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尋常ではないほどの音楽好き

自作の時とは違って、他のアーティストの音楽について語る時は、チバの言葉数や語彙が増えた。THEE MICHELLE GUN ELEPHANTが影響を受けた数多くのバンドの中で、一つだけ挙げるとするならば、おそらくドクター・フィールグッドになるだろう。個人的にも大好きなバンドだったので、ドクター・フィールグッドについて、チバと話すのは楽しい時間だった。「どういうところが好きか」という話になった時に、チバが「韋駄天みたいなところ」と語った言葉遣いは忘れられない。ちなみにステージ衣装のスーツのイメージも「韋駄天」と語っていたこともある。〈韋駄天〉を勝手に解釈すると、「タイトでシャープでスピーディーで、かっ飛んでいる」といったところだろうか。ドクター・フィールグッドのもっとも好きなアルバムは、珍しく意見が一致して、1stアルバム『Down By The Jetty』(1975年)だった。

取材でチバと接して感じるのは、ともかく音楽好きということだ。ミュージシャンなんだから当たり前だと思うかもしれないが、作り手としてだけでなく、聴き手としても、その好きの度合いが尋常ではないのだ。レコードマニアで、ツアーで国内海外問わず、いろいろな街に行くと、レコード屋巡りをしていた。そして収集するだけでなく、ともかくいろいろなバンドをよく聴いていた。

チバから取材時などに教えてもらって聴くようになったバンドもいくつかあった。例えば、北アイルランド、ベルファスト出身のパンクバンド、スティッフ・リトル・フィンガーズ。当時はサブスクなんてないから、チバの言うバンド名をメモして、CDショップで探して買って聴くのだ。「良かったよ。特に2ndアルバム『Nobody’s Heroes』(1980年)がいいよね」と言うと、「だろ」とうれしそうな顔をした。『Nobody’s Heroes』にはスペシャルズのカバー曲“Doesn’t Make It Alright”が入っている。「スカを好きになるきっかけの曲の一つ」とチバが語っていた。ちなみにスティッフ・リトル・フィンガーズには“Johnny Was”“Bloody Sunday”などの曲がある。チバ本人には確認したことはないが、“ダニー・ゴー”や“ジプシー・サンディー”などの曲名のヒントになっていたかもしれない。

アメリカはテキサス州、ダラスのサイコビリーバンド、レヴァレンド・ホートン・ヒートの4thアルバム『It’s Martini Time』も、チバのおすすめで聴いたアルバムだった。1980年代末から活動しているバンドだが、この作品は1996年発表だから、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTと同時代のバンドと言えなくもない。「妖しげなバーの箱バン風で、アルコール濃度の高そうなサイコビリーバンドですね」と感想を言うと、「そこがいいんだよ。ギターの音色がいいんだわ」とのこと。THEE MICHELLE GUN ELEPHANTの初期の作品は、ブリティッシュ色が強かった。しかし、『GEAR BLUES』(1998年)あたりから、アメリカのガレージ、サイコビリー、オルタナティブなどの要素もミックスされるようになってきたのは、リスナーとしてのチバの趣味を反映しているところもありそうだ。