さあさあ、ブレンドン劇場の第二幕が開演だ! とびきりゴージャスでちょっぴりシアトリカルな歌と共に、高い希望を持って自由を謳歌し、人生を祝福し、自分を信じ、不道徳者たちに祈りを捧げよう!!

ブロードウェイでの経験を原動力に

 パニック!アット・ザ・ディスコ(以下:P!ATD)の前作『Death Of A Bachelor』は、スペンサー・スミス(ドラムス)が脱退し、ブレンドン・ウーリー(ヴォーカル)のワンマン・バンドになって最初のアルバムだったが、周囲の心配をよそにキャリア初の全米チャート1位を獲得するなど大成功を収める結果に。あれから2年、上昇気流に乗るブレンドンが過去最高にP!ATDらしい強力なニュー・アルバム『Pray For The Wicked』を完成させた。これまでの作品にも採り入れてきたミュージカルの要素をより拡大し、それをダンサブルでダイナミックでキャッチーな極上のポップに書き換えた見事な一枚だ。

PANIC! AT THE DISCO 『Pray For The Wicked』 DCD2/Fueled By Ramen/ワーナー(2018)

 前作のツアーを終えた後、ブレンドンはNYへ向かった。人気ミュージカル「キンキーブーツ」の主役に抜擢されたためだ。そして、子どもの頃からの夢だったというブロードウェイの舞台が、この新作にも大きなインスピレーションを与えている。ストリングスが盛大に鳴り響くオープニング・トラック“(Fuck A)Silver Lining”はまるで豪華なミュージカルの幕開けのようだし、〈ブロードウェイは下水穴のように黒い〉と舞台俳優としての体験に触れた“Roaring 20s”も物語のクライマックスをイメージさせる壮大な出来映えだ。

 「ミュージカルの経験は『Pray For The Wicked』に大きく影響しているよ。ブロードウェイって音楽的に凄くやるのが大変なんだ。かなり多くのことを要求される。あんなに大変だとは知らなかったよ。でも、演技と歌とダンスを合わせた舞台のエネルギーが、このアルバムの原動力になったことは間違いないし、今後のライヴでもそれを紹介していくつもりだよ」。

 『Pray For The Wicked』の制作は、かねてから親交のあるプロデューサーのジェイク・シンクレアを中心に、サム・ホランダーら友人のソングライターたちと共同で行なわれた。気の置けない仲間との作業はとにかく楽しかったそうで、持ち前のメランコリックなメロディーを散りばめつつ、全体としてかなり明朗なアルバムに仕上がっているのは、きっとレコーディング現場のムードも反映されてのことだろう。そうした雰囲気で作品に統一性を持たせながらも、各曲のサウンドはヴァラエティーに富んでおり、実験的なナンバーがいくつも存在。そのさまざまな曲調に合わせ、ブレンドンのヴォーカルもかつてないほど表情豊かに。例えば“King Of The Clouds”では美しいファルセットを聴かせ、“Old Fashioned”ではレゲエっぽいフロウも披露する。