季節によって服装を変えるように――毎年恒例で開催している冬のコンサート、東京公演の模様を完全収録

 人生の何処かを彩ってくれた音楽と再会し、大好きな音楽との掛け替えのない瞬間を楽しむ、また、それを誰かと共有する。ライヴに足を運ぶ大きな理由はそんなところだが、そこに明日へと繋がるなにかがあればもっと幸せなはずだ。音楽には、ぼくらが知らない魔法がまだまだあるかもしれない。漠然とだが、そんな想いに駆られることがある。例えば、大貫妙子は、世の中の流行や情報などには目もくれず、歌と演奏だけでライヴに向き合い続けている人だ。しかも、近年は、フェビアン・レザ・パネや林立夫などによる熟練のバンドを軸に、歌と演奏だけの姿勢はそのままにいろんな形でライヴを行っている。地味にみえるその行為だが、ライヴというメディアを通じてポップ音楽の可能性にもかかわるような、実は大切な挑戦なのではないか、ふと、そう思えたりもするのである。

 「挑戦しているつもりはないんですが、私にはいろんなタイプの曲があって、それを生かすためには一つのバンドだけじゃ駄目で、ステージでやりたくてもできない曲がでてきたりするんです」と語る。そして、こう加える。「自分を変えることはできないけど、例えば、季節によって服装を変えますよね。夏になったら薄着になったり、それと同じなんですね。それに、これから先、20年もやれない。だったらもう少しフットワークを軽く、いろんな人とやってみようかなと。オーケストラと一緒にやるのも大事だし、若い人たちともやってみたい。もちろん、いまのバンドのおじさんたちとも(笑)、また山弦の二人ともね」。

 現在のバンドで最年少の網守将平との出会いも、彼女には刺激になった。「ある日、パソコンを開いて、最近の若い人たちはどんなことをやってるんだろうとみていたら、網守くんが出てきて、聴いたらすごく良かった。“偶然の惑星”という曲だったんですが、私好みだったんですよ。人の出会いって偶然じゃなくて、必然みたいなもの、そういうのを信じて生きてきたところが私にはあって、そしたら、坂本(龍一)さんもそうですけど、網守くんも同じ芸大で、坂本チルドレンのひとりだった」。

大貫妙子 『Taeko Onuki Concert 2023』 コロムビア(2024)

 『Taeko Onuki Concert 2023』は、彼女が、昨年2023年11月18日、昭和女子大学人見記念講堂で行ったコンサートを完全収録したものだ。ジャズやボサノバまでいろんな要素を含みながら、そのどれとも異なる都会の洗練されたポップ音楽で、彼女ならではの大人の落ち着いた空間へと導いていく。“街”や“夢のあと”では、こんなにも素敵な曲だったのか、と改めてうっとりさせられるくらいだ。しかも、“街”は、オリジナルのレコーディング(『Grey Skies』)でも林立夫がドラムを叩いていたので、50年近い歳月を経て新たな生命が吹き込まれていく様子にも感慨を覚える。映画でも、文学でもない、ポップ音楽でしか味わえない瞬間だ。また、“街”の次に“朝のパレット”が続く、つまり、最も古いのと最新のが一緒に楽しめるのも、“Volcano”と“新しいシャツ”が並んだりもするのもライヴの醍醐味だ。それに加えて、シークエンスを使って、“Volcano”や“Happy Go-Lucky”のように、彼女の多重録音によるコーラスが加わるなど、新たな試みによって、オリジナルにもより近づいた。

 オープニングは、“横顔”だ。「“横顔”を歌うと落ち着くんですよ。ライヴは、すごく緊張するんです、それでまず、これを歌ってホッとする」。また、「私のコンサートは、年齢に関係なく一人で聴きに来る方が多い。私も、若い頃から人とつるむのが苦手で、コンサートも映画も、いつも一人だった。私に似てらっしゃるんだと思うんですが、一人で来て一人で帰っていく。そういうお客さんがほとんどで、一対一の関係が強い。そのぶん責任が重いというか、怖さもあって、すごく緊張するんです」。

 ステージ上で彼女は、「曲は私が残すのではなく、お客さんが残してくれている」と語りかける。“突然の贈りもの”や“新しいシャツ”も、そうやって目まぐるしい流行に耐えて残され、愛されてきた。「本当にそうなんですよ」。そして、こう加える。「若い頃は、言葉に、表現力が追いついてなかった。でも、いまやっと歌えるようになったかなと。この曲は、語るように歌えばいいんだなとか、そっちのほうが皆さんに届くんだとかね。ステージの数を重ね、年齢を重ねて、ああ、こういうことなんだな、とわかることが沢山ありますね。“突然の贈りもの”や“新しいシャツ”にしても、30代とはいまは歌いかたが違う。年齢的にどうかなと思う歌詞も、いまの年齢に、言葉に、正直に向き合って歌えばいいんだ、と最近になって気づきました。いつまで歌えるかわからないけど、まだ5年は大丈夫(笑)」。今年は、フジロックへの出演も決まっている。もちろん、初めてだ。「呼ばれれば何処へでも出ます、基本的には。それに、私はロックだと思ってるんでね、いままでどうして呼ばれなかったんだろう」と笑う。「ロックと言っても、中身がね、という意味だけど」と加えるのを忘れずに。

 


LIVE INFORMATION
大貫妙子コンサート「ピーターと仲間たち 2024」

2024年7月3日(水)東京・恵比寿ガーデンホール
開場/開演:18:00/19:00

2024年7月6日(土)大阪・Zepp Namb
開場/開演:16:00/17:00

2024年7月9日(火)東京・EXシアター六本木
開場/開演:18:00/19:00

出演:大貫妙子/フェビアン・レザ・パネ(ピアノ)/鈴木正人(ベース)/坂田 学(ドラムス)/伏見 蛍(ギター)/網守将平(キーボード)/toshi808(シーケンサー)

CIRCLE ’24 Day1
2024年5月18日(土)福岡・海の中道海浜公園 野外劇場
開場/開演:9:30/11:00
出演:大貫妙子/大橋トリオ/折坂悠太(band)/KIRINJI/グソクムズ/くるり/TENDRE/Nagakumo/never young beach

FUJI ROCK FESTIVAL ’24
2024年7月26日(金)新潟県湯沢町苗場スキー場

https://onukitaeko.jp/