タワーレコードのフリーマガジン「bounce」から、〈NO MUSIC, NO LIFE.〉をテーマに、音楽のある日常の一コマのドキュメンタリーを毎回さまざまな書き手に綴っていただく連載〈LIFE MUSIC. ~音は世につれ~〉。今回のライターはカワムラユキさんです。 *Mikiki編集部

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 NewJeansが日本デビュー曲「Supernatural」のリリースに併せて日韓で開催するPOP UPにて、藤原ヒロシ氏とのコラボレーショングッズを発表。昨年よりX(旧Twitter)を騒がせている「ニュージーンズおじさん」のフラッシュバック青春を鷲掴みするレイヤーと、昨今の90’sやY2Kリバイバルがヴェイパーウェーブ的なニュアンスと絶妙にミックスされて、政局も経済も不安定な時代の片隅に、ささやかで極上のHAPPYを届けてくれたなぁとしみじみ思うニュース。あぁ、なんて平和なんだ。

 藤原ヒロシ氏ことHFをYouTubeでDIGると、興味深い二つの動画に辿り着くので検索して欲しい。ひとつが95年にNHKで放映された「ソリトンー金の斧 銀の斧」で、女優の大塚寧々さんがHFのプライベートスタジオを訪れて戦後浪漫派DJ(当時のHF談)としてのお気に入りのレコード紹介やDJブースでのミックスのHow To、そして小泉今日子や藤井フミヤのサウンドプロデュースでコンポーザーとしても一般的な注目を集めていたこともあり、当時では非常に珍しいDTMの解説などが収められている。私も放映を見て憧れの念を抱いたのを今でも鮮明に記憶している。そしてもうひとつは双子姉妹のタレントユニット、FLIP-FLAPがテレビ東京でレギュラーを務めていた番組「Tokyo Days」にゲスト出演した回。会話の流れで「発言すると時々、マスコミが取り上げてブームになってしまう」「錬金術ですね」と。本当に紛れもない事実だから凄いのである。例えばバスキアは素晴らしいアーティストで既に確固たる存在ではあったけれど、マンハッタンでウォーホールや彼のコミュニティであるファクトリーの面々と出会った事と、没後にHFのソロアルバム「HIROSHI FUJIWARA in DUB CONFERENCE」のジャケットに起用されたことから、後世でも広く注目が集まり、ストリート出身のアーティストから歴史的人物へと殿堂入りを果たしたのだと思う。そしてHFと交流が深いミュージシャン、ファッションデザイナーなど多くのクリエイターは時代を越えて現在もシーンを牽引してゆく。本人は否定するだろうけれど、まるでHFは生きたファクトリーであり、現代でウォーホールに変わる存在。ネット上ではなく軸は、あくまでもストリートな所が神格化に拍車をかけている。

 しかし何と言っても素晴らしいのはHF本人名義の音楽活動、Janis Ianをフィーチャーした「ユーリ」のサントラ、永遠のマスターピースである初のソロアルバム「Nothing Much Better To Do」は一家に一枚必須。Chieko Beautyやスチャダラパーに提供した楽曲のセルフカバーを含む8曲を、Fun Boy ThreeのTerry HallやSister SledgeのKathy Sledge、Neneh Cherryなどストリートの教科書に登場するようなレジェンド達を迎えて録音。何度聞いてもロマンティックで新鮮に感じるし、その美意識の結晶には繰り返し魅了され続けてしまう。

 そして真夏にはHF節が炸裂するUAの名曲「太陽手に月は心の両手に」を、冬が始まる頃にはサカナクション「新宝島(hf remix)」が聴きたくなる。あぁ、レコードもサブスクもLOOPが止まらない。次はどんな景色へと誘われるのだろう? きっと肩の力が抜けたあの感じで、飄々と新しい流行を紡いでくれるのでしょう。

 


PROFILE: カワムラユキ
バレアリック・スタイルのDJ & プロデューサー、作家。
近年は渋谷区役所の館内BGM選曲、オープンワールドRPG「CYBERPUNK 2077」楽曲プロデュースを担当。
作家としては幻冬舎Plusにて音楽エッセイ「渋谷で君を待つ間に」を連載中。
2010年に道玄坂にて築約70年の古民家をリノベーションしたウォームアップ・バー「渋谷花魁」をオープン。連動して国内外でラジオ番組やネットレーベルを運営中。

 

〈LIFE MUSIC. ~音は世につれ~〉は「bounce」にて連載中。次回は2024年8月25日(日)から全国のタワーレコードで配布開始される「bounce vol.489」に掲載。