田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の楽曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。サッカーのヨーロッパ選手権が、いよいよ大詰め。日本時間7月12日(月)の早朝に決勝のイタリア対イングランド戦が行われます。いや~、この1か月は寝不足でしたよ……」

天野龍太郎「音楽関係ないし……。っていうか、サッカーを観ているから、最近サボり気味なんじゃないですか? もう、しっかりしてくださいよ! この連載の2021年上半期ベスト・ソングの記事も、亮太さんが原稿を書くのを待っているわけですし……。早く書いてください!」

田中「すみません! 来週には書き上げられれば、と思っています。なかなかおもしろい並びの20曲なので、読者のみなさまも期待して待っていてください!! というか、55年ぶりのビッグ・タイトルが目前ということで、イングランドでの盛り上がりがすごいですよ。SpotifyのUKヴァイラル・チャートを見ても、フットボール関係の楽曲やチャントが多数ランクインしています。当然、現在1位は“Three Lions”(96年)です!」

天野「〈It’s coming home / It’s coming home / It’s coming / Football’s coming home〉でおなじみの、ライトニング・シーズの名曲ですね。というか、この導入を世界の音楽シーンのニュースと関係ない、亮太さんのいまのノリを伝えるコーナーにしないでください(苦笑)。月曜日の早朝は観戦を楽しんでもらってもいいのですが、仕事もしてくださいね! それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

Amen Dunes & Sleaford Mods “Feel Nothing”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉は、エイメン・デューンズの“Feel Nothing”。米NYのブルックリンを拠点に活動しているシンガー・ソングライター/プロデューサーのデーモン・マクマホン(Damon McMahon)によるソロ・プロジェクトです。彼は、名レーベルのセイクリッド・ボーンズ(Sacred Bones)を中心に、これまでに5つのアルバムを発表してきました。日本での知名度はそんなに高くないのですが、僕や亮太さんは以前から彼の音楽に心酔していたわけです」

田中「そのとおりですね。特に2018年のアルバム『Freedom』は、素晴らしかったですよね。メランコリアとサイケデリアを融合させた、孤高の美しさをたたえた傑作だったと思います。稀代のヴォーカリストでもある彼は、新たにサブ・ポップと契約。約3年ぶりの新曲“Feel Nothing”をリリースした。スリーフォード・モッズがフィーチャーされているのには驚きましたよ」

天野「交流があったとも思えないですし、これまでの作風からはちょっと結びつかない2組ですが、スリーフォード・モッズをフィーチャーするというエイメン・デューンズの采配は見事なもの。“Feel Nothing”は結果的に、エイメン・デューンズならではのサイケデリック・ソウルとスリーフォード・モッズのエレクトロ・パンクが融合していて、いずれの個性も発揮された楽曲になっています。ヒプノティックなピアノとくぐもった音質のビートが印象的な序盤はセカンド・サマー・オブ・ラヴというか、マッドチェスター感がありますね」

田中「後半には、エレクトロニックなハウス・ビートが重なって、スリーフォード・モッズのジェイソン・ウィリアムソンがうなるような歌声を加えています。神や預言者といった、ものものしい言葉が飛び出すリリックにも注目してください。マクマホンは以前、インタビューで〈電子音楽の側面はさらに推し進めていきたい〉と語っていたので、次作は意欲的な変化を遂げた作品になってそうですね」

 

Jennifer Lopez & Rauw Alejandro “Cambia El Paso”

天野「2曲目は、ジェニファー・ロペスとラウ・アレハンドロのコラボレーション・ソング“Cambia El Paso”。J・ローは説明不要でしょうけど、ラウ・アレハンドロについてはちゃんと紹介しないといけませんね」

田中「ラウ・アレハンドロことラウル・アレハンドロ・オカシオ・ルイス(Raúl Alejandro Ocasio Ruiz)は、5月にリリースしたシングル“Todo De Ti”が大ヒットしているプエルトリコの新世代レゲトン・シンガーです。6月にリリースされたセカンド・アルバム『Vice Versa』も好評ですね。Rolling Stone Japanに彼についての記事が掲載されたことも話題です」

天野「実は、彼の楽曲は〈レゲトン/ラテン・トラップのいまを知るための10曲〉で紹介しようと思っていたんですけど、迷って外してしまったんですよ。いまの活躍ぶりを考えると、紹介しておくべきでしたね。ラウはセレーナ・ゴメスがラテン性を打ち出したEP『Revelación』(2021年)の“Baila Conmigo”にも参加していて、欧米圏での注目度の高さが窺えます。ヒット中の“Todo De Ti”はレゲトンではなくて、ちょっとチープなディスコ・ポップですし、ポップ・シンガーとして開花しつつありますね」

田中「そんなラウと、〈レゲトン/ラテン・トラップのいまを知るための10曲〉にもあるように以前からラテン・ルーツを前面に打ち出していたJ.Loとのコラボ曲が“Cambia El Paso”です。前半はJ・ローのめちゃくちゃセンシュアルな歌、後半はラウの甘く力強いヴォーカルを聴けますが、最後には2人の歌声が交わります。重低音が効いたヘヴィーで抑制的なレゲトン・ビートはクールかつダンサブルですね」

天野「ラウがラッパーっぽいアド・リブを加えているところがいいですよね。曲名は〈ステップを変えて〉という意味で、美しく自立した女性へのラヴソングなんだとか。J.Loによれば、変化を受け入れること、ステップを踏む様に前進することの歌で、〈踊ることは人生であり、また喜びと幸せの象徴〉とのこと。昨年連載で紹介したシングル“In The Morning”も最高でしたし、近年のJ・ローは絶好調ですね!」

 

Moor Mother feat. Pink Siifu “Obsidian”

天野「ムーア・マザーのことは連載で何度か紹介していますよね。フィラデルフィアのミュージシャン/詩人です。そして、テキサスはダラスのラッパーであるピンク・シーフ。2人はピンク・シーフの傑作『NEGRO』(2020年)の“babe’s kids, APOLO”で共演していました」

田中「そんな彼らが再共演したのが、この“Obsidian”。ムーア・マザーがアンタイと契約して9月17日(金)にリリースする新作『Black Encylcopedia Of The Air』からのシングルです。アヴァンギャルドなヒップホップ・サウンドとポリティカルなアティテュードを打ち出してきた2人だけに、1分33秒しかないのに強烈な一曲。ムーア・マザーとサウンドスケープ・アーティストのオロフ・メランダー(Olof Melander)が制作したビートは、とにかく怪しげで不穏なサウンドを響かせていますね」

天野「〈暴力の身近さ、家庭内の暴力、コミュニティーにおける暴力について考え〉た曲だそうで、さらにビデオはアリス&ジョン・コルトレーンの家の前で撮影されているのだとか。ムーア・マザーは、黒人クィア作家のオードリー・ロード(Audre Lorde)の著書にちなんだ楽曲“Zami”も最高でしたし、新作がめちゃくちゃ楽しみです」