ワーナーブラザース映画100年史に残る名作――和田誠氏の名コラムで知った〈お楽しみはこれからだ!〉
ワーナーブラザース映画社100年の歴史を振り返るとき、やはり最も重要で輝かしい功績は、1927年にトーキー映画第1作目の「ジャズ・シンガー」を世に送り出したことでしょう。それまで声を持たなかった映画に突然現れた歌と台詞を前に、すべての観客は驚愕したのでした。そのことはミュージカル映画の名作「雨に唄えば」、そして近年ではデイミアン・チャゼル監督の「バビロン」でも描かれ、世代によっては「ジャズ・シンガー」という映画の存在を知るのはそこからかもしれません。そして、その声を出したことで映画史に永遠に語り継がれる俳優となったのが、主演のアル・ジョルスンなのです。すでにブロードウエイの舞台で人気者だった彼の歌声に白羽の矢を立てた、ワーナーブラザースの勝利の瞬間でした。
映画はニューヨークに住むユダヤ教司祭の息子ジェイキー・ラビノウィッツが、父親に反発して家を出て、ジャック・ロビンの名前となりショービジネスの世界で成功するまでの物語です。実は1970年以降の映画ファンたちは、この物語を知ったのは〈本家〉ではなく、1980年にリメイクされたニール・ダイヤモンド主演の「ジャズ・シンガー」によってなのでした。またアル・ジョルスンが劇中で喋る〈You ain’t heard nothin’ yet〉を直訳ではなく〈お楽しみはこれからだ〉と訳されているのを知ったのは、イラストレーター和田誠氏の名コラムからであり、そのコラムに登場する伝記映画「ジョルスン物語」からなのです。
このようにその後の映画史に様々な影響を与え、単なる1本の映画ではなくなった「ジャズ・シンガー」が、このワーナー100年記念としてBlu-rayで発売です。96年前の作品と思えないほど美しい画質に驚きます。嬉しい映像特典は「ジャズ・シンガー」製作前のトーキーテスト版のような短編「A Plantation Act」(農園シーンでの歌)が収録。現在ではその姿にはなれない、〈黒塗りの顔で黒人を演じる〉最初のアル・ジョルスンの映像と声が堪能できます。