少年ナイフ、メルトバナナ、MONO、Bo Ningen、BORIS、幾何学模様などなど、最初に海外で人気に火がつき、逆輸入される形で国内で知名度を上げた日本のバンドは少なくないが、De Lorians(デロリアンズ)もそのひとつ。2019年にNYを拠点とするビヨンド・ビヨンド・イズ・ビヨンドからデビュー・アルバム『De Lorians』をリリースし、日本国内でも注目を浴びている。
そんな彼らがこの度リリースする新作EP『That’s Life』の基底を成すのは、バンドのルーツである60~70年代のサイケデリック・ロック的なサウンド。カンタベリー・ロック、クラウトロック、プログレッシヴ・ロックなどのエッセンスが自然に溶け込んでいるのもおもしろい。リーダーの石田健文(サックス/ギター/キーボード)のサックスは、彼らが敬愛するソフト・マシーンのエルトン・ディーンを連想させる。
「ソフト・マシーンは大好きです。ギターやベースのフレーズはゴングに影響されていると思います。ファズの効いたギターの音色は、初期キング・クリムゾンのロバート・フリップを参考にしましたけど、いまは自分なりのプレイができているという実感があります」(野上宗也、ギター)。
「ギターなのかキーボードなのか、どの楽器が出しているかわからないような音をたくさん使っているんですけど、それはトーク・トークなどを参考にしていて。音数が少なくて隙間が多いのは、90年代のポスト・ロックからの影響が大きいです」(石田健文)。
バンド・メンバーは互いのフェイヴァリット・アルバムを常に共有してきたそうで、昨今の作品だと、ジェフ・パーカーやカルロス・ニーニョなどの名前も挙がるそう。ただ、彼らの音楽はそうした先達の焼き直しなんかじゃない。確実にアップデートされたものなのである。
「最初の頃は憧れている音楽があって、それ風にやってみたんですけど、どうやってもそのままにはならない(笑)。最近は、だんだんと自分たちのオリジナルな曲や演奏が見えてくるようになってきました」(野上)。
EPの1曲目、9分にも及ぶ“Shin-Shin”の乱脈で混沌としたサウンドには、特にそのオリジナルな側面が強く出ている印象だ。そのほか新作にはカンのダモ鈴木を連想させる歌もの“ROBITA”に加えて、野上が以前から好きだったという落語を採り入れた“Space Rakugo”なんて曲もある。ダークでアンビエント風の演奏に落語が乗るこの曲は、外国でも驚きをもって迎えられるだろう。
「もともと、僕がツアーの移動中に落語のものまねをふざけてやっていたら、話すほうも聞くほうもハマってしまって。〈それ、形にしようよ〉って石田くんが言ってくれたので、入れることになりました。火星からお嫁をもらってくるっていうストーリーのふざけた創作落語ですね(笑)」(野上)。
また、レコーディングはサポート・メンバーを含む5人で行われたが、録音後にドラマーの交代もあって、バンドは現在4人編成で活動しているそう。新メンバーを迎え、すでにバンドは次のフェイズに足を踏み込んでいるという。
「メンバーの人数が減ったことで、できない曲も増えたんですけど、それが逆におもしろくて。いまの編成自体はミニマムとはいえ、石田くんがサックスとキーボードとギターを持ち換えたりしていて、他のメンバーもマルチ・プレイヤー化してきている。それによって、逆に音のヴァリエーションが増えました」(野上)。
前作時に行った20公演ものEU/UKツアーも、バンドを成長させたそうだ。
「海外ツアーを経て、必要最低限の楽器さえあれば、どこでもライヴができるなっていうマインドになりました」(石田)。
つまり、彼らはハイスピードで進化/深化し続けているバンドであり、このEPは、レコーディング当時のDe Loriansの個性を凝縮した3曲、ということだろう。バンドにとっての名刺代わりの一枚であり、次作への跳躍台ともなるはず。まずは虚心に『That’s Life』に耳を傾けてほしい。
De Lorians
野上宗也 (ギター)、後藤元樹(ベース)、石田健文(サックス/ギター/キーボード)から成るバンド。2016年に結成され、東京を拠点に活動をスタート。2019年7月にNYのレーベル、ビヨンド・ビヨンド・イズ・ビヨンドからリリースしたファースト・アルバム『De Lorians』が評価を集め、同年の秋には20公演に及ぶヨーロッパ/UKツアーを実施。さらに幾何学模様の日本公演にゲスト・アクトとして参加するなど、国内外で注目の存在となる。コロナ禍での制作を経て完成させた3曲入りEP『That’s Life』(MAGNIPH)を12月9日に配信とアナログ盤でリリース。