2019年10月20日の米フィラデルフィア公演をもって無期限活動停止を宣言したTOTO。しかし翌年11月、オリジナル・メンバーのスティーヴ・ルカサーと3代目ヴォーカリストのジョセフ・ウィリアムスを中心に、フレッシュな若手ミュージシャンを加えた新ラインナップのもとに見事なカムバックを果たした。『With A Little Help From My Friends』と名付けられた今回の作品は、その際に彼らが行ったオンラインでのパフォーマンスを収めたライブ盤(映像作品としても同時にリリースされる)。パンデミックの中にあってさらなる前進を続けようとするバンドの果敢な姿を捉えた優れたドキュメントといえる。スナーキー・パピーのメンバーをはじめとした若手ミュージシャンも交え、単なる〈配信ライブのパッケージ化〉にとどまらない前向きかつ充実した演奏を届けてくれた。
加えて、スティーヴ・ルカサーのソロ・アルバム『I Found The Sun Again』と、ジョセフ・ウィリアムス のソロ・アルバム『Denizen Tenant』も同時に発売された。ソロとしては8年ぶり/12年ぶりというインターヴァルを挟んだ両作品だが、それぞれの個性が隅々まで刻印された入魂のアルバムとなっている。ベテランのTOTOファンにとっては、まさしくこの間の乾きを癒すような嬉しいリリース・ラッシュだろう。
一方で、現在の若い音楽ファンにとって、TOTOとは一体どんな存在として捉えられているのだろう。ここ10年ほどのAORリヴァイヴァルを経由して、80年代のサウンドに熱い注目が集まることが増えたとはいえ、TOTOへの注目についてはイマイチ立ち遅れてきた感もある。ウィーザーのカヴァーなどをきっかけとして2018年に突如年巻き起った“Africa”ブーム以降も、その本質が深く理解され、過去作を含む膨大な作品が後年のリスナーから広く楽しまれているとは言い難いようにも感じる。アクの強いアートワーク、ときにロック色/プログレ色の強い演奏からくるイメージが先行し、〈メロウ〉を希求するファンからはなんとなく忌避されてきたようにも思うのだ。
様々なジャンルにおける80年代サウンドの復権が浸透しきったいまだからこそ、もう一度、TOTOの魅力と真価について考えていたい。本記事は、そんな動機から編まれたものだ。リアルタイムで彼らの活動に触れ、その魅力を知り尽くし、一方では現在のシーンも視野に収める幅広い執筆活動を行う音楽ライター・金澤寿和(Light Mellow)を迎え、様々な角度からTOTOの魅力について語ってもらった。今回のリリースに合わせてルカサーとウィリアムスの両人にインタビューを行ったという金澤氏に、つい忘れられがちな〈バンド感〉の魅力や、プレイヤーとしての卓越性、広範囲に及ぶ彼らの〈影響〉について、じっくりと話を訊いた。
アリーナ・ロックとAORの分水嶺がTOTO
――金澤さんは、TOTOの作品にリアルタイムで接してこられたと思うんですが、デビュー当時、日本ではどんな受け止められ方をしていたんでしょうか?
「ボズ・スキャッグスの『Silk Degrees』※(76年)がアメリカで大ヒットして日本でも売れていたので、そこに参加している人たちがバンドとしてデビューするらしいということでかなり話題になっていました。あの当時、僕はまだ高校生だったんですが、自分でも楽器をやっていて。そうすると、期待の凄腕プレイヤーたちとしてメンバーの噂も自然と伝わってくるんですよ。ジェフ・ポーカロ※2もスティーリー・ダンに参加していたり、セッション・ミュージシャンとしてすでに売れっ子だったしね。僕よりちょっと年上で楽器をやっている人たちの間では、〈ポルカロ・ブラザーズ※3がついにデビューするらしい!〉という感じで結構話題になっていました」
――実際にファースト・アルバム『TOTO(宇宙の騎士)』(78年)を聴かれてどう感じましたか?
「今でこそAORの文脈で語られたりするけど、当時はボストンとかフォリナーとか、いわゆる〈産業ロック〉といわれたバンドが活躍していて、TOTOもそういう流れで受け止めていたように思います。ポップ・ロック的なんだけどプログレっぽさもあるから、そういう受け止め方が一般的だった。他方で、16ビートの黒っぽいノリの曲もあるので、それまでの商業ロック系のバンドに比べて初めからとても幅広い音楽性を持っているなと思っていました。今になると、アリーナ・ロック的なものと、AOR的なものの分水嶺というべき存在がTOTOだったんだろうな、と思います」
――確かに、初期の作品から曲によってカメレオンのように表情を変えるイメージがあります。
「スティーヴ・ルカサーのギターが全面的に出てくるとロック色が強くなって、ジェフ・ポーカロとデヴィッド・ハンゲイト※のリズム隊が前に出てくると他のバンドにはできないファンキーさが強調される。例えばジャーニーとかだと、彼らも一時期ジャズ系のドラマーを迎えていたとはいえ、バンド全体でああいうノリを出すことはできないんですよ。そこはまさにスタジオ・ミュージシャン集団ならではの音楽性の幅広さってことだと思います」
――そういうファンキーなノリというのはどういうルーツから来ているんでしょうね。
「たとえばジェフ・ポーカロにしてもデヴィッド・ペイチ※にしても、両親とも有名なジャズ・ミュージシャン※2で、若いときからLAのいろいろな音楽の現場に出入りしていた人でしょう。そうすると、ポップスやロックはもちろん、ソウルなどの黒人音楽にも当然のように触れていたんだと思いますね。ポーカロが尊敬していたドラマーは、ジェイムズ・ギャドソンやバーナード・パーディーなど、黒人プレイヤーが多いですしね」