約6年ぶりとなるオリジナル作。闘病を続けながら日記を書くように制作したというスケッチ的な音楽のなかから12曲をまとめた作品集で、制作日をそのままタイトルにした楽曲が、ほぼ時系列に沿って並んでいる。各楽曲は、たおやかに奏でられるピアノとシンセサイザー、その演奏に伴うノイズとアンビエンスという限られた要素で構成されているものがほとんど。坂本の息遣いも聴き取れる、時にローファイな録音が生々しく、耳を捉えて離さない。中盤までは音をひとつずつ配置していくような、各音の関連性が希薄な構成の楽曲が続くのだが、後半に至って確かな旋律が立ち現れる。持続する穏やかでフラットなトーンと、そのなかから浮かび上がる仄かなエモーション。その繊細で豊かな変化がただただ美しい。

 


坂本龍一のニューアルバム『12』が、今週1月17日にリリースされた。スタジオアルバムとしては、2017年3月にリリースされた『async』以来、実に5年10か月ぶりの新作だ。

坂本龍一(以下、教授と書かせてもらう)は、2020年12月に配信によるピアノソロのコンサート〈Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 12122020〉を行った(その模様は、2021年にアルバムとしてリリースされた)。そして、2年後の2022年12月に〈Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022〉を配信し、話題になったことも記憶に新しい。

2022年末の公演は、〈とっても音がいい〉と語るNHK放送センターの509スタジオで1日に数曲ずつ演奏し、それを編集したものだった。現在の教授は〈ライブでコンサートをやりきる体力がな〉く、〈この形式での演奏を見ていただくのは、これが最後になるかもしれない〉とし、このような収録になったのだった。

2014年と2020年にがんの診断を受けて以降、教授はその治療と闘病を続けている。大きな手術や入院を幾度も重ねており、2022年6月にはがんのステージ4であることが「新潮」の連載〈ぼくはあと何回、満月を見るだろう〉の初回で明かされた。

そんななかでリリースされたのが、この『12』だ。どうにも身構えてしまい、単なる新作として気軽に聴くことすら躊躇され、聴きはじめることにも勇気がいった。

2021年3月、パンデミックの影響で米NYの自宅に戻れず、退院後に仮住まいの家に〈帰り〉、体力が少し回復した3月末にシンセサイザーに触れたことが、本作の制作の端緒になっているという。〈それまでは音を出すどころか音楽を聴く体力もなかったが〉、〈ただ「音」を浴び〉、〈それによって体と心のダメージが少し癒される気がした〉、そしてシンセサイザーやピアノで奏でた音を〈日記を書くようにスケッチを録音していった〉のだと、教授は綴っている。〈そこから気に入った12スケッチを選び〉、〈何も施さず、あえて生のまま提示し〉たのが本作だ。〈今後も体力が尽きるまで、このような「日記」を続けていくだろう〉ともある。教授のマネージャーによる手記も必読で、〈ここ10年ほどは何度も音と響きを確かめ少しずつ曲を作っている〉、〈まるで彫刻するように〉といった表現が印象深い。

教授のA&Rによると、そうして出来上がった曲はみずからミキシングしていたが、〈別な耳を通そう〉という理由でエンジニアのZAKが改めてミックスダウンしたのだそうだ。また、本作は、〈12 Sketches〉という仮タイトルだったが、最終的にはよりシンプルな〈12〉という題になっている。ジャケットを含めてこの虚飾のなさは徹底していて、“20220302 - sarabande”を除いて、曲名もすべてオーディオファイルやデータのような日付のみになっている。録音された日を表しているのだろうが、それにしても……。

そのような『12』は、マネージャーが言うように、まさに〈坂本の日々の声〉がそのまま作品になったようなアルバムだ。教授が病と闘いながらいまこの瞬間も生きている、ということを、シンセやピアノのひそやかな音と響きが、とつとつと、しかし力強く雄弁に語っている。

おもしろいのは、多くの曲で、教授の吐息や鼻息がはっきりと記録されていること。通常であればカットされてしまうようなこの〈ノイズ〉は、あえて残され、作品の一部として楽音とともにパッキングされているにちがいない。教授が息を吸って吐く音の存在は、奏でられた音の流れに同期してリズムを形作り、楽器を奏でる教授がそこにいること、その空間性や空気感、そして生の実感までをも伝えている。なんだか、心臓の鼓動の音まで聞こえてきそうだ。それと、本作の坂本の呼吸音は、やけのはらも指摘しているように、グレン・グールドやセロニアス・モンク、キース・ジャレットなどがピアノを弾きながら発するうなりのようなものに近いとも感じられる。

収められている楽曲は、いずれも抽象的で、断片的なようにも聞こえるメロディーのスケッチで、時間も9分から1分のものまでさまざまだ。“20220302 - sarabande”のように教授らしい旋律のピアノ曲もあるものの、いずれもミニマルだったり、シンセによるドローンに近いものだったり、ただ陶片を鳴らしただけの“20220304”があったりと、バラバラであることがかえって生々しい(ちなみに、“20220302 - sarabande”の〈sarabande(サラバンド)〉とは、バロック音楽の組曲にしばしば組み込まれている3拍子の舞曲のことだそうだ)。また、ZAKによるマジックのためだろうか、引き伸ばされた残響音のえもいわれぬ空間性が印象的だ。

教授のディスコグラフィーで言うと、2001年のスケッチを集めた『COMICA』(2002年)に近いところがあるかもしれない。同作は、911の米同時多発テロ事件と強くリンクした陰鬱な楽曲集だったが、とはいえ、『12』は教授自身の状況も、世界の状況も、まったく異なっている。『12』は、いま現在の教授の音楽の、ありのままの姿だ。そして、いずれにせよ、ポップスともアンビエントとも現代音楽とも分類不可能な、坂本龍一の音楽が総体として強く刻印されている。それだけでも、あまりにも感動的に迫ってくる。

なお、タワーレコード新宿店では、『12』のリリースを記念して、本作でも使用された教授愛用のシンセサイザー、Prophet-5や陶片、写真、関連作などを展示・展開したポップアップショップが2月22日まで開催されている。昨夜見に行ったところ、仕事帰りのファンで賑わっており、初回生産限定盤LPは早くも完売、CDもかなりの勢いで売れていた。新宿店限定の特典もあるので、教授の音楽と『12』の世界を深く味わうためにも、ぜひ立ち寄ってほしい。

 


RELEASE INFORMATION
リリース日:2023年1月17日(火)

■CD
品番:RZCM-77657
価格:3,410円(税込)

TRACKLIST
1. 20210310
2. 20211130
3. 20211201
4. 20220123
5. 20220202
6. 20220207
7. 20220214
8. 20220302 - sarabande
9. 20220302
10. 20220307
11. 20220404
12. 20220304

■VINYL(初回生産限定盤 2枚組)
品番:RZJM-77655~6
価格:10,780円(税込)
封入:自筆スケッチ/譜面 プリント

TRACKLIST
SIDE A
1. 20210310
2. 20211130
3. 20211201

SIDE B
1. 20220123
2. 20220202

SIDE C
1. 20220207
2. 20220214

SIDE D
1. 20220302 - sarabande
2. 20220302
3. 20220307
4. 20220404
5. 20220304

■DIGITAL ALBUM
配信リンク:https://commmons.lnk.to/twelvestr

TRACKLIST
1. 20210310
2. 20211130
3. 20211201
4. 20220123
5. 20220202
6. 20220207
7. 20220214
8. 20220302 - sarabande
9. 20220302
10. 20220307
11. 20220404
12. 20220304

 

INFORMATION
坂本龍一 NEW ALBUM『12』発売記念 POP UP SHOP
“Space Sakamoto Shinjuku”

2023年1月17日(火)~2023年2月22日(水)タワーレコード新宿店10階 催事スペース ※2月6~7日は休館の為、営業・展示はございません
​展示物:陶片/お鈴/MONO消しゴム/シャーペン/手書き譜面/教授のお人形
https://tower.jp/store/news/2023/01/055008

【展示内容】
■坂本龍一 楽器展示
『12』制作時に使用したシンセサイザー〈シーケンシャル・サーキット プロフェット5〉を中心に貴重な楽器群を展示。

■パネル展示
坂本龍一ほか撮影によるアルバム『12』制作期間に撮影されたスナップフォトを収録したリーフレット(先着特典)掲載の写真を展示 ※展示パネルは期間中に『12』をご購入の方に抽選でプレゼント

■坂本龍一 直筆サイン入り〈NO MUSIC, NO LIFE.〉意見広告シリーズ最新版ポスター展示

【新宿店での購入特典】
■坂本龍一『12』展示パネル プレゼント 

対象商品:坂本龍一『12』
CD(RZCM-77657)アナログ(12インチ)2枚組(RZJM-77655~6)
抽選方法:タワーレコード新宿店にて、期間中に対象商品をお買い上げのお客様に先着で〈パネル抽選券〉をお渡しします。
※当選発表:2023年2月24日(金)正午以降に当選番号を各店舗のオフィシャルサイトやTwitterにて発表予定です。店頭にて、当選した〈パネル抽選券〉と展示パネルの引き換えを行います
※対象商品1枚ご購入につき、1口抽選応募に参加頂くことができます
※〈パネル抽選券〉のお取り置きはできません
※展示期間は諸事情により変更、中止となる場合がございますので予めご了承ください
※プレゼントは展示パネル現物となります。パネルの絵柄はお選びいただけません。
あらかじめご了承ください
※ご不明点は店舗スタッフにお尋ねください
※当選した作品の譲渡・転売は固く禁じさせていただきます
抽選期間:2023年1月17日(火)~2023年2月22日(水)

■坂本龍一〈NO MUSIC, NO LIFE.〉ポスタープレゼント
タワーレコード新宿店にて期間中に対象商品をお買い上げで、ポスター抽選会にご参加いただけます。
対象商品/プレゼント内容:坂本龍一『12』をご購入いただくと、〈坂本龍一「NO MUSIC, NO LIFE.」意見広告シリーズポスター2023年1月版〉抽選会にご参加いただけます。『12』を除く坂本龍一の関連作(新宿店10Fポップアップショップにて陳列の商品)を税込5,000円以上ご購入で〈坂本龍一「NO MUSIC, NO LIFE.」意見広告シリーズポスター2006年12月版〉の抽選会にご参加いただけます
抽選期間:2023年1月17日(火)~特典が無くなり次第終了

■映画「戦場のメリークリスマス 4K修復版」公開記念ポスター/ポストカードプレゼント 
プレゼント内容:対象商品を税込5,000円以上お買い上げのお客様に「戦場のメリークリスマス」2023年版ポストカードをプレゼント。さらに抽選で「戦場のメリークリスマス」2023年版ポスター(B2サイズ)をプレゼント。
対象商品:『12』を除く坂本龍一の関連作(新宿店10Fポップアップショップにて陳列の商品)
開催期間:2023年1月17日(火)~ ※無くなり次第終了

戦場のメリークリスマス 4K修復版
出演:デヴィッド・ボウイ/トム・コンティ/坂本龍一/ビートたけし/ジャック・トンプソン/ジョニー大倉/内田裕也
監督・脚本:大島渚
脚本:ポール・マイヤーズバーグ
原作:サー・ローレンス・ヴァン・デル・ポスト「影の獄にて」
製作:ジェレミー・トーマス
撮影:成島東一郎
音楽:坂本龍一
美術:戸田重昌
1983年/日本=イギリス=ニュージーランド/英語・日本語/123分/ビスタサイズ/ステレオ
協力:大島渚プロダクション
配給・宣伝:アンプラグド
©大島渚プロダクション
2023年1月13日(金)より新宿武蔵野館ほか順次公開
https://unpfilm.com/senmeri2023/

【全店/オンラインでのご購入特典】 ※新宿店以外の全店/オンライン対象の特典もお渡しいたします

■坂本龍一『12』リーフレット
坂本龍一ほか撮影によるアルバム制作期間に撮影されたスナップフォトを収録
※ご予約済みのお客様も対象となります
※特典は満了次第終了となります

■坂本龍一〈NO MUSIC, NO LIFE.〉ポスター抽選
2023年1月17日(火)リリースのアルバム『12』をタワーレコード各店および TOWERmini、タワーレコード オンラインのいずれかにてご購入いただいた方に、〈NO MUSIC, NO LIFE.〉ポスターを抽選で10名様に差し上げます。
※店舗でご購入の方は応募QRコード付きレシートより、タワーレコード オンラインでご購入の方は特設ページより抽選にご応募いただけます。応募にはメンバーズ登録が必要となります
https://tower.jp/article/feature_item/2022/11/21/0703