NICE TO MEET YOU
2021年に突如インターネット上に出現し、ユニークな存在感とサウンドによって瞬く間にセンセーションを巻き起こした彼女の名はピンクパンサレス。待望のファースト・アルバム『Heaven knows』でそのさらなる魅力は明らかになるのだろうか?
流行という檻から解き放つ作品
〈Y2Kリヴァイヴァル〉や〈ドラムンベース再評価〉など、いくつもの文脈でスターに挙げられている、ピンクパンサレスことヴィクトリア・ビヴァリー・ウォーカーがファースト・アルバム『Heaven knows』をリリース。
ムラ・マサをはじめ、ケレラ、セントラル・シーといった才人たちの助力を得て作られた本作は、ウォーカーを流行という檻から解き放つ作品と評することができる。過去作でも窺えた要素を押さえつつ、一度聴いたら耳から離れない高品質なポップソング集を作り上げてきた。特定の世代に受けるだけのカルトな方向性ではなく、より幅広い層に届けたいという姿勢がちらつく内容は、表現者としての健全な欲求が際立つ。尺が2分以下の曲を引っさげ音楽シーンの最前線に躍り出た点に注目し、半ばキワモノ扱いされることもあったが、そうした色眼鏡を吹き飛ばす直球勝負の曲を並べている。“Capable of love”を筆頭に親しみやすいメロディーが随所で光り、グラウンド・ビートの香りが漂う“Feel complete”では、心地よく体を揺らすグルーヴが顕著だ。
また、全曲が2分以上あり、従来の曲と比べてポップソングとしての体裁が明確なのも見逃せない。そのおかげで曲としての強度が前面に出ており、ウォーカーの創造力を存分に楽しめることにも繋がっている。筆者からすると、この創造力はチャーリーXCX的なサブカルチャーの媒介者になり得る可能性を秘めているように見える。 *近藤真弥