AT THE DISCO 『Pretty. Odd.』 Decaydance/Fueled By Ramen/ワーナー(2008)

2008年作『Pretty. Odd.』収録曲“That Green Gentleman”

しかし、あまりにも過激な変化はメンバー間に亀裂を生み、ライアンとジョン・ウォーカー(ファーストアルバム発表後に脱退したブレントの後任)は『Pretty. Odd.』の路線をさらに追求するために新バンド、ヤング・ヴェインズを始め、P!ATDを去っていった。一方、残ったブレンドンとスペンサーはファーストアルバムのエモサウンドに回帰した上で、よりゴシックに、さらにゴージャズに鳴らしたサードアルバム『Vices & Virtues(悪徳と美徳)』を11年3月に発表。2人組のP!ATDとして、バンドサウンドを立て直そうとした同アルバムは全米7位を記録した。

PANIC! AT THE DISCO 『Vices & Virtues』 Decaydance/Fueled By Ramen/ワーナー(2011)

2011年作『Vices & Virtues』収録曲“The Ballad Of Mona Lisa”

 

バンドサウンドからの解放、ソロ化で音楽性はより多彩に

なかなかの健闘だと思うが、2人になったのにバンドサウンドにこだわっているなんてナンセンスだとその後、ブレンドンとスペンサーが考えたことは、2013年10月の『Too Weird To Live, Too Rare To Die!(生かしておくには型破り過ぎるが、殺すにはレアすぎる!)』を聴けば、明らかだった。そこで2人はいわゆるバンドサウンドから解放され、ヒップホップ、ディスコ、ニューウェーブ、70~80年代のシンセサウンドといった雑多な要素を取り入れながら、時代にふさわしいダンスポップサウンドを鳴らし始めていた。

PANIC! AT THE DISCO 『Too Weird To Live, Too Rare To Die!』 Decaydance/Fueled By Ramen/ワーナー(2013)

2013年作『Too Weird To Live, Too Rare To Die!』収録曲“This Is Gospel”

その『Too Weird To Live, Too Rare To Die!』は全米2位の大ヒットになり、P!ATDが再び勢いを取り戻したことを印象づけたが、2015年に依存症の治療のため、スペンサーがP!ATDを脱退。ついにソロになったブレンドンは敢えてそれを転機と捉え、外部から多数のソングライター、プロデューサーを迎え、P!ATDのサウンドをさらに発展させつつ、稀代のボーカリストとしての魅力を磨きあげていった。その成果が冒頭に書いた『Death Of A Bachelor』と『Pray For The Wicked』だ。

PANIC! AT THE DISCO 『Death Of A Bachelor』 DCD2/Fueled By Ramen/ワーナー(2016)

PANIC! AT THE DISCO 『Pray For The Wicked』 DCD2/Fueled By Ramen/ワーナー(2018)

その2枚でもゴスペル、アリーナロック、サーフミュージックの要素を加え、P!ATDのサウンドはさらなるを広がりを見せていたが、とりわけ前者のクルーナー(“Death Of A Bachelor”)、後者のスウィングするビート(“Roaring 20s”)といったジャズの影響の導入は、新境地をアピールするものとして話題になった。

2016年作『Death Of A Bachelor』収録曲“Death Of A Bachelor”

2018年作『Pray For The Wicked』収録曲“Roaring 20s”