カナダ出身の新鋭シンガー・ソングライター、JPサックス。ジュリア・マイケルズとのデュエット・ソング“If The World Was Ending”が第63回グラミー賞の最優秀楽曲賞にノミネートされたり、BTSのジョングクがお気に入り楽曲のプレイリストに彼の“Hey Stupid, I Love You”を入れたりと、華やかな話題にことかかない存在だけに、どこかで彼の名や楽曲を耳にしたことのあるリスナーも多いだろう。
そんなJPがこの度、ファースト・アルバム『Dangerous Levels Of Introspection』をリリースした。同作には、ビリー・アイリッシュのプロデューサーとして知られるフィニアス・オコネルや、カントリー・ポップの売れっ子マレン・モリスらが参加。奥行きのあるサウンドで主役の滋味に溢れた歌声を引き立てている。
今回は音楽ライターの村上ひさしがJPサックスのキャリアや音楽性を解説。ポップ・シーンの次世代スターの呼び声が高い歌い手の魅力とは? *Mikiki編集部
JP SAXE 『Dangerous Levels Of Introspection』 Arista(2021)
エアロスミス以来の終末ラヴソングの名曲
世界の終末=アルマゲドンのラヴソングといえば、誰もがいちばんに思うのが、その名も「アルマゲドン」と題された映画のテーマ曲。エンディングで流れるエアロスミスによる熱血パワー・バラード“I Don’t Want To Miss A Thing”(98年)じゃないかと思うのだけれど、あれから20余年、2020年代を象徴するかのような新たな世紀末ラヴソングがここに誕生した。カナダ人アーティスト、JPサックスがジュリア・マイケルズと共演したデュエット曲“If The World Was Ending”(2019年)がそれだが、強烈なパワーで否応なしに聴く人を圧倒したエアロのとは対照的に、こちらはそっと心の奥底に忍び込み、ジワジワと琴線に触れていく。気づかぬうちに涙が頬を伝っている。そんな静かなる感涙系のバラードだ。
〈もし世界が終わるなら、来てくれる?〉と、ギリギリの絶望のなか歌われる同曲。そもそも2019年にLAで起こった地震にインスピレーションを得て書かれたものだが、コロナ禍の自身の状況に置き換えて共感する人々が続出した。離れ離れになった自身や恋人の気持ちを見事に代弁していると、全世界で12億回以上もの再生数を達成。いま一度、忘れかけていた人間の優しさや思いやりの大切さを思い出させてくれた。
2020年4月には〈国境なき医師団〉のチャリティー・ソングとして用いられ、そのMVにはJPやジュリアをはじめ、サム・スミスやジェイソン・デルーロ、ナイル・ホーラン、H.E.R.、サブリナ・カーペンターなどなど、多数の人気アーティストが参加。もちろんシンプルかつ繊細なプロダクションで楽曲の旨味を引き出したフィニアス(ビリー・アイリッシュの兄で、彼女の楽曲の大半の共作・プロデュースなどを手掛ける)の手腕は高く評価され、JPとジュリアによるソングライティングの才能も広く認知されることに。2021年のグラミー賞では、最優秀楽曲賞(ソングライターに贈られる)にてノミネートを獲得。しかも共演者となったJPとジュリアは、誰もが羨む熱愛カップルへと発展。公私共に充実しまくっている。