長い時を経て、ついに劇場で公開された「コンサート・フォー・ジョージ」。同作はジョージ・ハリスンが旅立ってから1年後に開催されたトリビュートコンサートを収めたものだが、そこには錚々たるミュージシャン/アーテイストの名演だけでなく、ジョージのソングライターとしての才能、さらに生前の彼の人柄までもが映し出されている。
そんなジョージの音楽と人生に再びスポットが当たっている今、Mikikiでは〈ジョージ・ハリスンの優れた楽曲〉と題した特集を企画。ジョージとその音楽に特別な想いを抱き続ける、桑原シロー、本秀康、北爪啓之の3名にそれぞれ5曲選んでもらい、選曲理由についても綴ってもらった。 *Mikiki編集部
桑原シローが選ぶジョージ・ハリスンの5曲
1. “Sue Me, Sue You Blues”(73年作『Living In The Material World』収録)
2. “Pure Smokey”(76年作『Thirty Three & 1/3』収録)
3. “Love Comes To Everyone”(79年作『George Harrison』収録)
4. “That’s What It Takes”(87年作『Cloud Nine』収録)
5. “Cheer Down”(89年「リーサル・ウェポン2/炎の約束」オリジナルサウンドトラック収録)
5曲で、と聞いた際、瞬間的に頭に浮かんだラインナップなので、音楽的な関連付けをするのがいささか難しいのだけれど、個性的なメロディーセンスや独自のハイブリッド手法が顕著に表れたジョージ風味満点の名曲リスト(すべてソロキャリアからチョイス)と説明しうることもできるかと。彼ならではのメロウでポップなギタープレイに触れられる選曲という側面もあり。
1. これぞジョージのブルース。もともとは〈バングラディシュ・コンサート〉に参加してくれたジェシ・エド・デイヴィスに書き送った曲で、ビートルズ解散時のゴタゴタを茶化した歌詞が付けられている。ジェシ・エド版はスワンピーなスライドが炸裂するシャッフルブルースになっていたが、ジョージがやってみたらやけに瀟洒な佇まいへと変身。浮遊感のあるコードの響きも絡み合って、どこにもないユニークなルーツロックが誕生している。
2.〈スモーキー〉とは、すなわちモータウン・レコードの屋台骨を支えたスモーキー・ロビンソンのこと。ジョージ流スウィートソウルといった風情のミディアムスロウチューンで、トム・スコットによるホーンアレンジ、リチャード・ティーが弾くフェンダーローズの音色もアーバン極まりない。が、ほんのりとトロピカルエッセンスが溶け込んでいるせいか、桃源郷的イメージへと誘うファンタジックな世界が浮かび上がっていておもしろい。スモーキーのスタイルをバリ意識した“Ooh Baby (You Know That I Love You)”もソウルアプローチによる愛しき名曲。
3. ジョージサウンドのハートウォームな魅力を凝縮させたような掛け値なしの傑作。イントロに登場するエリック・クラプトンのギター(のちに自身のアルバムで本曲をカバー)、スティーヴ・ウィンウッドが弾くムーグシンセの響きもすこぶるジェントル。学生時代、この曲を聴かせた友人が、「こいつは極上のフリーソウルだ!」と目を輝かせて驚き、自身がDJするときのセットリストに速攻加えていた、という個人的思い出もあり。
4. ジョージをふたたびシーンの中心へと連れ戻した重要作『Cloud Nine』を象徴する1曲だといまだに信じてやまない。共作者は、ジェフ・リンとゲイリー・ライト。スペイシーなシンセの鳴りをはじめ、コーラスワークや転調などELOフレーバーがプンプンするが、いずれの要素もジョージ的世界観を損なうことなく有機的に機能しており、新味を生み出すことに成功している。
5. 映画「リーサル・ウェポン2/炎の約束」のサントラに提供したこの曲は、トム・ペティが作詞の面で、ジェフ・リンがサウンドプロデュースの面でサポート。トラヴェリング・ウィルベリーズ関連曲のなかではロイ・オービソンの“You Got It”と双璧を成す存在と言える。聴きどころは、一発でジョージのそれだと判別可能なスライドプレイが大フィーチャーされている点で、これでもかというほど繰り出される大団円はまさに圧巻。ロイ・オービソンへの思慕の念が透けてみえる『Live In Japan』(92念)のライブバージョンがまた泣ける。