そのメロディーは〈国宝〉のように愛され、その言葉は常に時代への刃となった――
歩み続けてきた3人の新作には、いまも変わらぬ〈REAL〉が刻まれている!!!!
国宝級のロック・バンド
2025年の年明けには新たな洋楽フェス〈rockin’on sonic〉に出演したマニック・ストリート・プリーチャーズ。彼らが約3年4か月ぶりとなる15作目のアルバム『Critical Thinking』をリリースする。思えば、90年代に登場したUKロック勢のなかで、マニックスほどコンスタントにリリースし、着実にキャリアを更新し続けているバンドはいないだろう。デビュー時の〈全世界で1600万枚ファースト・アルバムを売って解散する〉という大言壮語や、バンドを軽んじる態度を取ったインタヴュアーのスティーヴ・ラマックに向けてカミソリで自身の腕に文字を刻んだ〈4 REAL事件〉、その当事者たるギタリスト、リッチー・エドワーズの失踪など、活動初期は危うさに満ちていたロックンロール・デュードたちは、結果的に一度も歩みを止めることなく、いつの時代も名曲を届けてくれるロック・バンドになった。シングルを集めたベスト盤にみずから『National Treasures』と名付けられるほどに。
実際、マニックスは3人体制での初作となった96年の『Everything Must Go』以降、13位に終わった2004年の『Lifeblood』を除き、すべてのオリジナル・アルバムが全英TOP 5入りを果たしている。その時点で故郷のウェールズのみならずイギリス全体においてまさに〈国宝〉と言えるバンドなわけだが、2021年の前作『The Ultra Vivid Lament』ではなんと23年ぶりにNo.1を奪取。2022年以降はデビュー時からの盟友、スウェードとカップリング・ツアーを行い(2023年11月に日本公演を開催)、さらにベーシストのニッキー・ワイアーは2023年に約17年ぶりのソロ・アルバム『Intimism』を配信して高評価を受けるなど、近年のマニックスを取り巻く状況はとりわけ明るかった。
そんなグッド・コンディションを維持するなかで制作されたのが新作『Critical Thinking』だ。プロデューサーは、最初期からマニックスに関わり、大半のアルバムに何らかの形で参加してきたデイヴ・エリンガ、2004年の『Lifeblood』から制作陣に加わったロズ・ウィリアムズという気心の知れた2人を起用。前作と大きく変わった点は、本作が改めて〈ギター・ロック〉に向き合ったアルバムだということだ。『The Ultra Vivid Lament』では鍵盤主体の音作りを敷き、アバやシンプル・マインズなどをインスピレーション源にした80年代のシンセ・ポップやニューウェイヴを想起させる楽曲を収めていた。ところが、今回はギター・サウンドをアルバムの中心に据えている。まず1曲目の“Critical Thinking”には驚かされるだろう。この曲は、不穏なベースとポスト・パンク調の鋭利なギターが聴く者の胸をざわつかせるノーウェイヴ・ディスコ。メイン・ヴォーカリスト(&ギタリスト)のジェイムズ・ディーン・ブラッドフィールドではなく、ニッキーがヴォーカルを務めており、ポエトリー・リーディング的な歌唱で、現代において〈良きもの〉とされる空疎な言葉を連ねながら、この社会の窮屈さを映し出している。
なお、先のソロ・アルバム『Intimism』の出来に後押しされた面もあるのか、今回のニッキーは歌唱にも精力的で、“Critical Thinking”“Hiding In Plain Sight”“OneManMilitia”の3曲でヴォーカルを担当。特に“Hiding In Plain Sight”はアルバムのリード・ソングにもなっていて、マニックスの長いキャリアのなかでニッキーのメイン・ヴォーカル曲が初めてシングル化されたという点でもメモリアルな一曲になった。