自分に正直な作品
先行シングル“Forget Me”と“Pointless”“Wish You The Best”の3曲が、すでに全英1位を獲得。輝かしい第2章の幕開けとなった。久しぶりの新曲となった“Forget Me”では〈僕のこと忘れないでよ〉と歌って、MVではワム!の“Club Tropicana”のMVをパロディー。SNSなどでもお馴染みのユーモアのセンスをたっぷり見せつけている。“Pointless”の共作/プロデュースには、エド・シーランとジョニー・マクデイド(スノウ・パトロール)、スティーヴ・マックの黄金トリオが参加。エドの大ヒット曲“Shape Of You”や“Shiver”などを手掛けたチームが、ガッチリ彼をサポートした。そしてルイスいわく「これまで書いた曲の中で、恐らくもっとも悲しい曲」だという“Wish You The Best”は元カノについての曲で、破局した時に〈君の幸せを祈ってる〉などと強がってみせたけど、実は……という本音が曲中で明かされている。3曲とも曲調やサウンドは違っているが、共通しているのは全面に押し出されるルイス自身の歌声。彼の歌こそが最大の聴きどころだというのは、アルバム全体にも通じる変わらない特長だ。
「新しいサウンドを開拓しようとか、変身した新しい自分を見せたかったのではない」と言い切るルイス。変化を求められがちなセカンド・アルバムだが、奇を衒わず、自身に正直で、自分らしい作品を作ろうと心掛けたという。共作/プロデュースに参加する顔ぶれも、前作とほぼ変わらず。デュア・リパやオリー・マーズを手掛けるプロダクション・チームのTMS、ガブリエル・アプリンやディーン・ルイスらを手掛けるニック・アトキンソン(元ルースター)&エド・ホロウェイ、フランク・オーシャンやゼインを手掛けるマレイらが引き続き参加。一方で変化したのは、前述のエド・シーランらの協力があったり、アルバム後半で少々異彩を放つ楽曲が顔を覗かせる点だ。
その曲“Leave Me Slowly”は、プリンスの“Purple Rain”を彷彿とさせるダイナミックでドラマティックなナンバー。制作にはブリトニー・スピアーズからテイラー・スウィフトまでを手掛けるマックス・マーティンと、彼の門下生サヴァン・コテチャ(アリアナ・グランデ、リゾ)とオスカー・ホルター(ウィークエンド、トロイ・シヴァン)が参加。さらにシャナイア・トゥエインからデフ・レパードまでを手掛けるヴェテラン・プロデューサー、ロバート・ジョン“マット”ランジの名がクレジットされているのには、やや驚きも。ファット・マックス・ジーザス(メイジー・ピーターズ、ブリー・ランウェイ)が思いっきりギターを掻き鳴らして、高揚感溢れる展開が繰り広げられる。これまでにはなかった彼にとっての新境地を思わせる。
アルバム全編には、破局や喪失、後悔など、ルイスらしい悲しいテーマの曲が並んでいるが、ハッピーな明るい曲も収録されている。〈天国〉という言葉が幾度か繰り返されたり、ジャケット写真がそれっぽく思えるのだけれど、やがてその意図は明らかにされることだろう。どの曲も、言葉のリズムとメロディーの関係が流れるように美しく、字余りや不自然なイントネーションが皆無。ツルンとこちらの胸の中へと飛び込んできて、思わず一緒に歌いたくなるのが特長だ。実際、彼のライヴでは、神妙に聴き入る人もいれば、一緒に歌うファンも少なくない。2月のドイツ公演では“Someone Loved Me”を歌っていた最中に突然、持病のトゥレット障害の発作に襲われて歌えなくなってしまう事態もあったが、すぐさまファンが替わって大合唱で彼をサポート。そんなファンとの関係も素晴らしい。ほぼ同時期のリリースとなったエド・シーランの『- (Subtract)』とこのルイスの新作『Broken By Desire To Be Heavenly Sent』が、どんなふうに語られるのか、比較されるのかも気になるところだ。
左から、ルイス・キャパルディの2019年作『Divinely Uninspired To A Hellish Extent』(Vertigo Berlin)、コライトで参加したカイゴの2022年作『Thrill Of The Chase』(RCA)、イレニアムの2023年作『Illenium』(Warner)
参加ソングライターの関連作品を一部紹介。
左から、スノウ・パトロールの2018年作『Wildness』(Polydor)、JPサックスの2021年作『Dangerous Levels Of Introspection』(Arista)