三味線奏者の川嶋志乃舞による〈才能巻き込み型プロジェクト〉として2020年にスタートしたCHiLi GiRL。元々、伝統芸能とポップミュージックを融合させた活動を展開してきた川嶋だが、CHiLi GiRLでは〈三味線奏者の〉という冠を取っ払うかのように振り切れたポップスを歌っている。
そんなCHiLi GiRLが初全国流通盤『CARAI』をリリース。沖井礼二(ex-Cymbals/TWEEDEES/FILTER BOY)、倉品翔(GOOD BYE APRIL)、宮野弦士、MPC GIRL USAGIといった才能を巻き込んだ、突き抜けて爽快かつ多彩なポップアルバムだ。
今回はMPC GIRL USAGIとのアメリカツアーを終え、2024年11月17日(日)にアルバムのリリースを記念したワンマンライブの開催を控える川嶋に、音楽ライターの金澤寿和(Light Mellow)がインタビューした。
三味線奏者・川嶋志乃舞はなぜCHiLi GiRLとして活動し始めた?
――Mikikiでは初インタビューですので、まずプロフィールについて聞かせてください。川嶋さんは現在〈三味線奏者・川嶋志乃舞〉と〈ポッププロジェクト・CHiLi GiRL〉として並行して活動されていますが、CHiLi GiRLを始めた動機は何だったのでしょうか?
「川嶋志乃舞の音楽的なコンセプトとして〈伝統芸能ポップ〉を東京藝術大学在学中から掲げて活動していました。その路線のアルバムを出し続けていたのが2019年の2枚『光櫻 -MITSUSAKURA-』『SUKEROKU GIRL』までです。ただ、制作に関して縛りが多くて。〈伝統芸能を守りつつ、そのよさを普及してほしい〉という周りの期待が責任になってしまったんです。〈恋や人間について歌う〉という自分がやりたいことができなくなってしまったので、もっと自由に作りたい、大好きな歌を歌いたい、詞や歌で自分らしさを追求したいと思いました。
〈心気一転しよう〉と気持ちが変わり始めたタイミングでコロナ禍になったのですが、正直、私的にはちょうどよかったんです。すべてがリセットされた状態になり、私も作家としてリハビリする期間が必要だったので、コロナ禍以降の1、2年はトライ&エラーで伝統芸能と関係ない曲を作る訓練をしました。和久井沙良と一緒に“壊れちゃう予感がするの”を作ったところで本格的に再出発して、CHiLi GiRLのカラーや方向性が見えてきたのが2021年秋頃。
CHiLi GiRLを始めたことで逆に三味線のお弟子さんも増えて、三味線奏者とCHiLi GiRLのブランドを確保しながら二足のわらじで健康的に活動できているのが現状です」
――元々、ポップスが好きだったんですか?
「はい。昔から渋谷系やシティポップが好きで、最初のアルバム(『紅梅センセーション』)はインストが多いのですが、サウンドやコード感、メロディに渋谷系やシティポップの要素を入れていました。ただ国内のリスナーにはどうしても三味線の演奏を期待されるので、〈歌を聴いてほしい〉という思いがCHiLi GiRL発足の要でした」
――津軽三味線というと吉田兄弟や上妻宏光さんが知られていますが、伝統芸能とジャズフュージョンなどのクロスオーバーが一般的な音楽性だと思います。CHiLi GiRLの場合はJ-POPと津軽三味線のミクスチャーで、ポップアーティストとしてはっきり区別したのが成功だったのでしょうね。
「上妻宏光は師匠と地元が一緒で、直属の兄弟子なんです。私たちの流派は伝統芸能や民謡をやりつつ、師匠・宗家佐々木光儀がオリジナル曲もやっていて、サンバやラテン音楽のルンバ、マンボ、ジャズなどを織り交ぜて、かなりクロスオーバー的な音楽をやっています。そういう活動を見てきてたおかげで私も自分のカラーも出しやすかった、という運命も振り返って感じます。
三味線奏者の方は〈演奏家として認めてほしい〉というエゴが先立つ方が多くて、〈三味線が合うならどんな音楽性でもいい〉という印象があるんです。ただ、私はやりたい音楽がはっきり決まっていました。三味線の普及のためにやるついでの音楽じゃなくて、普通のポップミュージシャンとして活動したい、という点が他の奏者とは違うと自覚しています。
私は企業の上席の方々のパーティー向けの音楽を作る営業案件や企業向けの仕事もしてきましたし、一方でアイドルやガールズバンドを聴いてきた世代でもあるおかげで、どんなオーダーが来ても合う音楽を作れるようになった経験も大きいです」