(左から)おおくぼけい、戸川純

アーバンギャルドのキーボーディスト、おおくぼけいがすべての作編曲を手掛けた自身初のソロ・アルバム『20世紀のように』がリリースされた。同作は多彩な表情を見せるおおくぼの鍵盤の音色を軸に、プログレ、ジャズ、現代音楽、アンビエント、エレクトロニカなどのサウンドを融合させたインスト曲と、戸川純、椎名ぴかりん、GACKT擁するYELLOW FRIED CHICKENzに所属していたジョン・アンダーダウンの3名をゲスト・ヴォーカルに迎えたエクスペリメンタルかつポップな歌モノ曲で構成された全11曲を収録。今年4月にMikikiで行ったアーバンギャルドのインタヴューでも、メンバーの松永天馬&浜崎容子が〈彼がいなかったら(最新作の)ライヴ盤は出せなかった〉〈演奏に対する意欲が高まった〉とバンドでの存在の重要性を熱く語っていたり、最近では園子温によるスマホ映画「うふふん下北沢」の音楽担当もしていたおおくぼ。本作は、いっそう高まる演奏家/作曲家としての力量をもって活躍の幅を広げる、そんな彼の豊かな才能を鮮烈に示した一作だ。

今回はアルバムのリリースを記念して、おおくぼと、今作に2曲で参加した戸川との対談が実現。昨年歌手活動35周年を迎えた現在も、Vampilliaや非常階段とのコラボに〈フジロック〉出演など精力的な活動を続けるシンガー/女優は、アルバムの制作のうえでも大きく影響を及ぼしたという。近年はピアノと歌によるデュオ〈戸川純avecおおくぼけい〉としても定期的に活動している2人に、『20世紀のように』の制作秘話や両者の音楽観、ライヴに対するスタンスなどについて語ってもらった。

おおくぼけい 『20世紀のように』 TKブロス(2017)

もう一度自分の音楽を問い直してみよう

――おおくぼさんの初のソロ・アルバム『20世紀のように』がリリースされました。戸川さんはゲスト・ヴォーカリストとして参加されていますが、まずアルバム全体を聴かれて、どんな感想をお持ちですか?

戸川純「ビックリしましたね。一人のミュージシャンが作ったとは思えないほどヴァラエティーに富んでいるし、ジャンルレスだなと。現代音楽的な楽曲もあるし、ジャズっぽいもの、電子音楽もあるんだけど、どの曲もそのジャンルの専門家が作ったかのように極められていて。〈(おおくぼさんは)こういう人だったのか!〉と思いました」

おおくぼけい「そんなふうに言ってもらって、ありがとうございます」

戸川「すごいと思いますよ、ホントに。アーバンギャルドとは対バンしたこともあるし、戸川純avecおおくぼけいとして一緒にライヴもやらせてもらっていますけど、そこで聴かせてもらってる音楽ともぜんぜん違っていて」

――音楽的にヴァラエティーに富んだアルバムにしたいという意図はもともとあったんですか?

おおくぼ「〈いろんなことをやろう〉とは、実は思ってなかったんです。というのも、自分のなかでは全部が繋がっていて、その発露として結果的に多様な音楽になったという感じですね。ジャズの要素が入っていてもジャズではないし、ファンキーなリズムでもファンクではないというか、いろいろなものが混ざったミクスチャーになっていて、何かのジャンルで括れるものではない〈自分の音楽〉として表現したかった。〈これはジャズ〉〈これはEDM〉みたいに言えないものをめざしたというのかな。(作品の内容を伝えるうえで)〈ニューウェイヴ〉という言葉も使っているんですが、それもジャンレスということなんですよ」

戸川「ニューウェイヴは便利ですからね。何のジャンルかわからないときに使う言葉というか(笑)」

おおくぼ「そうですよね。サウンドに関しては、生っぽい音でやりたいと思っていました。アーバンギャルドでは打ち込みを使うことが多いので、ソロではできるだけ生演奏でやろうと。もちろん打ち込みも使っているんですけど。あとは〈感情的に/饒舌になりすぎない音楽〉ということですね。いかにも感動的な曲ってあるじゃないですか。そういうものではない音楽をやりたかったので」

『20世紀のように』表題曲。椎名ぴかりん&ジョン・アンダーダウンがゲスト・ヴォーカル、DJ吉沢dynnamite.jpがターンテーブルで参加

――おおくぼさんが通ってきた音楽、そのなかで形成された音楽観がいろいろな形で表出しているわけですね。

おおくぼ「そうですね。自分のなかにないことはやってないし、すべて自分が通ってきた音楽を昇華したものばかりなので。そういう意味では〈おおくぼけいの音楽は、こういう感じです〉と言えるアルバムになっていると思います」

戸川「一つ一つにおおくぼさんの血が通っていますよね。まるっきり新しいことにチャレンジなさっているという感じではないというか」

おおくぼ「ありがとうございます。アルバム全体の大きなテーマとしては〈音楽とは何か?〉というのがあって。1曲目の“Fuge”が人間の可聴範囲を超えた〈聴こえない音楽〉だったり、戸川さんに参加していただいた“20世紀みたいに”はコードがなくて、ノイズだけが鳴っているようなトラックで。学生時代に現代音楽を勉強していたこともあって、そこに立ち返ったのかもしれないですね。ずっとロックやポップスをやってきて、やっと自分の作品をリリースできることになったときに、もう一度、自分の音楽を問い直してみようというか」

――アカデミックな視点も感じさせながら、アルバム全体をポップ・ミュージックとして成立させているのも素晴らしいなと。

戸川「そう、ポップなんですよね」

おおくぼ「ポップ・ミュージックをやろうとは思っていましたが、アカデミックな要素はまったく意識してなかったです。もしそう感じてくれたのだとしたら、〈そういう音楽が好き〉というところが出ているのかもしれないですね」

――おおくぼさんのインテリジェンスが……。

戸川「出そうと思わなくても、滲み出ちゃうんでしょうね」

おおくぼ「いえ、そういうわけではないと思います(笑)」