恋愛ハラスメントをさせてもらって勉強になりました!
――なんでタイトルを〈恋愛ハラスメント〉にしたんですか?
小日向「『世界が泣いてる』が暗い作品だったから、次は幸せなラブソングを作りたいと思って、オタクや関係者に会ったら〈最近、恋してますか?〉って聞いて回ってたんです」
――恋愛の話をしたくなさそうな人たちの中に土足で踏み込むハラスメント活動をしてたわけですね(笑)。
小日向「そしたら〈離婚したばかりです〉みたいな方もいて、〈ごめんなさい!〉って」
――〈だからここ(小日向のライブやイベント)に来てるんだよ!〉っていう(笑)。
小日向「みんな現場では元気に見えるけどプライベートではそうでもなかったり、恋愛に興味がなさそうな人でも長年付き合ってる恋人がいたり。
いろいろ聞いてるうちに、私はハラスメントをしてるなって思ったんです。恋愛ハラスメントをした結果、曲ができるから、それをタイトルにし~よう!ってノリで先に決めました」
――表題曲もないし、タイトルと内容が一致してないですもんね(笑)。松永天馬さんの“ラブハラスメント”(2017年)と被ってる自覚はあったんですか?
小日向「なかったです! 豪さんのツイートを見て、そういえばと思ったけど、〈ラブハラスメント〉と〈恋愛ハラスメント〉が同じって脳内で繋がってなかったんです。〈恋愛〉って英語で言ったら〈ラブ〉か、なるほど~!ってようやくわかって。
でも私、恋愛ハラスメントをさせてもらって勉強になりました!」
――……何が(笑)?
小日向「恋愛について考えるいい機会をもらえて」
――ほとんど作品にプラスになってないじゃないですか(笑)。
悪魔と契約した引き換えに……
――イベント※でも聞いた話を改めてしてほしいんですけど、“もしも魔法が使えたら”については恐ろしいことがきっかけで作られた曲らしいじゃないですか。
小日向「はい。対バンに向けて魔法をテーマに曲を作ろうってことになったんですけど、私、脳を一回リセットしないと何も入ってこないって病気があって。例えば、このインタビューのことを考えてたら新曲が作れないんですね。で、自分に関係ない映画を見たり、短く読める漫画を読んだり、違うことを考えるとリセットされるんです。だからリセットしたいときに一人で映画をよく見に行くんですよ。映画の告知ってあるじゃないですか?」
――告知? ……予告編のことですかね(笑)。
小日向「あれってものすごい大変なシーンとか感動的な映像とか人が死ぬシーンとか、そういうのばっかりがめまぐるしく、ぐるぐる流れるから、見てると〈は~!〉ってなったり泣いたり笑ったりして大変なんです」
――一応説明しておくと、小日向さんは映画やドラマとかを見ると感情移入しすぎて、本気で泣いたり怒ったりしがちなんですよね。
小日向「はい。〈痛い痛い痛い!〉って痛みまで感じちゃう」
――だから超大作映画の予告で爆破シーンとかがバンバン流れると、それに持ってかれちゃうと。
小日向「そう。告知からぶわ~って泣いたり」
――あの短時間でそこまで行けちゃうんですね(笑)。
小日向「間髪入れずに違う作品の告知が流れてくるから〈うわ~、もうやめて!〉って。
告知のあとに映画泥棒のほっとする映像が流れるじゃないですか。そのときに〈魔法の曲、どうしよう?〉〈もし私が魔法を使えたら、まず何をしたいんだろう?〉って考えちゃって。それで、すごく広いステージの上で、たくさん人が入った会場で歌ってみたいって思ったんです。
でも魔法って、自分の大事なものを差し出さなきゃいけない、対価が必要なんですよ。そう思ったとき、私の大切なものはいま自分の周りにいてくれてる人たちだから、その人たちを差し出せば大きなステージでの成功が約束されるってなったんですね」
――……? えーっと、補足すると、イベントでは〈映画泥棒の映像を見てたら悪魔が現れた〉って話になってましたが。
小日向「そうそう! 映画泥棒を見てほっとしてたら、悪魔が〈対価を差し出せ〉って言って出てきて」
――映画の予告で感情移入スイッチが入って、さらに〈魔法の曲を作らなきゃ〉と考えてたら、おかしなことになっちゃったわけですね。
小日向「そうなんです! ……あの、いいんですか? 悪魔が出てきたらおかしく思われないですか?」
――何の問題もないです! いつもの小日向さんです!
小日向「ですよね! インタビューだから、ちょっと取り繕おうとしちゃった(笑)。ごめんなさい!」
――逃さないですよ(笑)。
小日向「バレちゃった(笑)」
――音楽的には意味のある話なんですよ。そのエピソードがイベントで語られたとき、ロバート・ジョンソンのクロスロード伝説※みたいだって言ってる人もいました。
小日向「ホント? それで私、対価を差し出しかけたんです。ライブに来てくれるお客さんと家族のことを思って、それを差し出せば長年喉から手が出るほど欲しかったものが手に入るって。その人たちは死なないんだけど、もう二度と会えなくなるんです。その条件で一回目を閉じて……」
――家族とファンを売っちゃおうと(笑)。
小日向「何かを得るためには何かを犠牲にしなきゃいけないと思って、目を閉じたんです。悪魔が〈よし、わかった〉って言って、次の瞬間、私は満員の会場のステージの上に立ってたんですけど、お客さん全員の頭がカボチャだったんですよ! それでハッ!と気づいて、私が魔法を使って叶えたかったのはこれじゃない! 笑ったり怒ったり泣いたりする、ちゃんと顔を見て感想を言ってくれる人たちに届けるために音楽をやってるのに、カボチャじゃダメだ! ごめん!って気づいて(笑)。それで、もう売らないから!って、わ~!って泣いて」
――映画泥棒のタイミングでボロ泣きしたんですね(笑)。
小日向「泣きながら映画が始まって、前半の説明部分で〈あ~! ごめんなさい~!〉ってよくわからなくなっちゃって。家に帰ってすぐ作ったのが“もしも魔法が使えたら”です」
――いい曲ですよ。
小日向「そもそも私は、自分の歌や曲を私みたいな人に届けたい、私みたいな人にとってのヒントになればと思ってて……そんなの偉そうなんだけど(笑)。ホントにちょっとピョッとやられたら死んでたかもしれない時期があったから、そう思うんです。
そこが原点なのに、なんで欲をかいて悪魔に魂を売ってカボチャの前で歌おうとしたんだろう?って。いろんなことを飛び越えて広いステージに立ったところで無駄なだけ、私じゃなくてもできるって気づいたんです」