
数多の名盤を世に送り出し、波乱の歴史を背負いながらも決して立ち止まることなく、その時々の社会、その時々の自分たちと向き合って新しい音楽を滾々と生み出すことで、〈いま〉を生き続ける。マニック・ストリート・プリ―チャーズはそういう稀有なUKバンドだ。ちょうど30年前にメジャー・デビューし、ファースト・アルバム『Generation Terrorists』(92年)で早速センセーショナルなメディアの寵児となった彼らは、初期メンバーであるリッチー・エドワーズの失踪という悲劇※を経て、5作目『This Is My Truth, Tell Me Yours』(98年)で初の全英ナンバーワンを獲得。商業的にも本格ブレイクしたことはご存知の通りで、そこまでのストーリーに注目が集まりがちなのは致し方ないのだが、それからの歩みも同等におもしろい。
なぜってキューバ公演で幕を開けた2000年代のマニックスは、守りの姿勢に転じるどころか、引き続き独自の創造欲と関心事だけを追求してきた。カオスの坩堝のごとき6作目『Know Your Enemy』(2001年)に次いで、『Lifeblood』(2004年)ではクリーンで洗練されたポップを鳴らす。『Send Away The Tigers』(2009年)でアンセミックなロックに回帰したかと思えば、スティーヴ・アルビニとパンク・アルバム『Journal For Plague Lovers』(2009年)を録音した。
そして2010年代も多様な表現に挑んで充実した時代を過ごしてきた彼らが、14作目『The Ultra Vivid Lament』を送り出す。アバを主要なレファレンスとするピアノ主導のサウンドと、両親を相次いで亡くしたニッキー・ワイアー(ベース)が従来以上に自身の内面を掘り下げた歌詞で紡ぐ、どこまでも鮮やかな哀歌(Ultra Vivid Lament)の数々を収めた作品だ。
今回の記事では、2010年代以降のマニックスを語るうえでは欠かせない10の名曲を選出。『The Ultra Vivid Lament』に至る10年間から厳選した10曲を辿れば、本作でまたもや新境地を拓いたマニックスのワン・アンド・オンリーな軌跡が浮かび上がるだろう。

MANIC STREET PREACHERS 『The Ultra Vivid Lament』 Columbia/ソニー(2021)

“(It’s Not War)Just The End Of Love”(2010年作『Postcards From A Young Man』収録)
実に10枚目のスタジオ・アルバムであり、40代に突入して取り組んだ最初の作品『Postcards From A Young Man』を、彼らは〈マスコミュニケーションへの最後の挑戦〉と位置付けて、幅広い訴求力を備えた作品制作を目指した。90年代後半になって名実共に国民的バンドの座に就き、2000年代を通じてその地位を維持したマニックスだが、ここにきてロックの影響力の後退を感じていたのだろう。先行シングルだったこの曲では、年齢を重ねても、若い頃の自分を突き動かした怒りや情熱は薄れていないことを再確認している。ジェイムズ・ディーン・ブラッドフィールド(ヴォーカル/ギター)はそんなニッキーの歌詞にうっすらと敗北感を察知し、それを消し去るべくスタジアム仕様のコーラスを添えて思い切り輝かしい曲に仕上げ、新たなチャプターのスタートに相応しい1ページを開いた。
“Some Kind Of Nothingness”(2010年作『Postcards From A Young Man』収録)
メジャー・デビュー・シングル“Stay Beautiful”(91年)から続いていた連続全英トップ40入りを逃したという点では、この『Postcards From A Young Man』からのサード・シングルは苦い後味を残したかもしれないが、2010年代以降のマニックスが積極的に行なったコラボレーションの成功例として特筆せずにいられない。エコー&ザ・バニーメンのイアン・マッカロクをゲストに迎え、ストリングスとクワイアーで彩った喪失の歌は、明らかにリッチーへのトリビュート。リッチーとジェイムズとショーン・ムーア(ドラムス)にとって人生初のライブ体験はほかでもなく、3人で一緒に観たバニーメンのライブだった。
Rock ‘N’ Roll Genius”(2011年のベスト盤『National Treasures』に日本限定ボーナス・トラックとして収録)
メジャー・デビュー20周年の2011年、全シングル曲をコンピレーション『National Treasures』にまとめ、翌年にかけてグレイテスト・ヒッツ・ツアーを敢行した3人。これを記念して録音したニュー・シングル“This Is The Day”(ザ・ザが83年に発表した楽曲のカヴァー)のB面に収めたのが、自嘲と自負が入り混じるこちらの1曲だ。〈俺はロックンロールの天才/笑うなよ/俺はマジだから〉と人を食ったようにうそぶくのは、キース・レヴィンばりのギターを聴かせるジェイムズではなくニッキー。2012年5月に来日した際には、ステージでちらっと歌ってくれたものだが、こんな言葉を真顔で口にできるミュージシャンは、音楽界広しと言えどもそうそういない。

“Rewind The Film(featuring Richard Hawley)”(2013年作『Rewind The Film』収録)
前述した〈最後の挑戦〉を経て、『National Treasures』及びファースト・アルバム『Generation Terrorists』のリイシューで気分をリセットした彼らは、ヒット・シングルを書くというこだわりから解放され、新たな試みに乗り出した。そう、同時進行で作り上げた2枚の対照的なアルバムの連続リリースである。元ロングピッグスでシェフィールドの詩人/シンガー・ソングライター、リチャード・ハウレイをフィーチャーしたこの曲は、ダウンテンポで内省を極めた、バンド史上初のアンプラグド作品『Rewind The Film』へのイントロダクション。沈みゆく太陽を眺めているかのようなフラジャイルな趣と、リチャードのまさに黄昏色のバリトン・ヴォイスが相俟って、〈老い〉というリアリティーと向き合うバンドの姿を慈しみをもって捉えている。
“Europa Geht Durch Mich(featuring Nina Hoss)”(2014年作『Futurology』収録)
ウェールズに軸足を置いた『Rewind The Film』から一転、双子のアルバムの後編ではヨーロッパ大陸の思想や文化に着目。ベルリンのハンサ・スタジオにも赴き、クラウトロックやボウイのベルリン三部作に刺激を受けて、かつてなくエレクトロニックなレトロ・フューチャー路線に舵を切った。言うなれば、第一にウェルシュであり、次にヨーロピアンなのだというアイデンティティー意識を、これら2作品で印象付けた感がある。ずばり〈ヨーロッパが自分のなかを通り抜ける〉と題され、ドイツの大女優ニナ・ホスの声を配したこのマニックス流ディスコ・チューンでは、ヨーロッパの多様性と理想を讃えながらもその分断を嘆き、英国のEU離脱を予見していたかのよう。
“Together Stronger(C’mon Wales)”(2016年のシングル)
カルチャー、政治と並ぶマニックスの好物と言えばスポーツだ。直近の来日もラグビー・ワールドカップの開催時期(2019年)にちゃっかり合わせていた彼らは、2016年のサッカー欧州選手権にウェールズが初出場するにあたって、当然のごとく公式応援歌を担当。久しぶりにマス向けのキャッチーなアンセムを録音して、同国のベスト4入りに陰ながら貢献したが、歌詞はマス向けどころかニッチなことこのうえなく、ウェールズのナショナル・チームが辿った不遇の歴史を仔細に振り返り、ガレス・ベイル以下レコーディングにも参加した代表選手たちの名前を歌い上げた。トゥーマッチなくらいの情報量といい、栄光と挫折が同居する感覚といい、古典的名曲“Can’t Take My Eyes Off You(君の瞳に恋してる)”のさりげない引用といい、徹底したマニックス節に。
“International Blue”(2018年作『Resistance Is Futile』収録)
もはや以前ほど音楽にインスパイアされなくなったからと、ニッキーが画家や作家に作詞の題材を求め始めたのは『Futurology』以降。同作ではウラジーミル・マヤコフスキーやエドヴァルド・ムンクへのオマージュを綴っていたが、この試みは『Resistance Is Futile』に引き継がれ、このファースト・シングルは、彼がニースの美術館で観たイヴ・クラインの作品特有のブルーに端を発している。これを受けてジェイムズとショーンは、クラインのブルーのピュアで自由でオプティミスティックなエネルギーを音で描写。排外的な思想が広がり、世界が重い空気に包まれていた混迷の時代に、自分たちを鼓舞し前へと背中を押してくれるものを、懸命に探し求めていたのだろう。

“Orwellian”(2021年作『The Ultra Vivid Lament』収録)
いままでトレンドと無縁だったバンドが、ここにきて流行の最先端に立つという興味深い事象が起きている。そう、約40年ぶりの新曲を携えたアバのカムバックの1週間後に、彼らへのオマージュをたっぷり含んだ最新アルバムをマニックスが発表することになるとは、誰が想像したろう? とはいえ、アバエスクなのはサウンドだけ。軽快なピアノをちりばめた切なくも光輝くこのファースト・シングルのテーマは、2021年のディストピアンな言論空間だ。傍観者の立場から左派対右派のコミュニケーションの断絶を語り、それが誰を利するのか見極めて、本当の敵から目を離すなと警告している。
“Still Snowing In Sapporo”(2021年作『The Ultra Vivid Lament』収録)
日本とマニックスの深い深い関係は今更指摘するまでもなく、『Rewind The Film』収録の“I Miss The Tokyo Skyline”や『Futurology』時代のB面曲“Kodawari”(2014年)など何らかの形で日本に言及した曲は過去にもあった。それにしても、ニッキーの記憶にクリアに刻まれているという93年のジャパン・ツアーを回想する『The Ultra Vivid Lament』のオープニング曲は、格別に心に沁みる。なぜって、その後リッチーの失踪という悲劇が訪れることなど知る由もなく、無謀な理想と野心に燃えていた若かりし日のバンドに向ける彼の視線は、ロマンティック極まりないから。ものの1分半の間に0から100に加速するメロディーに促されて、アルバムは始まったばかりだというのに早くも感極まる。
“Don’t Let The Night Divide Us”(2021年作『The Ultra Vivid Lament』収録)
ここでもやはりアバの影が終始ちらつき、“Orwellian”の元ネタが“Dancing Queen”なら、こちらは“Waterloo”? マニックスが曲で扱う多岐にわたるトピックのなかでも、階級社会における権力の暴走、富の不平等、機会の不均衡は、定番中の定番。ワーキング・クラスのアイデンティティーを誇らかに歌う“A Design For Life”(96年)然り、サッチャー時代に遡って弱者からの搾取に異を唱える“30-Year War”(2013年)然りだが、ますます分断が進む英国社会を背景に、〈いつか光が訪れて俺たちを見つけ出してくれるだろう〉と、ワーキング・クラスの人々にいつになく率直に団結と抵抗を呼び掛けるこの曲は、メッセージ・ソングと呼んでも差し支えない。そのストレートな言い回しは、もう遠回しに訴えている余裕はないのだという切迫感の表れなのか。彼らにとっては定番のトピックも、その表現方法は一様ではなく、絶えず変化しているのだ。
RELEASE INFORMATION

MANIC STREET PREACHERS 『The Ultra Vivid Lament』 Columbia/ソニー(2021)
リリース日:2021年9月10日
配信リンク:https://lnk.to/ManicsTheUltraVividLament
■完全生産限定盤(トール・サイズ・ハードカバー紙ジャケ、CD2枚組)
品番:SICP-6398-9
価格:5,280円(税込)
日本盤のみボーナス・トラック2曲収録
■通常盤
品番:SICP-6400
価格:2,640円(税込)
日本盤のみボーナス・トラック2曲収録
TRACKLIST
1. Still Snowing In Sapporo
2. Orwellian
3. The Secret He Had Missed
4. Quest For Ancient Colour
5. Don’t Let The Night Divide Us
6. Diapause
7. Complicated Illusions
8. Into The Waves Of Love
9. Blank Diary Entry
10. Happy Bored Alone
11. Afterending