田中亮太「毎週金曜日にMikiki編集部の田中と天野がお送りしている〈Pop Style Now〉です」
天野龍太郎「今週の〈カニエ通信〉ですが、TwitterとInstagramのアカウント消去、ドナルド・トランプ大統領との会談、という2本立てです。チャンス・ザ・ラッパーとのコラボ作『Good Ass Job』の制作が危ういんじゃないかという話も……」
田中「いつの間に〈カニエ通信〉になったんですか……。では、気を取り直して、今週も必聴の5曲を紹介していきます」
天野「まずは〈Song Of The Week〉!」
Girlpool “Lucy's”
Song Of The Week
天野「今週の1曲は、LAのガールプールから届けられた新曲“Lucy's”。“Where You Sink”と同時にリリースされました」
田中「ガールプールはハーモニー・ティヴィダードとクレオ・タッカーの2人組ですね。タッカーはトランスジェンダー、あるいは〈ノンバイナリー〉であることをオープンにしています」
天野「ノンバイナリーって性自認を限定しない立場ですね。おそらくタッカーは身体的には女性ですが、“Lucy's”では、これまでと打って変わって男性的な低い歌声のタッカーがリード・ヴォーカルを取っています」
田中「ムーディーな歌声はインパクト大ですね。タッカー、そしてガールプールにとっての決意表明みたいな曲なんでしょうか」
天野「抽象的な歌詞ですが、〈不案内な場所、でもあなたはそこにいたほうがいい〉という歌い出しからして、なんとなく意味深。彼/彼女らの在り方も含めてアクチュアルでフレッシュな、〈Song Of The Week〉のふさわしい一曲なのでは。音もクールですしね」
田中「ローファイでグランジーなギター・サウンドや、単調ながら存在感たっぷりのドラムが醸している、ささくれ立ったフィーリングが凄い。めちゃくちゃカッコイイです」
天野「アンタイからリリースされた去年のアルバム『Powerplant』は愛聴盤だったのですが、ブラッド・オレンジことデヴ・ハインズと制作した“Picturesong”もありましたし、この勢いだと新作も出そうですね。楽しみです」
SASAMI “Not The Time”
田中「次は、ササミの新曲“Not The Time”です」
天野「今月26日(金)には、カップリング“Callous”と共に7インチでもリリースされるようですね」
田中「イエス。彼女は、もともとチェリー・グレイザーというガレージ・パンク・バンドのメンバーとして活動していたんですが、ソロ活動に専念するため脱退。その後は、ワイルド・ナッシングやアヴィ・バッファローなどの作品にも参加しつつ、この度晴れてドミノと契約しました」
天野「で、これがドミノからのデビュー・シングルと。ジャングリーなギター・サウンドがハンマー・ビートに乗っかる、爽快な楽曲です。〈Moog 15〉のアプリで作ったという、ちょっとチープなシンセの音色も耳に残るります」
田中「ギター・ポップ的な可愛らしさと、ポスト・ロック的な端正さを掛け算しているというか、不思議な魅力を持った曲ですね。僕は、ジョン・マッケンタイアがプロデュースを手掛けたティーンエイジ・ファンクラブのアルバム『Man-Made』(2005年)っぽいなーと思いましたよ」
天野「それ、聴いてみようっと。上でリンクを貼った、FADERの〈rock’s next big thing〉って煽りはちょっと仰々しすぎるけど。でも今後はサッカー・マミーやミツキ、スネイル・メイルとのツアーを控えてるとのことで、注目度を一気に高めそう。7インチも絶対に手に入れたい!」
Little Dragon “Lover Chanting”
天野「次はスウェーデンのバンド、リトル・ドラゴンの“Lover Chanting”です」
田中「先日ニンジャ・チューンとの契約を発表すると共にリリースされた新曲ですね。11月9日(金)に同タイトルのEPを出すとのことで」
天野「楽しみですねー。ヴォーカリストのユキミ・ナガノはお父さんが日本人なのですが、リトル・ドラゴンの知名度ってここ日本ではあまり高くないと感じてて。もっと知られてほしいなって思ってたんです」
田中「ですよね。ビッグなダンス・グルーヴと先鋭的なポップネスを兼ね備えた、北欧らしいバンドだなーと思っています。同時代のR&Bともシンクロするサウンドメイキングも魅力的。インターネットのファンとかにもぜひ聴いてほしいですね」
天野「そうですね。特にナガノは、向こうではヴォーカリストとして超尊敬されてて。バンドとしてゴリラズやSBTRKT、バッドバッドノットグッド、ケイトラナダなんかの曲にも参加していますし。彼女のことは、あのケレラもリスペクトしているそうですよ」
田中「この新曲はダブ・テクノ的なフロア・チューンですが、ナガノの狂おしい歌い回しとか、浮遊感溢れるリヴァーブの効いたサウンド・デザインとか、クールで完璧な曲ですよね」
天野「最高です! 新しいEPをきっかけに、日本での注目度がグッと上がるといいなと思っています」
Free Nationals feat. Daniel Caesar & Unknown Mortal Orchestra “Beauty & Essex”
田中「で、こちらもインターネットやバッドバッドノットグッドのファンなら聴いてほしいメロウ&グルーヴィーなナンバー。フリー・ナショナルズがダニエル・シーザー、さらにアンノウン・モータル・オーケストラ(!)を迎えた“Beauty & Essex”です!」
天野「まったりしたムードが心地いい、チリンな極上ナンバーですね。ベースラインが超エロい。ちなみに、説明不要かもですがフリー・ナショナルズはアンダーソン・パークのバックを務めているバンドで。今年の〈フジロック〉でのライヴも最高だった!と話題でしたよね」
田中「で、フィーチャーされたダニエル・シーザーはカナダ人のR&Bシンガー。昨年リリースのアルバム『Freudian』は僕も愛聴しておりましたよ。この曲でも、ソフトタッチな歌声で艶やかな色味をもたらしています」
天野「もう一組のアンノウン・モータル・オーケストラは、ポートランドに拠点を置くUSサイケ・ポップの雄。このマッチングは、うれしい驚きでした。日本のシーンで例えるなら、OvallとTempalayが合体しちゃった、みたいな? アンノウン・モータル・オーケストラのルーバン・ニーソンは、1分50秒付近でガッと入ってくるんですけど、いきなりのアクの強さにちょっと笑っちゃいます」
田中「フリー・ナショナルズ名義でのアルバムも遠からずリリースされるようなので、楽しみですね。シドやカリ・ウチス、クロニックス、さらに故マック・ミラーも参加している様子」
天野「11月16日(金)にはアンダーソン・パークの新作『Oxnard』も出ますし、このあたりはしばらくアツいですね」
Bad Bunny feat. Drake “MIA”
天野「ラストは、バッド・バニーがドレイクをフィーチャーした“MIA”。すでに大きな話題になっています」
田中「ドレイクは説明不要かと思いますが、主役のバッド・バニーはプエルトリコ出身のラッパー/シンガーですね」
天野「〈ラテン・トラップ〉と呼ばれているプエルトリコの音楽ジャンルの代名詞的なスターなんですよね。ラテン・トラップは、そのままトラップとレゲトン、ラテン・ポップとの折衷ジャンルで。今年はJ・バルヴィンもデビューしたり、ドミニカとトリニダード・トバゴにルーツを持つカーディ・Bとバッド・バニー、バルヴィンの共演曲“I Like It”もあったりと、2018年は世界的に認知された〈ラテン・トラップ元年〉って言ってもいいかもしれません」
田中「で、バッド・バニーは、今年の2月にリリースした“Dime Si Te Acuerdas”で世界デビュー。英語で歌うわけでもなく、スペイン語でそのまま世界の市場に打って出て、ヒットを飛ばしているのが痛快! サブスク時代ならではの新スターと言えます」
天野「ですね。この“MIA”はドレイクがスペイン語で歌っているっていうことでめちゃくちゃ話題になっていますね。ドリッジー、スペイン語バッチリじゃん!」
田中「詞の内容はちょっとわかりませんが、スペイン語の響きと親しみやすいメロディー、それとラテン・トラップのバウンシーなリズムが見事に合ったいい曲ですね。これぞ〈ポップ〉! 来年の夏まで引っ張れそうなくらい」
天野「ラテン・トラップのいいプレイリストがあったら教えてください~。ドレイクも参加したクエイヴォのソロ・アルバム『Quavo Huncho』を聴きつつ、また来週!」