無限に広がるバンドネオンの魅力
バンドネオン奏者が全曲ジョージ・ガーシュウィンの楽曲でアルバムを完成させた。“前代未聞じゃないですか?”と笑う三浦一馬の4枚目となる最新作『ス・ワンダフル~三浦一馬プレイズ・ガーシュウィン』は、トップ・プレイヤーの荒井英治(vn)、山田武彦(p)、石川智(per)、黒木岩寿(b)と共に、アメリカを代表する作曲家が残した様々な音楽スタイルを多彩な表情で描き出した、斬新なのに実に心地良いアルバムだ。
「例えば、ガーシュウィンを知らない人がこのCDを聴いて、彼の曲は魅力的だな、音楽っていいなと思ってくれたら、それはもう本望です」
バンドネオンに魅了され、10歳から弾きはじめた今年25歳の彼にとって別格なアーティストはアストル・ピアソラ。同様に愛して止まない音楽家は15、16歳からのめり込んだガーシュウィンである。
「彼の偉大さをあえてひとつ上げるとすれば、アメリカという国、ニューヨークという都市に生きる人たちの想いや感情、考えなどを完璧に音楽で表している点です。ピアソラもまたアルゼンチンという国、ブエノスアイレスという街を背景に、そこで暮らす人々の声を音楽で表現しました。つまり、ふたりの巨匠には共通点があるんですよ」
バンドネオン=タンゴという先入観を一変させる本作は、楽器が持つ無限の可能性を伝える役目も果たしているが、その挑戦は今に始まったことではなく、2006年、ネストル・マルコーニのステージを体感した日から続いている。
「あの時の演奏は本当に身震いする程凄かった。この人は神様だと思いましたからね。そして、自分の中で勝手に作っていたバンドネオンに対する限界が崩れ去ったんです。それからです、この楽器でもっと出来ることはないかと模索するようになったのは」
以降、固定観念から解放され、音楽や楽器と自由に向き合えるようになり、自分の道を迷わず邁進。
「僕にしか出来ないモノを生み出していきたいんです。例えば昔、誰かが作曲した作品を蘇らせるにしても、必ずそこに新たな何かを吹き込みたい。常にパイオニアでいたいですね」
インタヴュー取材から数日後、彼が〈出光音楽賞〉を受賞したと朗報が入った。テレビ番組『題名のない音楽会』の25周年を記念して1990年に制定された名誉ある音楽賞、しかも、“原則としてクラシック音楽部門”という選考基準が設けられている中で、今回、バンドネオン奏者が初の受賞という快挙を成し遂げたのだ。それこそアルバム・タイトル通りにス・ワンダフルな出来事。三浦の快進撃は止まらない。
LIVE INFORMATION
三浦一馬クインテット「ガーシュウィン&ピアソラ」
○6/2(火)19:00開演 会場:ウインクあいち
○6/4(木)19:00開演 会場:EX THEATER ROPPONGI
○6/13(土)18:00開演 会場:あいおいニッセイ同和損保 ザ・フェニックスホール
東京公演出演:三浦一馬、山田武彦(p)石田泰尚(vn)大坪純平(g)高橋洋太(cb)石川智(perc)
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