表記を改め、手繰り寄せた新しい一日……とはいえポップソングを探求してきた3人の軌跡は過去から現在、さらに未来へと繋がっている。清々しいほどの等身大を映すニュー・アルバム『朝の迎え方』が完成!
バンド感とポップスのバランス
〈自分たちなりのポップス〉に振り切ったという3作目『dig saw』から1年8か月、hockrockbよりニュー・アルバム『朝の迎え方』が到着した。近年はアニメやドラマの主題歌をコンスタントに提供し、昨夏にはバンド名の表記を改めるなど、挑戦や新陳代謝を繰り返してきた彼らだが、今作のさらなる開かれぶりはどうだ。
「『dig saw』はヴァラエティーあふれるポップソングの集合体でしたけど、そこで身に付けたポップス力、ポップス筋をどう得意なことに活かしていくか――今回は、〈バンド感〉と〈ポップス〉とのバランスをじっくりと考えた作品になりました」(堀胃あげは、ヴォーカル/ギター)。
そうして3人が手にしたのは、かつてないほどの風通しの良さ。ケルティックなテイストも交えた冒頭のカントリー・ポップ“私のポラリス”から、その軽やかな足取りに驚かされる。
「カントリーっぽい曲は路上ライヴでもやっていて勝手に定番のつもりだったけど、音源としては出してなかった(笑)。アイリッシュ・ヴァイオリンとコーラスを入れたらすごく化けた曲ですね。歌詞の面では、優等生まではいかなくてもある程度できちゃう人……音楽でそっち側の意見ってあんまりないかもと思って書きました。中学生の頃の自分のエピソードなんですけど、先生のことが好きになって、授業でいい点を取れば振り向いてもらえると思って満点を取りまくってたんです。でも先生ってダメな子の面倒を見ちゃうから、自分の不器用さがなんか辛くなったことを思い出して」(堀胃)。
どこか長閑な空気を引き継ぐのは、80年代アイドルを想起させるラヴソング。ソウル風味が新鮮な“はるかぜ”だ。
「ちょっと後ろ向きな内容の曲にダンス・ビートを乗せたことはあったんですけど、今回はわりと前向きな歌にノレるビートで、華やかなホーンも入れて。ポップス全開ですけど、キメなどの細かいところで3人らしさを出せたと思ってます」(堀胃)。
そこから一転、続いては〈3人だけで成立する曲〉を意識したという“星屑ワンルーム”。そして、編曲に江口亮を迎えた映画「愛されなくても別に」の主題歌“プレゼント交換”、メンバーのプレイヤーシップが滲む“つよがりアルマジロ”へと連なっていく。
「『愛されなくても別に』は、〈毒親〉が背景にあるなど一見すると重たい作品ですけど、人間の欠点や心の動きがすごく綺麗に映し出されていて、観た後には〈悩むのも悪いことではないんじゃないか〉って気分になれる。主題歌である“プレゼント交換”もほんのりとした寂しさや未熟であるがゆえのすれ違いが優しい世界の中で表現できたらいいなと作りました」(堀胃)。
「素朴で優しいバラードですけど、リズムがしっかり前に出ていて。江口さんのアレンジには〈こうすればよかったのか!〉って発見がたくさんありました」(田中そい光、ドラムス)。
「“つよがりアルマジロ”は、最初は友達に向けて書こうと思っていた曲。悲しいことがあっても常に笑ってて、無理をしていることが人には見えない感じの子なんですけど、書いてるうちにだんだん〈自分のことだな〉とも思えてきて。鎧みたいなものを纏うことで自分を守って生きてきたので、最終的には自分を奮い立たせるための曲にもなってます」(堀胃)。
そこからは挑発的な歌謡ロックを連打。凛とした強さとセクシーさを湛えた“ムーンライトロマンス”、 カンテレドラマ「極限夫婦」の主題歌にして、ある種のいなたさを武器にした“バタフライ”が並ぶ。
「“ムーンライトロマンス”は悪い男の人を好きになっちゃった女性をテーマにした恋愛ソング。誰を好きになるのも自由だし、信じたいものを信じるのってカッコいいよなってことで、思い切ったサビになってます」(堀胃)。
「ドラムの面では、〈私のエゴを出した!〉って曲ですね。これまで急にテンポや拍子が変わる曲は必然性がないとダメだと思ってたんですけど、今回はカッコよければそれでいいじゃんと直感的に叩きました」(田中)。
「カンテレドラマ『極限夫婦』はドロッとしたドラマですけど、主題歌はスカッとさせてほしいっていうドラマ制作陣からのオーダーだったので、〈アデュー〉とかの決め台詞を多めに入れたり、サビで韻を踏んだりと、けっこう言葉で遊ばせていただきました」(堀胃)。
「『dig saw』を作り終えた頃に取り掛かったので、この曲にはポップソングを突き詰めてきた反動というか、〈いい意味で捻らずにいこう〉という潔さがありますね。次のフェーズに向けての意識がすでに出てると思います」(田中)。