©Mitch Ikeda

マニックスの美しき問題作『Lifeblood』が20周年!

 ウェールズの誇る国民的バンド、マニック・ストリート・プリーチャーズ。91年にデビューし、95年にアイコニックなメンバーだったギタリスト、リッチー・エドワーズが失踪するも(現在も彼の安否は不明)、96年作『Everything Must Go』が大ヒットを記録。以降は、アンセミックなメロディーと力強いギター・サウンド、さらに社会主義的なアティテュードを映した歌詞を重ねながら、コンスタントに傑作を送り出してきた。

MANIC STREET PREACHERS 『Lifeblood 20』 ソニー(2024)

 この10年強は過去作の(だいたい)20周年を記念したコレクターズ版の発表を続け、レガシーの再評価/再定義を促してきた彼らだが、このたび通算7作目にあたる2004年作の20周年記念盤『Lifeblood 20』をリリース。パンキッシュだった2001年の前作『Know Your Enemy』から一点、幻想的なシンセと耽美なギターを中心に据えた、メランコリアの色濃いアルバムが、最新リマスターを施したDisc-1、同作からのシングルB面やリミックスをまとめたDisc-2、デモや別ミックス、ライヴ・テイクなどを集めたDisc-3という3枚組として新装された。当時、リリース2週目でトップ40を脱落するなど商業的に失敗し、ファンの間でも評価の分かれているアルバムだが、20年を経た『Lifeblood』の真価やいかに――。

 オリジナル盤のリリース当時は、デヴィッド・ボウイの諸作で知られる名プロデューサー、トニー・ヴィスコンティを制作に迎えたことが、しきりにアピールされていた。ところが、この共同作業が期待した成果を残せなかったことは、のちに両者が明かしている通り。ヴィスコンティが関与した“Cardiff Afterlife”などの3曲は、今回のDisc-3において彼自身によるミックス版を収録しているが、トム・エルムハーストが手掛けた既発ヴァージョンと比較すると、やや鈍重に感じられ、逆説的にマニックスが『Lifeblood』でめざしたサウンドを明確に浮かび上がらせている。

 このアルバムのインスピレーション源として、バンドが挙げているのは、ニュー・オーダーの『Low-Life』、プリファブ・スプラウトの『Steve McQueen』、シンプル・マインズのシングル群といった80年代半ばの音楽。低温で無機質さを湛えたエレクトロ・ポップ“The Love Of Richard Nixon”、頭打ちのビートとプログレッシヴ・ハウス的な鍵盤を重ねた“Empty Souls”、ファンキーなベースがグルーヴを牽引する“A Song For Departure”“Always/Never”などに、その影響を見ることができる。美麗な旋律 × モータリックなリズムのコンビネーションは2021年の最新作『The Ultra Vivid Lament』で改めて取り組まれた感もあり、2004年時以上に、高年に差し掛かりつつある現在のマニックスにこそ、フィットするサウンドなのかもしれない。

 Disc-2に収録されたB面曲は、当時DVDシングルのフォーマットでしか発表されなかったものもあり、その面を踏まえても、本作はコレクターズ的な価値の高い作品になっている。特に日本盤CDのボーナス・トラックとしてしか発表されていなかった“Antarctic”と“The Soulmates”は知られざる名曲につき、こうして世界中のファンに聴かれる機会ができたのは喜ばしいことだ。

 本作の楽曲は、リリース・ツアー以降、ほとんどセットリストに乗ることがなかったが、昨年のライヴでは“1985”“A Song For Departure ”が演奏されていた。〈僕らの作品のなかでもっとも疎遠に感じるアルバム〉とはベーシスト兼リリシスト、ニッキー・ワイアーの弁だが、端正な音作りによって際立つメロディーに、いまも孤高の美しさが貫かれている。

左から、マニック・ストリート・プリ―チャーズの2001年作のリマスター&エクスパンデッド盤『Know Your Enemy』、2021年作『The Ultra Vivid Lament』(共にColumbia)、ジェイムズ・ディーン・ブラッドフィールドの2020年作『Even In Exile』(MontyRay)