今までのスタンダードを越えた〈これから〉のピアソラを聴くレパートリーを加えて

 思えば我が国のバンドネオン奏者もずいぶん増えたものだ。しかもそれぞれが独自の方向を向き、精力的な活動を展開しているのは実に心強い。そんな中でも三浦一馬は五重奏団や大編成の東京グランド・ソロイスツなど様々なアプローチで積極的にアストル・ピアソラ作品に挑んでいる。

三浦一馬 五重奏団 『PIAZZOLLA: Standards & Beyond』 DENON(2022)

 そんな三浦の五重奏団による新作『PIAZZOLLA: Standards & Beyond』は、“天使のミロンガ”“オブリビオン”“ミケランジェロ70”などよく選ばれる曲に混じって採り上げられることが少ない曲が選ばれている構成。そして定番の“リベルタンゴ”“アディオス・ノニーノ”などは収録されていない。そこにはどんな思いが込められているのか。

 「ピアソラ作品は良く聞き込んでいるファンの方と、初めて聴く人とのギャップが大きいと思います。いつも新たなものを開拓するつもりで作っていますが、今作では両者が楽しめるものを作りたかったんです。だから今まで余り聴かれることがなくても、今後ピアソラ・スタンダードになりそうなものを採り上げました。結果として僕達自身も長く演奏してきた曲と、初めて採り上げる曲が混ざることになりました。“ルンファルド”“カリエンテ”“レビラード”“ムムキ”辺りがそうですね。そろそろ次のステージに進もうという意思の表れです」

 五重奏団のメンバーは今まで長いこと一緒に演奏している面々だが、その中でもヴァイオリンの石田泰尚は長い付き合いだという。

 「そもそも最初にご一緒したのは僕がまだ高校生の頃。2006年に神奈川フィルでオーケストラデビューをしたときですから」

 骨太な三浦のバンドネオンと対峙するように、独特なアプローチを見せる石田のヴァイオリン。そのコンビネーションから伝わる互いへの信頼感はまさに歳月が醸したものなのだろう。

 そして収録曲の選曲や楽譜の用意は全て三浦によるのだという。

 「世に出ているピアソラの譜面はほとんど第三者によるもので信用ならないので、音源から全パート自分で起こしています。今は録音や映像資料が沢山ありますからいいですね。既に相当数のストックができています」

 ではアルバム中、一番の聴き所はどこなのか聞いてみた。

 「アルバムは始めから終わりまでひとつだと思って構成しています。だからコンサートのように曲順通り聴いて欲しいです」

 ならばじっくり時間をかけて、今までそしてこれからのピアソラをこの一枚で感じてみたい。

 


LIVE INFORMATION
三浦一馬 五重奏団 PIAZZOLLA STANDARDS & BEYOND
2023年1月29日(日)東京 紀尾井ホール
開演:14:00

2023年2月4日(土)大阪 ザ・シンフォニーホール
開演:19:00
曲目:天使のミロンガ/悪魔のロマンス/ミケランジェロ70/天使のイントロダクション/他
https://www.kazumamiura.com/concert