
推し活は尊く敬虔? いやいや、本音で話そうぜ!
――ここで“そうだろうどうだろう”につながる(笑)。
「近年、消費のあり方は多様化したし、今や必ずしも男性が女性を消費するっていう時代ではなくなったんですけど、それはいいことでもある。ただ、非常にえげつない〈消費〉が跋扈する時代にもなっていますよね。人間が人間を、まあモノでもいいですけど、誰かが何か、あるいは誰かを消費することに対して、ためらいがなくなったなと。
それは僕自身をリスナーが消費してることでもあるだろうし、僕自身はヘテロセクシャルのシス男性なので、女性を消費している側面もある。でもそれが昔だったら慎ましくというか、あまり表沙汰にされていなかったわけですけど、今はもうYouTubeのスパチャだとかツイキャスのお茶爆だとかで、非常に手軽にえげつなく〈消費〉というものができてしまう!」
――もともと〈経済を回そう〉みたいな感覚で加熱傾向にあったものが、コロナ禍以降それが顕著になったかもしれませんね。〈支えなきゃ〉みたいな想いを持った人も少なからずいらっしゃるでしょうし。個人の意識よりも、ファッション誌や朝の情報番組、あるいは企業CMにおいて、身だしなみグッズから旅行プラン、あるいは借金(苦笑)まで、〈推し〉というフレーズが使われることも珍しいことではなくなったのが大きな変化かなと。
「企業が推し活を推進したい気持ちはわかるんですよ。だって売れるんだもん。音楽業界において推しをオリコンチャートに入れるツールとして、握手会のチケットとしてCDが売れたように。文房具だってなんだって〈推し活グッズ〉とパッケージして売れば、一定の層には届く。
推し文化万々歳なんだけど、その一方で光の部分だけがフィーチャーされてるけど、実際、闇はだいぶ深いぞって僕は思いますけどね(笑)」
――それは恋愛で消費を煽っていた時代も、とくに恋愛の負の側面や、そもそも恋愛したくない人は無理してする必要もないことを語るメディアはほぼなかったように記憶しています。良い面ばかりを喧伝していた。結局、〈恋愛資本主義〉とか呼ばれていたものが、〈推し活資本主義〉に成り代わっているというか。恋人に対してと推しに対しての感情が完全に重なるわけではありませんが、〈このアイテムを買って、恋人or推しにとってよりよい自分になろう〉という意味では似たようなものです。
「そう、現代は推し活資本主義になってるんですよ! T-Paletteさん(タワーレコード)の前で非常にやりにくい話なのですが(笑)。
このアルバムの中でも3曲目の“推さないで”を、ディレクターの今村(方哉)さんにお見せしたときに、〈これはちょっと……大丈夫かな……。ウチ、アイドルもいるんで……〉 〈まあ、大丈夫でしょう〉みたいなやりとりがありました(笑)」
――そこに規制が入りそうになるなんて、それはそれで時代を象徴するようなエピソードですね。
「すごいですよね!」
――タワーレコードに限らず、推し活ブームの経済効果的なものに恩恵を受けている人は多いと思うので……。私のようなフリーライターも例外ではありませんし。とはいえ、この話はカットしてほしくないですね(笑)。さて、アーバンギャルドにも“病めるアイドル”(2012年)なる曲がありますが、“推さないで”をソロで発表した理由は?
「これは僕のソロの歌詞として書いたほうが、ディスタンスが描けるかなって思ったのと、アーバンギャルドよりも僕のソロのほうが、より〈消費〉なるものを描き続けているので。だから、男性が歌うことによって出てくる異化差用を狙いたかった。
この曲は井上陽水の“ミスコンテスト”あたりを意識して書いてるんですけど。『“white”』(78年)からシングルカットされた曲ですね」
――ミスコンテストの華やかさと同時に空虚さを感じる曲ですね。
「〈推す〉という言葉は、ある意味尊く、敬虔な行為であって、非常に禁欲的な行為だという風に喧伝されがちです。けれどもその風潮に〈いやいや、本音で話そうぜ!〉と、異を唱えたいんですよ」
――〈本音〉とは?
「〈推し活〉という形でコーティングすることによって、本質から目を背けてるような気がするんですよ。もちろん人間は人間を消費せざるをえないのだけど、その消費を綺麗な、正しい行いのように言わないでほしい」
――推し活は本来であれば、正しくないことだと?
「推し活に限らず、正しくない行為っていうのも生きるという行為と直結すると僕は思ってるんですよね。だから、正しくない自分も認めてあげてもいいと思うし、正しくない行為っていうものも生きていくために必要な瞬間もあるんじゃないのかな。例えば、それは推し活もそうなのかなとは思いますけどね。だから、〈推す〉っていう行為そのものを否定するのではなく、推したければすればいいけれども、綺麗なことばかりではないでしょう。そこから目をそらしてほしくない」