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ピート・ロドリゲス“I Like It Like That”とカーディ・B“I Like It”

ダンスとともにサルサの有名曲がメドレーされ、最後はピート・ロドリゲスのブーガルーソング“I Like It Like That”(67年)へ。ここから“I Like It Like That”をサンプリングしたカーディ・Bの“I Like It”へとつなげていったシーンが、とにかく見事だった。

ピート・ロドリゲスの67年作『I Like It Like That (A Mi Me Gusta Asi)』収録曲“I Like It Like That”

“I Like It Like That”は、ブラックアウト・オールスターズ(The Blackout All-Stars)によるカバー“I Like It”が94年にリバイバルヒットしている。これは、ブロンクス出身の黒人女性監督ダーネル・マーティンの「ブロンクス・ストリート(I Like It Like That)」のサウンドトラックに収録されたもの。映画は、サウスブロンクス近郊の貧困地区で暮らすプエルトリコの男と、ジャマイカとプエルトリコのミックスである女の物語なのだとか。そのサウンドトラックはラテン系アーティストの曲で構成されており、ブラックアウト・オールスターズはレイ・バレット、シーラ・E、ティト・プエンテ、ティト・ニエヴェス、パキート・デリヴェラ、デイヴ・ヴァレンティン、グローヴァー・ワシントン・Jr.からなるスーパーグループだった。

94年のサウンドトラック『I Like It Like That Vol. 1 (Music From The Motion Picture)』収録曲ブラックアウト・オールスターズ“I Like It”

カーディ・Bの“I Like It”に話を戻すと、バッド・バニーとコロンビアのレゲトンスター、J・バルヴィンが参加したこの曲は、2018年のヒットナンバーである。私にとってこの曲は重要で、というのも、“I Like It”が大きなきっかけのひとつになって2010年代のラテントラップやレゲトンにハマっていったところがあるからだ。だからこそ、この一連のパフォーマンスにはかなりぐっときた。ちなみに、カーディ・Bは、サウスブロンクス生まれ、父はドミニカ人で母はトリニダード人という出自である。

カーディ・Bの2018年作『Invasion Of Privacy』収録曲“I Like It”

 

レゲトンは永遠

さて。ラテンパーカッションと強烈なEDM/ハウスを組み合わせた、ジェントリフィケーションと停電をテーマにしたという“El Apagón”を経て、ライブは二度目のインタールードに入っていった。

2022年作『Un Verano Si Ti』収録曲“El Apagón”

2つめのビデオは、ドラマ仕立てになっていた。親元を離れるのか、実家から車で出ようとする少年の姿が映される。バッド・バニーの自伝的な内容なのだろうか。車を走らせる前、少年は何かを思い出したのか自室に駆け込んで戻っていき、ベッドの下からアディダスのスニーカーの箱を取り出す。箱を開けると、テゴ・カルデロン(Tego Calderón)の『El Abayarde』(2003年)のCDが入っている。

『El Abayarde』は、テゴ・カルデロンのデビューアルバムで、レゲトンとヒップホップを組み合わせた当時のヒット作だ。バッド・バニーは、先達にして先輩テゴ・カルデロンへのリスペクトをたびたび表明している

テゴ・カルデロンの2003年作『El Abayarde』収録曲“Pa’ Que Retozen”

次にビデオは、ナレーションと映像のコラージュを中心にしたものに再び切り替わる。レゲエがかかり、一瞬、ボブ・マーリーの姿が映った。今回は、ラテンミュージックの総体や全体ではなく、レゲトンの歴史を紹介するものなのだ。

80年代、レゲエとヒップホップがパナマやプエルトリコのアンダーグラウンドで出会い、それは〈声なき声〉の声になった、とナレーターは語る。ルベン(Ruben)、レナート(Renato)、ヴィコ・C(Vico C)、エル・ヘネラル(El General)と、初期のレゲトンやダンスホールのアーティストたちが映されていく。

そして、ブレイクビートとベースの時代へ。プレイェロ(Playero)、DJネグロ(DJ Negro)、マノ・デューラ(Mano Dura)と、代表的なディージェイやグループが紹介された。

90年代には、レゲトンはメインストリームに食い込む。カリビアンと融合し、ベースとドラムビートが進化した――。

21世紀にはさらに新たな音楽へと発展し、サウンドシステムに〈ガソリン〉が注がれた、と語られる。この部分はおそらく、ダディ・ヤンキーの大ヒット曲“Gasolina”(2004年)のオマージュだろう。そして、グワイェテオ(guayeteo)、ペレオ(perreo)、サン・ドゥンガ(san dunga)と、ダンスフロアを席巻したダンスが数え上げられた。

ダディ・ヤンキーの2004年作『Barrio Fino』収録曲“Gasolina”

「2005年には、デンボウ(ジャンルでありレゲトンのリズム)の狂乱が世界を巻き込んだ。カロリーナとサントゥルセ(いずれもプエルトリコの街)のサウンドがラテンアメリカのレガシーになったのだ。何がどうなろうと、レゲトンは永遠だ」。

ビデオはドラマパートに戻って、少年が巨大なサウンドシステムを車に積んだ友人に出会う。その車に乗って、ハイウェイを走る2人。ドン・チェジーナ(Don Chezina)の“Chezidon”(98年)、エクトール&ティト(Héctor & Tito)の“Mataron”(97年)、ドン・オマール(Don Omar)らの“Desafío (Intro)”(2003年)と、Y2K前後のレゲトンナンバーをBGMにしたドライブだ。

DJディッキーの98年作『Mi Trayectoria』収録曲“Chezidon”

97年のコンピレーションアルバム『El Cartel』収録曲エクトール&ティト“Mataron A Un Inocente” 

2003年のコンピレーションアルバム『Desafío』収録曲ドン・オマール、テンポ、テゴ・カルデロン、ウィシン&ヤンデル、アレクシス“Desafío (Intro)”

アメリカ国境と思われる場所にたどり着いた2人は、英語でIDチェックを受ける。2人は関門を無事にくぐり抜けたが、これはそのままドラマの映像が、バッド・バニーが今、アメリカでライブをやっている瞬間につながっているような演出に感じられた。

そしてライブは、ジョエル&ランディ(Jowell & Randy)をゲストに迎えた“Safaera”へ。

2020年作『YHLQMDLG』収録曲“Safaera”