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このたび高音質UHQCDにてリイシューとなった、松原みきを知るための10枚のドア

松原みき 『POCKET PARK』 SEE-SAW/ポニーキャニオン(2023)

説明不要な“真夜中のドア~stay with me”で幕を開ける初作。セカンド・シングル“愛はエネルギー”、味わい深いミッド“そうして私が”も三浦徳子×林哲司コンビの曲だが、他にも主役の落ち着いた歌声がよく似合う大人びた佇まいの曲で固められている。勢いのあるアイズレー調のファンク“Cryin’”など佐藤健(美乃家セントラル・ステイション)による3曲やSHOGUN演奏による芳野藤丸の“His Woman”も光る。なお、2003年のプロモ盤が初出となるレア音源“真夜中のドア~stay with me”のD.O.I.によるクラブ・ミックスもボートラ収録。

 

松原みき 『WHO ARE YOU?』 SEE-SAW/ポニーキャニオン(2023)

杉真理ならではのオールドタイミーなポップ・チューン“あいつのブラウンシューズ”と“気まぐれうさぎ-Run Rabbit Run-”を冒頭に並べた構成からもわかるように、より快活な側面を前に出して等身大の明るさも提示した2作目。鈴木茂と松任谷正隆のアレンジ手腕が楽曲のカラフルさを束ね、松本隆×亀井登志夫によるアーバンな“Rainy Day Woman”も隣り合う。松原自身の詞曲による“Marshia”が採用されたほか、弾き語りの小品“Who are you?”では編曲も担当。翌年シングル化された三浦徳子×林哲司による人気曲“Jazzy Night”も最高だ。

 

松原みき 『-CUPID-』 SEE-SAW/ポニーキャニオン(2023)

三浦徳子がすべての作詞、大村雅朗がすべての編曲を手掛けた3作目。そうした布陣から初期の松田聖子を連想することも容易ながら、LAのジャズ・ファンク・バンドであるドクター・ストラットをバックに起用して“10カラット・ラブ”“青いボールペン”など骨太なグルーヴを紡ぐA面はとにかく強力。日本の名手たちが演奏したB面も資生堂のCMソングとしてシングル・ヒットした“ニートな午後3時”(小田裕一郎が作曲)や佐野元春のメロディアスな“スーヴェニール”などがキャッチー。サウンドの心地良さと艶やかな歌謡性のバランスも見事な傑作だ。

 

松原みき 『Myself』 SEE-SAW/ポニーキャニオン(2023)

前作で手の合ったドクター・ストラット(同じキャニオン系のAGHARTAからアルバム『Soul Surgery』を出していた)が演奏に加えてアレンジも丸ごと担当した4作目。松原正樹のメロディック・フュージョンをカヴァーした“バレリーナ”(竜真知子が新たに作詞)や、芳野藤丸によるAOR作法の渋いミッド“カランドリエ”、スキャットも快調なスウィング・チューン“See-Saw Love”、さらに松原みき本人も狂騒的な“ハレーション”など3曲をみずから作曲。引き締まった演奏のダンサブルな統一感もあって結果的に間口の広いポップな感触に仕上がっている。

 

松原みき 『彩』 SEE-SAW/ポニーキャニオン(2023)

ウェットな歌謡性に寄せた先行シングル“予言”でのパンタ×濱田金吾、さらに来生えつこ×来生たかお姉弟のような初顔合わせも含めて国内の才能とガッチリ組んだ、タイトル通り彩り豊かな5作目。後藤次利がアレンジの核を担うなか、ポップな“サラダ★SALAD”など3曲を書き下ろした松原も、小気味良いドラム・ブレイクの導入部から洒落た“10cmヒール”など2曲ではみずからアレンジも手掛けている。緻密なジャズ・ロックの“Sugar Me”やニューウェイヴ・ファンク風味の人気曲“Bay City Romance”を作編曲した佐藤準の仕事ぶりも聴き逃せない。

 

松原みき 『REVUE』 SEE-SAW/ポニーキャニオン(2023)

初のセルフ・プロデュースに挑んだ意欲的な6作目。初顔合わせの鷺巣詩郎が先行シングル“Sweet サレンダー”や“ムーンナイトレビュー”(作曲はスタレビの根本要)でポップに弾ける音作りを持ち込む一方、レイディオ風の柔和な“雨のちハレルヤ”やシャカタクっぽい意匠が粋な“シャンデリア・ミラージュ”(作曲は伊藤銀次)、名曲“スターダスト レイン”など林哲司のアレンジ作法も安定感抜群だ。松原自身の作編曲によるジャジーな2曲や田中昌之(クリスタルキング)とのアダルト・コンテンポラリー的なデュエットもあって盛りだくさんな充実作。

 

松原みき 『Cool Cut』 SEE-SAW/ポニーキャニオン(2023)

四人囃子~PRISMの森園勝敏がプロデュースを担い、ジャケが示唆するようにニューウェイヴ時代の美意識を纏ったコンセプチュアルな7作目。コピーライターの梅本洋一が全作詞を担当しているのも80年代っぽい。松浦義和(PRISMのサポート~ラ・ムー)による爽快なパワー・ポップ“真夏のゲーム”をはじめ、オリエンタルなエレポップ“チャイナタウンの殺人鬼”、キザなミディアム“マンハッタンのかけら”、トロピカルな“Caribbean Night”など主役の新たな表情が楽しめる。昨今のシンセ・ポップ・リヴァイヴァル経由で再評価されてもいい一枚。

 

松原みき 『LADY BOUNCE』 SEE-SAW/ポニーキャニオン(2023)

カシオペアの向谷実に全編のサウンド・プロデュースを委ねたキャニオンでの最終作。AOR調の洒脱な“12月のパリ”やグルーヴィーなアップ“サングラスはもういらない”では向谷が前年に手掛けた亜蘭知子『More Relax』に通じるブラコン志向も軸になる一方、先行シングル“恋するセゾン ~色恋来い~”などではヨーロピアンな情緒がポップに前面に出され、高音を強調したシアトリカルな唱法や半数以上を作詞した有川正沙子(寺尾聰『Reflections』他)による世界観も相まって不思議な後味を残していく。野呂一生(カシオペア)や和泉常寛も作曲に参加。

 

松原みき 『BLUE EYES』 SEE-SAW/ポニーキャニオン(2023)

ルーツにあたるスタンダードを中心に取り上げた唯一のジャズ・カヴァー・アルバム。プロデュースはレア・グルーヴ文脈での再評価も進む和ジャズの巨匠・稲垣次郎(彼の手掛けた宮永尚美の同年作『MOMENT』には松原も作曲で参加)で、アレンジは前田憲男が担当。洒脱な演奏に乗ったコール・ポーター“Love for sale”での幕開けから主役のいつもとは違うニュアンスに富んだ唱法が存分に楽しめる。キャロル・キング“You’ve got a friend”も挿みつつ、エレガントなディスコに展開する“When you wish upon a star”での終幕も麗しい。

 

松原みき 『Paradise Beach』 SEE-SAW/ポニーキャニオン(2023)

時系列的には『彩』と『REVUE』の間に登場した初のベスト・アルバム。表題曲となった先行シングル“Paradise Beach”は松本隆×細野晴臣の書き下ろした日立マクセルビデオカセットのCMタイアップ曲で、それまでの彼女にはないシンセとドラムマシーンを用いたテクノ・ポップの意匠がいかにも83年らしい。それ以外の楽曲は過去5枚のアルバムから満遍なくチョイスされ、デビューからの濃密な3年間を振り返った構成。“あいつのブラウンシューズ”(80年)がよりポップなシングル・ヴァージョンで収録されているのもポイントだろう。