今年CDデビュー10 周年を迎えたアーバンギャルドが、8枚目のオリジナル・アルバム『少女フィクション』を4月4日(水)にリリースする。先行シングル“あくまで悪魔”や、非流通アルバム『昭和九十一年』(2016年)の収録曲“ふぁむふぁたファンタジー”“大破壊交響楽”を含む本作は、〈少女〉〈インターネット〉といったワードをちりばめた歌詞、テクノポップ、ニューウェイヴ、ヘヴィー・メタルなどを自在に行き来する音楽性を含め、彼らがこれまでに提示してきたバンドのアイデンティティーを改めて提示する充実作となった。また、ここ2~3年のライヴ活動の活性化に起因する、メンバーの高いプレイヤビリティーが発揮されたサウンドメイクも本作の魅力だろう。

Mikikiではこれまで、昨年のプレ周年イヤーや、それぞれ精力的におこなっているソロ活動を通して彼らの状況を逐一レポートしてきたが(下記リンク参照)、今回はアニバーサリー・イヤー本番を記念してメンバー全員にインタヴュー。10年目の新たな傑作『少女フィクション』を手掛かりに、周年を迎えたアーバンギャルドの現在地に迫った。

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アーバンギャルド 少女フィクション 前衛都市(2018)

 

〈バンドになりたい〉という意志が強くなってきた

――『少女フィクション』はこれまでのアーバンギャルドを引き受けながら、さらに豊かな表現に辿り着いた素晴らしい作品だと思います。これはまちがいなく最高傑作ですよね?

浜崎容子(ヴォーカル)「ありがとうございます。私もそう思います」

松永天馬(ヴォーカル)「これまでアーバンギャルドはアルバムのたびに新しい試みをしてきたんですよ。今回も新しいことはやってるんですけど、それ以上に〈今までやってきたことを、今の自分たちのテクニックでやったらどうなるか?〉という意識があって。リード曲の“あたしフィクション”のミュージック・ビデオも水玉がモチーフになってるし、アルバムの収録曲もカラフルでポップなものが多くて。これを聴いてインディーズ時代を思い出すリスナーの方もいると思うんですけど、自分たちも〈この年齢にして、めちゃくちゃ若いアルバムが出来た!〉という感じなんですよね」

浜崎「どの曲にもきれいなメロディーが入っていて、聴いてるとジーンときちゃうんです。私自身、ずっと音楽を作ることに関して〈美しさ〉を一つのポリシーにしていて。今回は聴いてくれた方から〈美しいアルバムですね〉という感想を言ってもらうことが多いんですよ」

松永「確かに今回インタヴューを受けていても、〈美しい〉という言葉が頻出してるよね」

浜崎「密かに持っていた自分のポリシーをちゃんと表現できるようになって、聴いてくれる方もそれを感じ取ってくれている。完成度も今まで以上に高いと思うし、すごく嬉しいですね」

おおくぼけい(キーボード)「しかも、〈美しさ〉は意図していたわけではないんです。自然と滲み出て来たというか」

松永「シンセサイザーの語源でもあるシンセサイズという言葉があるけど、今回のアルバムはまさにそういうことだと思うんです。自分たちでコントロールしながら、アーバンギャルドが持っているいろいろな面を混ぜ合わせることができたので。あと、既発曲以外の新曲をメンバーだけで制作したことも大きいと思っていて」

松永天馬
 

瀬々 信(ギター)「そうだね。新曲は外部のアレンジャーを入れず、メンバーだけで作ったんです」

松永「最初はちょっと不安もあったんですよ。制作の仕方としては、我々はスタジオでセッションするのではなくて、データのやりとりが主な作業なんですね。いわばクラウド上にレコーディング現場があるという状態だし、歌詞もEvernoteで共有していて」

おおくぼ「制作中に顔を合わせることって、ホントに少ないんです」

松永「そういう状態でちゃんと全体をコントロールできるのかなと思っていたんだけど、結果的には見えざる神の手が働いて、うまくいきました(笑)」

おおくぼ「僕は、制作のときはアレンジャーの視点になってるから、つい自分のピアノを入れるのを忘れてしまうこともあるんですよ(笑)。“ビデオのように”がまさにそうで、後からピアノを入れようと思ってたのに完成間近になって忘れていたのに気付いて。でも〈別に入れなくてもいいな〉と思って。もう曲として成立していれば、ムリにピアノを入れなくてもいいので」

おおくぼけい
 

松永「でも、“あたしフィクション”には荒々しいピアノのソロが入ってるじゃないですか。一聴するとバンドサウンドではないけど、やはり隠しきれないバンド感が見え隠れしてますよ」

おおくぼ「そうですね(笑)。僕は後から入ったから、〈どうしたら自分もアーバンギャルドになれるのか?〉とか、ひいては〈アーバンギャルドはどうあるべきか?〉と、他のメンバー以上に考えているところがあるんですよ。でも、以前は〈表現するためのグループ〉という感じだったのが、近年は〈バンドになりたい〉というみんなの意志も強くなってきた。それで生じた変化はサウンドに現れていると思います。アルバムの新曲をメンバーだけで制作したのもそういうことで、10周年というタイミングでもあるし〈ここはアレンジャーにお願いしないで、自分たちだけでやるべきだろう〉という」

※2015年に加入

――その結果、アーバンギャルドの個性がストレートに反映されたと。

松永「『少女フィクション』はアーバンギャルドのセルフ・ポートレイトみたいなものだと思っていて、〈アーバンギャルドとは何か?〉ということを考えたときに、最初に出て来るのは〈少女〉というモチーフだなと。ただ、その正体はただの歌であり、僕らとリスナーのみなさんで作り上げた共同幻想、フィクションなんですよ。そこからコンセプトが決まっていった感じですね、今回は」

瀬々 信「アルバムが完成したときに、アーバンギャルドはまだまだ情熱を持っているし、可能性を秘めているバンドだと思ったんです。アレンジを頼まなかったおかげで、今の自分たちがやりたいことがはっきりと出ているし、爆発力、勢いもあって。10年もバンドを続けていると最初の衝動は減っていくものだけど、アーバンは逆に上がっているんだなとつくづく思いました」

浜崎「本当にそうですね。これまでの自分たちの歩みを振り返ってみると、どうしても良いことより辛かったことのほうが記憶に残ってるんです。でも、今回はそこにフォーカスするのではなくて、〈どうして音楽をやろうと思ったのか?〉〈何を表現しようとしていたのか?〉という原点に立ち戻れた気がして。それが初期衝動を感じられる音作りに繋がったんだと思います」

浜崎容子
 

松永「10年で、一回りした感もある」

浜崎「もちろん計算して作っているところもあるし、技術的にも向上しているから、以前はやれなかったこともやれるようになっていて。ダテに10年やってないな、続けてきて良かったと思いました」

おおくぼ「初期の音源を聴くと〈背伸びしているな〉と感じることもあるけど、それが今は……」

瀬々 信「シックリくる」

浜崎「そうそう。あと、応援してくださる方々の力も大きいですね。アーバンギャルドは自分たちだけで確固たる世界観を作っていると思われがちですけど、リスナーの女の子たちの不安定な気持ちをずっと見させてもらってきて、それを反映した曲も多いんですよ。メンバーだけではなくて、ファンの方々、周りの人たちによって成り立っているというか」

松永「ファンレターからインスピレーションを受け取ることも多いし、常々〈歌詞を通して返事を伝えている〉ということも明言してきましたからね。歌詞を書く上での一番の参考文献は間違いなくファンレター。10年やってるとファンのみなさんと一緒に成長してきたという実感があるんです。たとえば当時10代だったリスナーは、今20代の大人になっていて。かつては〈不登校で……〉〈恋ができなくて……〉だった悩みも〈就職で悩んでいて〉とか〈彼氏と結婚するかも〉みたいな話題が増えてくるんですよ。近年はライヴハウスに親子連れで来てくれることもけっこうあって、もしかしたら〈天てれ〉の効果かもしれないけど、そういう様子を見てると〈あれ? アーバンギャルドはファミリー向けのバンドになったのかな?〉って」

※NHKの長寿番組「天才てれびくん」。松永が2015年より約2年間レギュラー出演していた

瀬々 信「そうかもね(笑)」

浜崎「私のソロ・ライヴにも親子連れで来てくれる方々がいるんです。最近も小さい女の子とお母さんの親子が来ていて、ライヴを観に来てくれた私の友達がその女の子とファンの人の会話を聞いていたら〈よこたんのどこが好きなの?〉ってファンの人が女の子に尋ねていたらしく、〈お姫様だから〉って答えたそうなんです。〈そうだよね、お姫様「みたい」だよね〉ってその方が答えたら〈違うよ! よこたんは本物のお姫様なの!〉って反論したらしくて。10才未満の女の子にとってはそういうふうに見えるんだなって思ったし、私もそういうキラキラした〈夢〉のようなものを見せられるようになってきたんですよね。そういうムードは今作にも反映されているんじゃないかな」

松永「僕もプリキュアのレターセットに書かれたお手紙をもらいましたよ。〈最初は怖かったけど、今はてまきゅん(松永)が大好き〉って書いてあった。悪い男に引っかかりましたね(笑)」

瀬々 信「似顔絵をもらったりね。嬉しいですよ」

瀬々 信
 

浜崎「天馬は以前から〈アーバンギャルドはディズニーランドである〉って言ってるしね。アーバンギャルドは小さい子どもから大人になりきれない大人まで、幅広い人が楽しめます(笑)」

松永「我々のディレクターのお子さんが小学生なんですけど、〈自撮(じさつ)入門! 自撮入門!〉って歌ってるそうです。大丈夫か(笑)。今、〈大人になれない大人〉も当たり前の状態じゃないですか。先日アカデミー賞を取った「シェイプ・オブ・ウォーター」も言ってみれば特撮モノですし、サブカルチャーを含むポップ・カルチャーは完全に大人のものになって、全年齢向けにブランディングされていますよね。そう考えると、アーバンギャルドも実は全年齢向けかもしれない。アングラ、ユース・カルチャーに限定されず、みんなが楽しめる」

2014年作『鬱くしい国』収録曲“自撮入門”
 

――アーバンギャルドのサウンドの特徴の一つであるテクノポップも、大人から子供まで楽しめる音楽ですよね。

浜崎「そう、幼稚園児も大好きなサウンドですね」

松永「それが大人になると〈これは86年っぽいシンセの音だね〉とか小賢しいことを言い出すようになって」

おおくぼ「LinnDrumとかね」

※80年代前半に開発されたPCMドラムマシン

浜崎「アルバムに入っている“キスについて”はLinnDrumを使ってますよ」

――今作で言えば、“インターネット葬”も完全に80sテクノポップですね。

瀬々 信「そうですね。だけど歌詞が暗いんですよ(笑)」

松永「“インターネット葬”は〈みんなのうた〉狙いで作りましたが、歌詞に〈殺せ〉とあるからどうだろう……。アーバンギャルドが紅白に出られるとしたら、〈みんなのうた〉からヒットを出すしかないと思うので、 “だんご3兄弟”ならぬ“手首3姉妹”とか色々考えてます」

瀬々 信「ダークすぎるよ(笑)」