
レコード箱を〈エサ箱〉と呼ばないで!
長門「で、僕は彼の新譜や再発盤を売る立場になった」
クリス「パイドパイパーハウスが骨董通りに開店して。開店は何年でしたっけ?」
長門「75年ですね」
クリス「まさに、シュガー・ベイブのデビューの年。お店には置きました?」
長門「『SONGS』の発売日は4月25日でしょ? パイドパイパーの開店は11月15日なんですよね。半年以上経っていて、その間にエレックが倒産してしまって。で、僕がパイドの正式スタッフになる前なので、その辺ははっきりわからないんです」
クリス「(会場に)レコードが入っている箱を〈エサ箱〉って言うんですね」
長門「あまり好きな表現じゃないんですけどね」
会場「(笑)」
クリス「すみません! 私、悪い気持ちは全然なく言ってますので」
長門「いや、みなさん、そうだと思いますよ」
クリス「あんまり良くない表現なんですかね?」
長門「う~ん……〈エサ〉……」
クリス「反省します! レコード会社の人が〈エサ箱〉って言うから、私、それに感化されちゃって」
長門「〈コーナー〉ですかね。アーティスト名やジャンルを書いた仕切り板で分けたものです」
クリス「はい……」
夢を叶えたソロデビュー作『CIRCUS TOWN』
クリス「パイドパイパーハウスがオープンしたのが75年の後半で、その後76年になるわけですけど、76年の暮れには『CIRCUS TOWN』が出ます」
長門「『CIRCUS TOWN』はもう、めちゃくちゃ売れましたね」
クリス「めちゃくちゃ売れた!」
長門「〈売れた〉というか、〈売った〉」
クリス「当然、事前には聴いていなくて、盤が来てから聴いたわけですよね? 事前に聴かせてもらったりしていたんですか?」
長門「帰国した山下くんに聴かせてもらったりしていました」
クリス「すごい! どう思われました?」
長門「それはもう、〈夢を叶えたなあ〉という感じでしたよ」
クリス「その夢を叶えた人として、ディレクターの小杉理宇造さんという方がいらっしゃって。達郎さんは、チャーリー・カレロを筆頭に〈演奏はこの人に〉と、色々な要望を出されていたと。〈売れた実績がないソロの新人で〉とあえて言いますけど、それだけの条件を出して飲む人は誰もいなかったのですが、手を挙げたのが小杉さんだった。すごいですよね」
長門「そうですね。その結果、チャーリー・カレロのニューヨーク・サイドと、それからLAサイドがありますよね」
クリス「ほとんどの予算をニューヨークで使って、残りがロスと聞いてます」
長門「山下くんが望んだミュージシャンの人選を可能にしたのは、小杉さんの人脈というかね」
クリス「人脈というか、小杉さんはあてが全く何もなかったんですよ。でも、〈RCA日本のスタッフです〉と言ってぐいぐい入っていって、むしろ向こうのスタッフがびっくりしたんだとか。チャーリー・カレロに〈何で僕なの?〉と言われたって、おっしゃっていましたけど。つまり、ディレクターというかサラリーマンとしてあえて猛突進、アタックして、『CIRCUS TOWN』の制作を実現させた。
その時に、〈どんな音楽をやるの?〉とデモテープを要求されたんですって。そこで寺尾次郎さんや坂本龍一さんの演奏が入ったものを送ったらしいんですけど」