めぐろパーシモンホール、熱い新春公演をピックアップ!

 必要悪といったら言い過ぎであろうか。“音楽ジャンル”というものは、容易に音楽の雰囲気を共有・伝達できるのと引き換えに、リスナーを限定してしまう“諸刃の剣”にもなり得る。特に、その音楽がもつ凄みが、ひとつのジャンルに収まりきらない時には、弊害が大きくなってしまう。

 1990年生まれのバンドネオン奏者、三浦一馬の音楽もまさにその典型だ。三浦のレパートリーの中心に位置するアストル・ピアソラ(1921-92)の音楽は、彼の死後にタンゴ、クラシック双方のミュージシャンによってレパートリーとして広く演奏されるようになっていったのは広く知られている通り。三浦が他のミュージシャンと異なるのは、タンゴとクラシックどちらの良さも両立しようとしていることだ。クラシック的な高度で折り目正しいテクニックを用いて、ピアソラ自身の演奏による過剰なまでのエネルギーの発露を実現する……。口でいうのは易しいが、それを実現するために三浦は、ピアソラの残した録音を数え切れないほど聴き直しながら、演奏する譜面を自ら作成していく。一種オタク的ともいえる執念をもって、ピアソラやタンゴの古典を現代に蘇らせていく三浦の音楽は、ひとつのジャンルに収まりきらないものなのだ。めぐろパーシモンホールでのコンサートでは、世代を超えて三浦のもとに集まった名手たちによるレギュラーのキンテート(五重奏)だけでなく、ゲストに弦楽四重奏も加わる豪華版。これは楽しみである。

 1991年生まれのジャズピアニスト、桑原あいもジャズというジャンルに収まりきらない魅力をもったミュージシャンだ。2017年に世界トップクラスのドラマーであるスティーヴ・ガッドと、ベーシストのウィル・リーを迎えたトリオが大きな話題を集め、更に2018年8月にリリースされた新アルバム『To The End Of This World』では、トリオやアコースティックピアノという制限を取り払った新境地を聴かせてくれたことも記憶に新しい。そんな桑原だが、「ピアノは弦楽器」という持論をもち、クラシックのピアニストのように楽器の持つポテンシャルを、きちんと引き出すことが出来る、稀有な存在でもあることを忘れてはなるまい。だからこそジャズミュージシャンとしてだけでなく、ピアニストとしての研鑽も怠らない桑原ならではの魅力を堪能できる、コンサートホールでのソロライヴを是非ともお薦めしたい。めぐろパーシモンホール(小ホール)公演は、ホールの残響を活かしたピアノの豊かな響きと、ライヴハウスと同じような至近距離での迫力を同時に体感できる貴重なチャンスとなるはずだ。こちらも聴き逃がせない。

 


LIVE INFORMATION

三浦一馬タンゴ・セレクション ~古典タンゴからピアソラまで
○2/24(日)会場:めぐろパーシモンホール 大ホール
【出演】三浦一馬(bandoneon)山田武彦(p)石田泰尚(vn)髙橋洋太(vc)大坪純平(g)丹羽洋輔(vn)奈須田弦(vn)生野正樹(vla)門脇大樹(vc)
【曲目】
〈1st stage-古典タンゴ〉ロドリゲス:ラ・クンパルシータ/モーレス:ウノ/ビジョルド:エル・チョクロ ほか
〈2nd stage-ピアソラプログラム〉
ブエノスアイレスの夏/ブエノスアイレスの冬/アディオス・ノニーノ ほか

桑原あい Solo Piano Live
○3/23(土)会場:めぐろパーシモンホール 小ホール
【曲目】桑原あい:Dear Family/バーンスタイン:ウエスト・サイド・ストーリー メドレー ほか
www.persimmon.or.jp/