メランコリックな心象を描くピアノの響きと心を揺さぶる旋律、苦しみや悩みを纏った優美な歌声――これまで以上に率直な姿を綴った、こっちのブルーノも最高です!
待望の来日公演も間近なブルーノ……といえば、もちろんブルーノ・メジャーの話である。いずれにせよ3年ぶりの新曲となった“We Were Never Really Friends”に思わず心を奪われたという人は多かったのではないか。まるでエルトン・ジョンやクイーンのような、既聴感すらも感動的に響かせる圧倒的な楽曲の良さが、このシンガー・ソングライターの持ち味だ。そんな彼がこのたび届けたサード・アルバム『Columbo』は、初作『A Song For Every Moon』(2017年)、2作目『To Let A Good Thing Die』(2020年)に続き、3年に1枚というサイクルを守ったもの。もちろん、今回に関してそれは外因的なものでもあった。
「パンデミックが起こってツアーが全部キャンセルになって、選択を迫られたんだ。ロックダウンが解除されたらツアーを再開するのか、それとも次のアルバムに取りかかるのか。結果的に3年かけることができて自分的にはちょうど良かったと思う。日々の生活をして経験を積み重ねて、それについての曲を書く時間を十分に持つことができるから、3年というのはアルバムを制作するにはちょうど良い期間なんだ」。
コロナ禍で動きを制限されていた時期、彼はノーザンプトンの実家に滞在していたという。私生活でも変化のあったというその辛い時期を経て、新作のレコーディングはもうひとつの拠点であるLAで進められたそうだ。
「ロックダウンの期間はずっとイングランドにいて、捕まって閉じ込められているような気分だった。それで、渡航禁止が解除になった瞬間にLAに向かったんだ。とにかくどこかに行って、何かを経験したかったんだよね。僕はLAが大好きで、これまでにも多くの時間をLAで過ごしてきた。アメリカの音楽に強い影響を受けていて……僕はジャズ・ミュージシャンでもあるし、ジャズは当然アメリカの音楽だよね。だから、精神的な面で僕の音楽の基盤はアメリカにあるし、アメリカにいる時のほうが曲作りが順調なんだ」。
そうやって完成した新作『Columbo』だが、タイトルに冠されたのは制作に大きく貢献した愛車の名前だという。
「パンデミックが明けてLAに行った時、古いメルセデスSLを買った。刑事コロンボが着ているトレンチコートと同じアイボリー色をしていたんだよ。一緒に6か月ほどLAをドライヴしている間にアルバムのすべての曲を書き上げた。コロンボは自由の象徴であり、僕にLAで曲を書かせてくれた存在だからアルバムを『Columbo』というタイトルにしたんだ。でも、残念なことに僕が事故でぶつけてしまってね。ぺちゃんこに潰れた車のピックアップを待っていた時、自然と〈Oh Columbo, Columbo〉と口ずさんでいたんだ。それで、道端でまるまる一曲(“Columbo”)を書き上げてしまったよ。彼は曲の中で生き続けるから、この曲はハッピーでもあり、悲しくもあると思うんだ。混沌から美を創造する、自動車事故を永遠に生き続ける曲に変える――それこそがソングライティングの持つ意味だと思う」。