
感情を出す/出さない問題
――空気を読んで器用にこなせてしまう自分がいる一方で、まわりを見た時に、この人は自分の内側から何かを表現しているなと思う時はありますか?
「あります。特にマナちゃんは私と正反対なので、本能で動いていて。私はすべてにおいて打率が3割くらいなんですけど、マナちゃんは空振りかホームランみたいな人で、そのホームランがみんなの目に留まるから、それに憧れる時はすごくあります。クマリデパートはみんな個性が強いので、シングルヒットを打ち続ける私はみんなの背景になっちゃうなっていうのが最近の悩みです」
――自分だけ少し違うなと思ったりしますか?
「します。クマリデパートが主催するトークイベントがあると、MCで回したりできるんですけど、いざ自分が演者としてトークの主役になれるかというとそうではなくて。裏で回すのが自分に合う役割なんですけど、それが出せない場所になると、差し障りのないことだけ言って帰るだけの薄い人になります(笑)」
――じつは自分も近いタイプなので共感します。自分の心の内を出すのが苦手なのでしょうか。
「怒るし悲しくなるし泣くので、感情はあるんですけど……私の家はお母さんが厳しいんですね。小さい頃にラーメンが禁止されていたから、その反動で今ラーメンをすごい食べているんですけど(笑)。
小学校から私立で、小中高大とレールに敷かれてきたんですけど、昔からすべての発言がその場の正解かどうかを無意識に考えちゃっていて。感情を出すにも、ここで出すのが正解かっていう関門がまずある。それを通り越さないと怒ったりできないから、多分、自分の心の中はわかっているけど、それがうまく出せないんです」
――言わば抑圧みたいなものがずっとあって、それがいまだに残っていると。
「無意識にあると思います。自由に感情を出してと言われてもできない。とにかく状況を俯瞰して見てしまうから、『ドッキリGP』に出た時も、うさ太郎くんがバッと出てきた時に、一旦真顔で見て、状況を考えてしまったんです。そういうリアクションに不向きなんですよね。外から見ただけでは感情が見えないから、なにを考えているかわからないって言われます。
感情を出している子を見ると素直に可愛いなって思うし、自分もなりたいとは思うんですよね。昔に比べたら少しずつ出せるようにはなってきているんですけど。感情を出す/出さない問題というのは、クマリデパートに受かった次の月くらいからずっと言われ続けてきたことでした」

マナちゃんと2人で乗り越えた壁
――山乃さんがステージ上でほしいものはそこだったりしますか? 自分でもコントールできない側面を出したいというか。
「またマナちゃんの話になるんですけど、マナちゃんは、セトリのどのタイミングでその曲が入っているかによって落ちサビの歌い方が変わるんですね。それは聴いていてドキドキするし、羨ましいなと思います。私はライブ中も踊っている自分を第三者の視点で見て、合ってるかなというステージングをするので。だから目標というより憧れですね。なれないものだからこその憧れ。という時点で諦めちゃってるのかもしれないですけど(笑)」
――計算しつくされたものを見せるのもひとつの解だとは思います。もちろんいいところだと思う面もあるわけですよね。
「それはあります。自由に踊っていい部分を、感情任せではなく意識して毎回変えてみるとか。他のメンバーもやっていることかもしれないですけどね。自分のやり方だからこそできていることもあるとは思います」
――グループ内の自分のスタンスを冷静に見ている人だと思うのであえて聞きますが、自分が一番になりたいと考えることはありますか?
「そういう野心に溢れていた時期もありました(笑)。でも、やっぱり正解を探しちゃうんですよね。前マネージャーさんに、これはしないで、あれはしないでと言っていただけていたので、極端な言い方をすると、そのマネージャーさんに好かれるようなステージングをしていたんです」
――ああ、なるほど。
「はじめの3ヶ月は一番になりたいというのがあったんです。指摘されたことを飲み込んで自分の力に変えられればよかったんですけど、全部が初めてだったので、それで少しずつ士気が落ちていったというか、注意されないようにやる方向に変わっていきました」
――それは厳しい家で育ち、常にその場の正解を考えてきたという話と同じかもしれないですね。
「本当にそうですね。マネージャーさんに気に入られるように挨拶して、グミとか買って行ったりして(笑)。怒られないようなステージングという意味ではマナちゃんも一緒だったと思います。2人で乗り越えた壁だったので。これ怒られるかな、という話はよく一緒にしてました」