(左から)Atsuo、シュガー吉永
取材協力:Junkafelic
 

Borisの新作『W』がリリースされた。2020年の前作『NO』から1年半を経ての作品だが、Borisらしさを極めた爆音轟音のヘビーなラウドロックアルバムだった『NO』に対して、『W』は、その対極にあるようなドローン〜アンビエント〜プログレッシブ〜シューゲイザーを極めたような静謐で繊細で美しい世界を展開している。彼ら自身は『NO』を〈轟音の癒し〉、『W』を〈ささやきによる覚醒〉と称している。その両極を無難に融合するのではなく極端なまま鋭く対峙させることで、コロナ禍の世界の実相を鮮やかに描き出しているのだ。なお、リリースは元銀杏BOYZの安孫子真哉がチーフプロデューサーを務めるインディーレーベル、KiliKiliVillaからである。

その『W』をプロデュースしたのが、2021年に新作『We Are The Times』(2021年)をリリースしたBuffalo Daughterのシュガー吉永だ。一見意外な起用にも見えるが、実は以前からお互いに影響を受けあった仲。Borisもバッファローもほぼ同時期に結成され、共に比類なき個性と強固な自主独立の精神を持ち、日本よりも海外での活動を重視してきた(せざるをえなかった、という面もある)点でも共通している。BorisのAtsuo(ドラムス)とシュガーの対談は今回のプロジェクト実現の経緯、双方の音楽観、日本と海外の音楽事情の違いなど多岐に及んだ。

Boris 『W』 KiliKiliVilla/Sacred Bones(2022)

 

ただヘビーなだけじゃない、空間系の音楽

――お二人が知り合ったそもそものきっかけは何だったんですか。

Atsuo「僕らはもともと3人ともBuffalo Daughterのファンで、昔『New Rock』(98年)のレコ発とかも観に行ったりしてて……」

シュガー吉永「恥ずかしい!」

Atsuo「で、この間Wata(Boris、ギター)のシグネイチャーモデルのファズペダル〈Hizumitas〉が出たんですけれど、それを作ったEarthQuaker Devicesってアメリカのペダルブランドがありまして。数年前にYAMAHAで国内流通することが決まったタイミングで懇親会があって、そこでお話しさせてもらって、(『W』にゲスト参加した)TOKIEさんもそのとき来ていました。そこからですね」

シュガー「私、Borisの『DEAR』(2017年)ってアルバムがすっごい好きで、そのジャケットデザインを河村(康輔)くんがやってたんです。河村くんは今回のバッファローのアルバム(『We Are The Times』)のジャケットデザインもやってくれていて。で、河村くんが〈今度Borisのレコ発があるんですよ。ヤバイっすヤバイっす〉と言ってて、〈えっ私も行きたい〉って」

Atsuo「あれ、そっちが先ですか?」

シュガー「そっちが先。そのとき初めてAtsuoくんと喋った」

2017年作『DEAR』収録曲“Absolutego”
 

――もともとBorisみたいな音楽は好きでしょ?

シュガー「好きよそりゃ(笑)!」

Atsuo「フフフフフ」

――メタル魂が刺激される。

シュガー「そうそうそう!」

Atsuo「そのときのライブの感想では、アコーディオンをめっちゃ褒めてもらいましたよね」

シュガー「なんかバランスが私の中ですごいハマった。すごい轟音でヘビーじゃないですか。なんだけど突然静かになって。静かなんだけどサーッてノイズがずっと流れてるんだよね。煙がワーッと出てきて、すごい小さい音でアコーディオンが鳴りはじめた。〈なにこれ、アコーディオンの音?〉と思いながら煙が晴れるとWataちゃんがアコーディオンを弾いてるっていう。その変なバランス! 轟音でギターもベースもダーンと鳴っているのに、ここでアコーディオンがくるんだ、みたいな」

Atsuo「ははははは」

シュガー「そういうバランスも含めて好きで。ただヘビーなだけじゃないっていうかさ。そういう空間系の音楽ですよね、Borisって。このアルバムもまさに空間系じゃないですか。きた! 好き!と思って」

――そこにハマったわけだ。

シュガー「ハマったハマった。だっていいアルバムだよね。もう私が何かする前から完璧に出来ていたんですよ。曲順も決まっていたし、全て出来上がった段階できたんで、このままでいいじゃんって私は思ったんだけど」

Atsuo「いやいやいや~」

シュガー「なんかできることがあるかな、みたいな感じで受けたんだけど」

Atsuo「そうしたらひと皮もふた皮も向けた感じになって」

『W』収録曲“数に溺れて -Drowning by Numbers-”
 

 

Borisは常に未完成であり、常に完成形

――じゃあシュガーさんの作業はポストプロダクションのみ?

シュガー「完全にそうですよ」

――全部出来上がっていて、シュガーさんがこれ以上手を加える必要がないんじゃないかって思うぐらいの完成度だったのに、なぜあらためて頼もうと思ったんですか?

Atsuo「いつも思っているのは、3人の視界だけで音楽に制限がかかるのはイヤなんですよね。自分たち自身が、生まれてくる音楽のリミッターや足枷になるのはイヤなんです。こういうコラボレーションは縁っていう部分もありますし、シュガーさんと一緒にもう少し作り込んだらどうなるのかな、っていう興味がありました」

――じゃあレコーディングしている段階で、このあと誰かにいじってもらおうとか、そういうことを考えながら作っていたわけですか?

Atsuo「う~ん、ふんわり、ですね。この人に頼んでダメだったらあの人とか、そういうことでは全然ない。ある程度作りながらぼんやりと、シュガーさんとできたらいいなっていう方向性は見えてくるんですけど、それが叶うかどうかはわからない。だから自分たちでやれることはまずやってみて」

――シュガーさんの手が加わることを前提として作っているんだったら、そういうふうに変わる余地みたいなものを残しておくとか、突き詰めて完成させるんじゃなくて、完成手前ぐらいまでに留めておいて、後はシュガーさんに委ねる、というような考えもあったんでしょうか?

Atsuo「Borisって常に未完成であり、常に完成している状態でもあるんですよね。多くのバンドは楽曲の録音の設計図にそって素材を録音して、最終的にミックスで仕上げると思うんですが、Borisはオーバーダビングを行なうたびに常にミックスしていく感じ。それがシュガーさんが加わったバージョンへと、さらにアップデートされる感じです」

――3人でやれることをやって、そこにシュガーさんの手が加わることでさらにブレイクスルーするんじゃないかという期待があったと。

Atsuo「そうですね。さらに面白い変化が起これば。あとはまあ、自分たちがやれることって自分たちでわかっちゃってる部分があるんです。自分たちの手法に飽きているところは常々あって、だからこそシュガーさんとできたら最高だなっていう」

――〈自分たちでやれることに飽きてる〉って、なかなか言えないですよね。

Atsuo「いや~30年もやっているとね〜」

シュガー「長くやってるとね、飽きる飽きる。なんか違う要素が欲しくなる」

Atsuo「ははははは(笑)」

――内心で思っていても普通の音楽家はなかなか口に出さないですよ(笑)。

シュガー「もうこの年になったら言ってもいいんです(笑)」

Atsuo「言えます言えます(笑)」

 

ギリギリ〈音楽に聴こえる感じ〉

――シュガーさんは〈今のままでいいじゃん〉って思ったぐらい完成度が高い音源を聴いて、自分は何ができるって思いましたか?

シュガー「今、Atsuoくんも言ってた通り、Borisって完成している部分と完成していない部分が常にあって。今まで発売しているものの中にもその要素って両方あると思うんだけど、今回は空間っぽいアルバムだなと思ったんで、その空間をより広げたほうが、より多くの人が楽しめるんじゃないかなと思ったし、そこが私のやることかなって思った。だから基本的には〈より広げる〉ってことを考えて、どの曲もやった感じですかね」

――シュガーさんが加わる前の音っていうのは、我々に聴く術はないわけですけど、やっぱりかなり変わったんですか?

Atsuo「変わったと思いますよ。もっと……なんて言えばいいのかな」

シュガー「あのね、元のバージョンは海賊版っぽい感じなんですよ。それを海賊版じゃなくて正規版にする作業をしたっていう感じ。そのまんまでもすごくいいんですよ」

――ちょっとアンダーグランドっぽい感じがあったってことですか。

シュガー「めっちゃくちゃアンダーグランドでしたし、〈このままでもいいじゃん〉って言ったよね。そういうのを私は好きだから。そしたら〈いやいや〜、このままでは〉とか言うから。あ、そういうことならもうちょっとこう聴きやすいものにしようかなと。聴きやすいって言い方はちょっと語弊があるけど」

Atsuo「さらにキャッチーになった感じがしますね」

シュガー「うん。それはありますね」

Atsuo「それぞれの曲の世界観をより重厚にしてもらえたり、重層的にしてもらったりして、キャラが強くなってキャッチーになったというか、作品の強度が上がることで、より届きやすいものになったというか。ブラッシュアップされた感じですね。ギリギリ〈音楽に聴こえる感じ〉というか」

――あ、それキーワードっぽいですね。

Atsuo「Buffalo Daughterも『We Are The Times』を聴くと音楽に聴こえるところにギリギリ留まっている感があって、その緊張感っていうかスリリングな感じがいい。実験的だけど音楽に聴こえる。僕、この前シュガーさんが出ていたラジオを聴きまして。『We Are The Times』の曲はラジオでも映えるわぁ、みたいな」

シュガー「なんだいそれ」

Atsuo「いわゆるJ-Rockとかに比べたらめちゃくちゃアーティスティックな楽曲なわけじゃないですか。でもBuffalo Daughterの曲はラジオっていう共通のメディアに乗っても音楽として届いてるって、すごく思ったんですよね」

Buffalo Daughterの2021年作『We Are The Times』収録曲“ET (Densha)”
 

――端っこの方、ギリギリの境界線みたいなものを広げている感じが、Borisの新作もBuffalo Daughterの新作もあって、そうすることでいろんな人に届いていく。

Atsuo「ああ、そうですね。そういう部分でシェアできるところがすごく沢山あって。でも僕らはやっちゃうんですよね。音楽に聴こえなくていいやってところまでやっちゃう」

――以前おっしゃってましたよね。普段は音楽に聴こえないものをやっているという。

シュガー「ははははははっ(笑)」

Atsuo「そこなんです。そこもやっていかないと踏み込めない領域があるというか」

――その〈音楽に聴こえるようにする〉ノウハウというかスキルが、ご自分にはまだ足りてない部分だったりするわけですか?

シュガー「いや、多分この人たちはできるんだよ。できるんだけど、やんないのよ」

Atsuo「あははははは(笑)!」

――できるけど、あえてやらない。

シュガー「私のところには、その状態でまとまったものがきたわけよ。海賊版っていうとちょっと語弊があるかもしんないけど、そのままでも好きな人は絶対いるんです。それをもうちょっと広げるっていう意味で、今回は海賊版を正規版にしてみた、っていうね」

『W』収録曲“善悪の彼岸 -Beyond Good and Evil-”
 

 

泥がついた野菜みたいなバンド

――実際のシュガーさんの作業にAtsuoさんも立ち会ったんですか。

Atsuo「いや、コロナ禍なんで立ち会ってないです。シュガーさんに渡したのは(2020年の)6月ぐらい? 終わったのが8月ぐらいだったと思うんですけど、完全にリモートでした。ミックスも〈リモートミックス〉っていう手法を取り入れたんです。エンジニアが大阪のスタジオでミックスしているんですけど、リモート用のアプリケーションを使ってミックス中の音をそれぞれの自宅で共有できるようにしてもらって。さらにZoomも併用しました」

シュガー「あーだこーだって言いながらね」

Atsuo「自宅で試聴できる、自分の普段の環境で試聴できるのはなかなかいいっすよね」

シュガー「うん。いい」

Atsuo「レコーディングスタジオで確認しても、持ち帰って自宅で聴くと全然違ったりってことが結構あるんで。自分の環境で聴きながらミックスできたのはよかったですね」

――じゃあ作業そのものはシュガーさんが自宅で1人でやって。

Atsuo「出来上がったらそのつど聴かせてもらって。基本的な方向性はお任せですけど、ときどきリクエストもして」

シュガー「〈これいいんですけど、ここはもっとこうしませんか?〉〈ああわかった、じゃあそこもっとやるわ〉みたいな。あのね、Borisはバッファロー以上に超人力なんですよ。だからまずそれを作業しやすい環境にするところから始まった」

Atsuo「人力っていうかグダグダ、グニャグニャで……。録音でクリックを使わないので、ほんとにその場のフィーリングでテンポも早くなるし遅くなるし溜めるしっていう。昨今のデジタル環境で制作される音楽っていうのはコピー&ペーストが可能なグリッド上で作られることが多いと思いますが、うちはかなり極端なんです。バッファローも人力でやってるから、デジタルと人力を融合するノウハウの蓄積があるんですかね」

シュガー「うちも人力だけど、Borisはもっと人力寄りっていうことで」

Atsuo「あはははは。泥がついた野菜みたいなそんな感じですね」

シュガー「そうそうそれ。オーガニックな(笑)」

Atsuo「そういうバンドのフィールとかニュアンス、テンポ感ありきでシュガーさんにポストプロダクションをやっていただいたんですよね。こう、縦のグリッドを合わせたりとか、そういうプロデュースの仕方じゃなくて、まずはフィーリングありきで全部やっていただいたんで」

――渡す前に詳しく説明とかしたんですか?

Atsuo「一応歌詞も送ったんですけど、そんなに細かく説明はしてないですかね。夏だったんで〈夏に聴ける涼しいサイケでいいね〉って言っていただいた記憶が。もう夏じゃなくなっちゃったけど(笑)」

――もろにバッファローの新作の作業と重なっていたわけですよね。

シュガー「そうですね。並行してやってました。でも両方楽しいから。違うものだし」

Atsuo「先にどっちが出るかな~という感じでしたよね」

――相互に影響があったとか?

シュガー「影響がなくはないと思うんだけど、いい方向にしかなかったかな。だって気分転換になるじゃん。同じような要素もあるけど、基本的には違うからそういう意味では、いいバランスだった」

Buffalo Daughterの2021年作『We Are The Times』収録曲“Jazz (featuring Ricardo Dias Gomes)”
 

――両方ともそのつどの自分の興味が反映されていく。

シュガー「今までの積み重ねですよね。今までの自分が聴いてきたものとか好きなものだとか。今回のBorisを聴いたときに、〈あっ、こういうふうに広げよう〉っていうイメージは、そういうとこから引き出してくる。それはバッファローも同じ。ポストプロダクションが大事ってところも」

――シュガーさんの手が加わることによって、ここは自分たちだけじゃできなかったとか、考えもしなかったような感じになったとか、そういうのはありました?

Atsuo「僕らだけのときはアナログっぽい感じだったんですけど、なんて言えばいいのかな……なんて形容したらいいんだろ? 僕らでは全然届いてない、届かないところに行ってますね。それは確かなんですよ。難しいな、これ言葉にするのは本当に難しい」

シュガー「本人たちはなんかわかるんだけどね……なんだろうね」

Atsuo「アングルが増えてますもんね。シュガーさんの視野っていうのが曲に含まれるんで、そっち側からも曲が聴ける。Borisだけだと、〈ある方向〉から聴かないと音楽に聴こえないというものになったりする」

――全然違う方向からスポットライトを当てることによって違って見えるみたいな。

Atsuo「いろんな方向から聴けますよね。ただハイファイになっただけじゃなくてね」

――ああ、ハイファイにもなってるわけですね。

Atsuo「もちろん。めっちゃローなところから、抜けのいいところまで。でも全然そういう数値的な側面だけじゃないんですよ」

『W』収録曲“イセリナの神様は言葉 -Icelina-”
 

――AtsuoさんはもともとBuffalo Daughterのファンで、ご自分の好きなところがあるわけですよね。それが今回のBorisのアルバムに活かされている感じとかはありますか?

Atsuo「シュガーさんとコラボレーションすることによって逆に気づいたんですよね。あっ、こんなに影響を受けてた、みたいな。低い温度感での楽曲の成立のさせ方だとか」

――低い温度感?

Atsuo「はい。うちはわりとテンション高い曲も多いじゃないですか。そういう熱が高い曲ではない、涼しいっていうか平熱ぐらいの温度感で作る楽曲は、バッファローの温度感とか方法論に影響を受けてるなって。それは一緒に作業しながら思いました。Buffalo Daughterは、そういうのって意識されるんですか?」

シュガー「もうこれは意識というよりも私たちの性質ですよね」

Atsuo「(山本)ムーグさんがフリークアウトしたときも、そういう暑苦しいフリークアウトじゃないですしね」

シュガー「ああ、そうね。もう性質でしょうね。そういう意味では、それぞれの違うところが合わさったって感じはする」

Atsuo「今回、僕らの中ではわりと平熱に近い感じの楽曲が揃ったんで、シュガーさんにお願いしやすかったというのもあるんです。これならばやっていただけるかな~って」

 

飽きないために変化する

――これまでプロデューサーとか、そういう外部の人とコラボする機会もあったと思うんですけど、そのときと何が違いました?

Atsuo「成田(忍)さんにしろナッキーさん(NARASAKI)にしろ、まっすぐ投げた球がめちゃめちゃ変化球になったりとか、そういう嬉しい誤算みたいなことを見越してお願いしていたりする。でも今回はバンドが見据えてた方向そのままに飛距離を伸ばしてくれたような、そんな感じですね」

シュガー「もらった音源を聴くと、Borisはめちゃくちゃ考えているんですよ。キックひとつにしても、この曲はこういうふうにしたいんだっていう音色でちゃんと入っているわけ。各曲の音像をあらかじめ全部考えて録ってる。こういう音にする、という意思のままに録っているんです。録音って適当に録ってあとでいじる、みたいなことってあるんですよ、特に今は。でも、この人たちは全然違う。

ギターにしてもなんにしても、出したい音がしっかり決まっていて、そのまんまの音を録る。だからあとでいじれない。いじる必要がない。それがすごい勉強になったんです。あとでエンジニアに〈こういう音にしてくれ〉と注文を出すにしても、伝えるのってやっぱ難しいじゃない? 音像を言葉で伝えるのって。ここはこういうふうにしてねって言っても、伝わらないことって多い。そうじゃないんだよなぁって、やりとりがすごく長くなったりすることもある。でもBorisは意思のはっきりした音で出してくる。その音を出すまでにすごい労力をかけているはずなんだけど……」

――機材とかアレンジとか音色とか全部含めて、自分がやりたいことを、レコーディングの段階でとことんまで突き詰めていく。

Atsuo「そのときの気分で、今日はこのセットでいこうとか、この機材でやろうとか変化をつけながら制作してますね。同じ楽器ばっかりでも飽きるし、同じ手法でも飽きる。レコーディングがすごい多いんで、すぐ飽きがくるんです。同じ楽器ばっかりでも飽きるし、同じ手法ばっかりでも飽きる。今回は『NO』を録り終えた直後だったし、ギターがギャーッと鳴ってるようなのは置いといて、『W』はファズ禁止ぐらいな感じでやろうと(笑)。たまにそういう時期があるんですよ」

『W』収録曲“知 -You Will Know- "Ohayo" Version”
 

――シュガーさんとやったことは今後の制作に活かせそうですか?

Atsuo「いや、もう次の作品も一緒にやっているんで。あはははは。言っちゃった」

――もう次をやってるんですか?

Atsuo「次の次ぐらいまで」

シュガー「この人たち常に次があるもん。3作先ぐらいまであるんじゃない?」

Atsuo「はい。そうですね」

――構想があるっていうだけでなくて、実際にもう作りはじめてるんですか?

Atsuo「そうですね。もうすぐミックスが終わるぐらいですかね」

――マジか(笑)。早すぎる……。

Atsuo「でも『W』の録音が終わったのは1年半以上前ですからね、こんなに納品、入稿からリリースまで期間が空いたケースって過去にないですよ。コロナで流通が遅れたりとか、世界的に(ヴァイナルの)プレス工場がめちゃめちゃ混み合ってたりとかいろいろな要因もあります。こうやって取材を受けていますが、『W』の制作工程とかほぼほぼ忘れていたりする(笑)。制作時は〈バッファローより僕らの方が先でしょうね〉みたいに言ってたのに」

シュガー「結局うちのが先に出たもんね」

Atsuo「『NO』は完成後に自分たちのBandcampですぐに出せて、すぐ反応もあった。それと比べたらすごく対照的なリリースになりましたね」

――Bandcampで完成したら即出せるっていうのを覚えちゃったから、他のリリース方法ってまどろっこしくてしょうがない。

Atsuo「ほんとそう」

シュガー「うん、ねえ」

 

大事なのは、音楽を愛しているスタッフがいるかどうか

――Borisは海外に軸足を置いているからなおさら痛感するでしょうね。

Atsuo「そうですね。海外レーベルの場合、アナログのプレスのスケジュールありきなので、今回KiliKiliVillaにも(海外のリリース元であるセイクリッド・ボーンズと)タイミングを合わせてもらったりもしました。どうしても向こうの事情優先ってのがありまして」

――でも、最近は日本国内での活動みたいなものも重視されている感じがするんですが。

Atsuo「コロナ禍に突入してからは、ツアーで稼ぐのでなくてバンド運営の軸をリリースへ変えざるをえなくなったんです。そこで権利関係を整理して、リリース自体もBandcampをメインに自己管理できるようにして、海外のリスナーと直接繋がるようにしました。結果、運営がすごく安定してきて、体力がついてきたから逆に日本でも好きにやれるようになったというか」

――余裕が出てきたと。

Atsuo「ほんと日本でそんなに稼ぐ必要はないんで、はい」

シュガー「あと、コロナ禍以降は日本にいなきゃいけなかったわけじゃない? Borisってずっとツアーバンドでさ、常に海外にいたでしょう? 日本をおろそかにしていたわけじゃないんだけど、私も観る機会がないぐらいずっと海外にいた。それが今回コロナでずっと日本にいて、ツアーも行けなくなって、いろんなことが整理できたって感じなんじゃないの」

Atsuo「そうですね。コロナだったからシュガーさんとかTOKIEさんも僕らと遊んでくれた、みたいな。」

――同じように海外で活動するMONOだと、やっぱり日本国内の活動を半分諦めてるみたいなところがある気がします。

Atsuo「正直消耗することばっかりですよ、日本は」

――そうですか。やっぱり。

Atsuo「はい。でも僕らは本当にラッキーなことに、今回はKiliKiliVillaと仕事させてもらえて。KiliKiliVillaの運営方法って欧米のインディーレーベルと同じ感じなんですよね。利益が出たらそれをレーベルとバンドで折半。海外ではそれが普通なんですよねは。日本でそういうレーベルって実は少なくて。今回の出会いはラッキーだったかなぁ」

――がっつり組める日本のレーベルがなかなかなかった。

Atsuo「そうですね。僕はコラボレーションが好きなんで、レーベルもコラボレーションと思っているんです。その前のTRASH-UPだったら、自分たちでは全然周知できなかったところに、TRASH-UPなら届けられる。それぞれのレーベルの良さがあるんです。

今回、たまたま知人の紹介でKiliKiliVillaからリリースすることになったんですけど、〈あれれれれ?〉ってぐらい価値観とか運営方法を共有できるレーベルで、ちょっとびっくりしましたね。でも欧米では普通なんです。ほんとに。その当たり前が共有できない日本の音楽業界っていうのは……ちょっと不健全だなって思うところもあります」

シュガー「なんかやっぱね、日本って〈会社社会〉なんだよね。音楽業界でさえも。それが私たちみたいな人間には肌に合わないんじゃない?」

Atsuo「〈音楽業界〉なんですよね。会社対会社みたいな」

シュガー「そうそうそう。会社単位で話してくるわけよ、バンドに対して。なんか違うのよ。〈あなたたちと一緒にやりたい! 一緒に作りましょう!〉みたいな話には絶対ならなくて。Bandcampがなんでいいかって、自分たちでやれるからね。誰の手も経ずに聴きたい人のところに直接届けることができる。そういう意味で健全なんですよ」

Atsuo「(日本の音楽業界は)芸能のやり方なんですよね」

シュガー「芸能っぽいんだよ。ほんとそう」

Atsuo「アーティストが事務所に所属して、そこから給料を出してもらってみたいな、そういうやり方がみんな普通だと思ってるんで。欧米はバンドがマネージャーを雇うのに」

――アーティストとレコード会社が直にやりとりするケースって日本ではあまり聞かないですね。

Atsuo「会社同士でないと入金できませんってそういう話が普通にあるんで」

シュガー「あ〜普通にあるよね。そんなんじゃインディーバンドはやっていけないね」

Atsuo「やっていけない。まず会社にしなきゃなんないもん」

シュガー「そういうのがイヤだからもう自分たちでやろうって言って、バッファローの原盤も自分たちで管理してるし。だからよく若いバンドがメジャーと契約しましたとか言って喜んでるのを見てると〈気をつけろよ〉〈原盤は持っとけよ〉といつも思う」

Atsuo「そうですね!」

シュガー「取り返すのは大変だからね。うちらはがんばりました。ま、だからそういうことも含めてね、日本の音楽業界の構造はおかしいなと。海外とかのシーンを見て帰ってくると、居心地悪いなって」

Atsuo「KiliKiliVillaみたいな価値観が広く共有できたらいいと思う、若いアーティストとかにも」

――そうですね。

Atsuo「シンプルにね、音楽を愛しているスタッフがいるかどうかだと思いますね。音楽を愛してる人であれば、アーティストの想いも理解してくれるだろうし、音楽を健全に届けられる。シュガーさん含め今回そういう人たちに巡り会えたのはとても良かった」

 


RELEASE INFORMATION

Boris 『W』 KiliKiliVilla/Sacred Bones(2022)

リリース日:2022年1月21日(金)
配信リンク:https://geni.us/BorisW

TRACKLIST
1. I want to go to the side where you can touch…
2. イセリナの神様は言葉 -Icelina-
3. 数に溺れて -Drowning by Numbers-
4. Invitation
5. 未来石 -The fallen-
6. 善悪の彼岸 -Beyond Good and Evil-
7. Old Projector
8. 知 -You Will Know- "Ohayo" Version
9. 乗算 -Jozan-