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『DISCOVERY』(99年)

Mr.Children 『DISCOVERY』 トイズファクトリー(1999)

活動休止の最中、桜井はPro Toolsを導入してより自由な制作スタイルを獲得する。全体的にメンバー4人のバンドアンサンブルが重視され、レディオヘッド『OK Computer』(97年)をはじめとした外的な影響を音作りやポストプロダクションに織り込んだ意欲作だ。現在まで続くバンドイメージそのものとも言えるロックアンセム“終わりなき旅”をクライマックスに据え、ラップのごとく軽快に韻を踏むファンクナンバー“アンダーシャツ”、サンプリングやエフェクトを多用しつつ、ラウドな演奏を半ば強引にミックスさせたかのような“ニシエヒガシエ“(これが当時ドラマ主題歌だった事実にも驚愕)あたりを聴くに、活動休止による停滞感は一切なく、むしろこれまで以上に現実的な視点とサウンドに舵を切ったことで、バンドは大きく前進する。ファンを中心にメンバーからも愛される楽曲へと育った“Simple”など、次世代に向けて必要なノウハウを身につけた作品としても価値ある1作だ。 *小田

 

『1/42』(99年)

Mr.Children 『1/42』 トイズファクトリー(2023)

『DISCOVERY』を引っ提げた42公演におよぶツアーから北海道公演の模様を収録したライブ盤(ボーナストラックのみ沖縄公演の音源)。限定生産&現時点で未配信ということもありファンのみぞ知る作品でもあるが(筆者は中古品だが同作を所有)、99年当時のバンドの力量を鮮明に映し出している。活動当初からMCに苦手意識のあった桜井の要望もあり、トークパートがすべてカットされているのもその理由がわかれば納得できる。演目は『DISCOVERY』の楽曲が背骨となり、“名もなき詩”“Everything (It’s you)”“innocent world”などヒットシングルを網羅。各楽曲でライブアレンジやオーディエンスによるシンガロングが楽しめるのはもちろん、それまでの壮大なステージセットや演出などを排除し、極力生音に拘ったMr.Childrenの演奏からはロックバンドとしての生き様が感じられる。 *小田

 

『Q』(2000年)

Mr.Children 『Q』 トイズファクトリー(2000)

実は同業者=アーテイスト人気の高い本作。〈ダーツでテンポを決める〉〈コード進行を決めるのはくじ引き〉――そんな有名な制作プロセスは単に思いつきや気まぐれなどではなく、一秒先の音やリズムに制約を設けながらもMr.Childrenの音楽として成立させるというチャレンジ精神から生まれたのではないか。それらを証明するように、ギターストロークから静かにスタートし、楽器隊が合流して以降は全速力で駆け抜けていくCENTER OF UNIVERSE”をトップバッターに、ドラムループと低い重心のコーラスが耳を引くその向こうへ行こう"へと続く冒頭の流れだけでも秀逸。繊細なストリングスを背後に4人のアンサンブルが胸を熱くさせるNOT FOUND”、木枯らし吹く季節に心温まるラブソングとして機能する口笛”といったシングル曲は、どちらもリリースから20年以上経つ現在も色褪せることのない名曲として歌われている。その他にも、のちにthe pillowsがカバーしたことで注目を集めた“つよがり”、オートバイに乗った主人公が流れゆく風景に思いを馳せるロードムービー”、ライブではより壮大なアレンジで披露されるアルバムのリード曲Hallelujah”など、本作の楽曲は特定の時代に縛られない性質を持つものが多い。ノストラダムスの大予言を退け、2000年という新世紀を目前にしたMr.Childrenの新たな一歩が、この『Q』には刻まれている。 *小田

 

『IT’S A WONDERFUL WORLD』(2002年)

Mr.Children 『IT’S A WONDERFUL WORLD』 トイズファクトリー(2002)

ベストアルバム『Mr.Children 1992-1995』『Mr.Children 1996-2000』とそれに伴うスタジアムツアーでデビュー以降の活動を総括したバンドは、次なる道を歩み始める。デビュー10周年を迎えたバンドの10枚目は、誰もが耳を傾けるような〈歌〉と〈メロディー〉を追求したポップアルバムとなった。U2やオアシスのようにたった1人から数十万人にまで精気を与えるポップアンセム“蘇生”で拳を握らせ、アントニオ猪木の引退試合でのマイクパフォーマンスからインスパイアされた“one two three”でその拳を大きく振り上げさせる。そしてほろ苦い男女の別れをミドルテンポでウィスパーに歌う“渇いたkiss”へと続く序盤の流れは、楽曲の振れ幅がそのままアルバムの起伏として楽しめるようになっている。よしながふみの原作漫画を実写ドラマ化した「アンティーク 〜西洋骨董洋菓子店〜」の主題歌としてお茶の間に鳴り響いた“youthful days”は、ドラマのストーリーとともに記憶している人も多いかもしれない(同ドラマは全編にわたりMr.Childrenの楽曲が使用されたことでも話題に)。ちなみに、本作にも人物やキャラクターなどの固有名詞がよく登場し、“ファスナー”では〈ウルトラマン〉〈仮面ライダー〉、“LOVEはじめました”では〈中田英寿〉が歌詞に組み込まれている。それらは現実を突きつける存在や社会風刺の一コマとして、私達リスナーの目に映る世界の醜くて美しい一面を露わにする。ここからMr.Childrenは、そんな醜くも美しい世界でさらなる名曲を量産していくことになる。 *小田

次回は、『シフクノオト』(2004年)から『SOUNDTRACKS』(2020年)までを紹介する。