キンテート編成でピアソラ世界の深奥に迫る、移籍第1弾『リベルタンゴ』
1992年7月にこの世を去った巨星ピアソラの作品が、没後5周年を機に驚くべき浸透力を発揮する。その3年後、10歳の三浦少年はバンドネオンとピアソラ音楽に出会う。18歳で華々しくシーンに躍り出てから、早10年。5枚目となる移籍後の最新CDは、キンテート編成でピアソラ世界の深奥に迫る意欲作だ。
まず、一聴してそれと判る残響の濃密さ! ひょっとしてスタジオではなく、ホール録音では?
「はい、今までスタジオ録音経験しかなかったので、いつかホール録音はやりたいなと思っていました。普段のコンサートの気持ちのまま呼吸を合わせ、響きを感じながらいかに録れるか、チャレンジしてみようと。狭いハコに閉じ込められると、場合によっては煮詰まってきちゃう(苦笑)。ホール空間がやっぱり好きで、緊張感はあるけど楽しい。僕の耳というか、弾いている感覚って、ホールにいる自分なんですよ。7月30、31日、稲城市立iプラザで録音しました」
ミックス作業や選曲にも、並々ならぬこだわりで挑んだという。何度も演奏した曲ばかりではない。
「《92丁目通り》《プレパレンセ》《キチョ》《五重奏のためのコンチェルト》は、レコーディングで初めてキンテート編成で演奏した。《リベルタンゴ》《アディオス・ノニーノ》をきっかけに入ってこられた方へ、次のお薦め、聴いて欲しい曲を収録したつもり」
とはいえ、編曲に尋常ならざる執念を込めた。
「編曲にはいろんな考え方がある。今回は正直言うと、偽物のいわゆる“編曲”にはしたくなかった。むしろ編曲せず、どれだけオリジナルの本物に近づけられるかを目指したわけです。いわば時代劇の時代考証みたいなもので、音源や資料をあらゆる角度から検討・研究し、“構成・監修”した編曲と言えます」
それを可能にしたのが2011年前後から交流のあった、トップ級メンバーたちだ。昨年結成した室内オーケストラ、東京グランド・ソロイスツ(略称TGS)の主要メンバーらが、若き三浦一馬を支える。
「TGSでも核となるのはキンテート。ピアソラの完成形というか、究極の編成ですよね。何も足さない、何も引かない、じゃないですが(笑)」
「すべてをちゃんと音符で書きたい人」と自認しながらも、《アディオス・ノニーノ》冒頭のカデンツァは、尊敬するピアニスト山田武彦に書き下ろしを依頼。また《リベルタンゴ》は敢えて厳密な譜面にせず、文字通り即興感あふれる演奏を狙ったという。探求成果と遊び心の絶妙な配分が、キンテートの演奏に膨らみを持たせたようだ。キャリア初のロングツアーに臨む、自由な翼を得たバンドネオン奏者に期待が募る。
LIVE INFORMATION
三浦一馬キンテート ツアー2018-2019
○10/25(木)大田区民ホール アプリコ 大ホール
○11/3(土)りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館
○11/4(日)東大和市民会館 ハミングホール 小ホール
○11/20(火)キャラホール・都南公民館(盛岡)
○11/23(金・祝)多賀城市文化センター多賀城市民会館大ホール
○11/24(土)所沢市民文化センター ミューズ マーキーホール
○12/13(木)電気文化会館「ザ・コンサートホール」(名古屋)
○12/14(金)ザ・シンフォニーホール
○2019/2/24(日)めぐろパーシモンホール
○3/9(土)稲城市立iプラザ