自分たちの中に何があるのか、とことん掘り下げてみよう。光と闇、清と濁、喜びと悲しみ――いくつものシーンと感情を重ねたミルフィーユ状の新作には、3人の関係性が表れていて……

自分を発掘しているみたいだね

 「いったん〈ポップ〉へ振り切ろうと。あと、前作には泥臭さや可愛さ、クールさ、おどろおどろしさといろんなスパイスが入っていたけど、自分たちはどれがいちばん得意なのか、それぞれをどれくらいの配分で混ぜるかを今回は分析しながら作った記憶があります」(堀胃あげは、ヴォーカル/ギター)。

 前作『ペンシルロケット』からちょうど1年。黒子首より新作『dig saw』が到着した。〈独自のポップス〉をさらに突き詰めた結果、現実と空想のレイヤードである詞世界はより視覚的に、場面に呼応して様変わりするアンサンブルはよりキャッチー&エッジーに深化。そんな本作の幕開けとなるTVアニメ「鴨乃橋ロンの禁断推理」のエンディング主題歌“リップシンク”は、3人らしいポップスの新たな指針になった曲だという。

黒子首 『dig saw』 トイズファクトリー(2023)

 「〈鴨乃橋ロン〉は支え合っているパートナー同士の話なんですけど、それはこの3人にも共通すると思ったので、〈友情〉をメインに取り上げて。自分自身やメンバー、スタッフ、お客さん、いろんなことにあてはまる歌詞になりました。アレンジは大苦戦しましたね……。〈ポップスにしよう〉っていう意識が働きすぎて、最初はすっごい綺麗なものが出来ちゃったんです。だけど、何かが違うと」(堀胃)。

 「いままではドロドロしたものをポップスに、みたいなやり方が多かったんですけど、最近の堀胃さんのメロディーは初めから完璧にポップなので、これまでと同じ感覚で作ると過剰にポップなものになってしまうんですね。それで、いったん3人きりの音に立ち返って。苦戦はしましたけど、一回ストップしなかったらこういう形のアルバムにはならなかったので、いい壁になってくれました(笑)」(田中そい光、ドラムス)。

 「その〈3人だけの音に立ち返る〉っていう作業のなかで〈これって自分を発掘してるみたいだね〉って話になって、アルバムのタイトルを〈地層〉にしようかなと。最終的には『dig saw』になったんですけど、〈自分たちの中に埋まっているものを再発掘する〉みたいなテーマで作っていったら、この曲たちになりました」(堀胃)。

 そうして揃った全10曲。ポップ・サイドの極北に続くのはファニーな失恋ソング“ばっどどりぃむ純喫茶”だ。心弾むラヴソング“言わせない”、往年のアイドル・ポップ風の“タイムレスマシン”と共にとことんガーリーな振る舞いが新鮮な風を吹かせている。

 「“ばっどどりぃむ純喫茶”はバッドエンド感を可愛くコミカルに仕上げたいと思って書いた曲です。今回はメロディーに対して無理のない言葉を選ぶことにも挑戦したんですけど、その面で苦労したのは“言わせない”。恋して可愛くなっちゃう瞬間はたぶん誰にでもあるから、可愛い自分を出すのもアリかなと思って、歌入れも吉澤嘉代子さんくらい可愛いヴォーカルにしようと思ってがんばりました。“タイムレスマシン”はプリテンダーズの“Kid”と昭和の歌謡曲をどこか意識した曲で、ミックス/マスタリングもあえてペラペラにしてもらってます」(堀胃)。