〈NO MUSIC, NO LIFE.〉をテーマに音楽のある日常の一コマのドキュメンタリーを毎回さまざまな書き手に綴ってもらう連載〈LIFE MUSIC. ~音は世につれ~〉。今回のライターはカワムラユキさんです。 *Mikiki編集部

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 昨年に還暦を迎えられたテイ・トウワさん(以下、テイさん)のアーティスト写真やDJ現場でお見かけする姿の内面から輝くような肌艶に、近年益々目が離せないのは私だけでしょうか? コロナ以降に流行った二拠点生活を先取りして、ニューヨークから帰国後の2000年に軽井沢と東京に居を構え、温泉巡りを欠かさない健康的なライフサイクル。テイさんの作品から感じられる絶対的な生命感に、多大なる影響があることは明確。健康維持と生活環境がこんなにもクリエイティヴの継続的なパワー源として大切だったなんて、テイさんがDeee-Liteで世界デビューなさった90年の10代の私は、全く考えるはずもありませんでした。

 さておき“Groove Is In The Heart”のミュージックビデオやジャケットを初めて見た時の衝撃は今でも忘れません。中野裕之さんをはじめ日本人アーティストが制作に関わっており、共に仲間たちと世界へ進出してゆく様はまさに見事。80年代黄金期のニューヨーク、パーソンズ美術大学にてグラフィックデザインを学ばれたテイさんのセンスは、アートディレクターとして細野晴臣氏のブックデザインを手掛けられるなどに加えて、音楽制作に於けるシンガーやビジュアルアーティストのキューレーターとしても独自の審美眼を発揮。

 数多くある実例の中でも、人気沸騰寸前のモデルやアイドルから、シンガーやMVのアイコンとしてのポテンシャルを引き出す様は圧巻で、ゆるめるモ!在籍時のあの、玉城ティナ、水原希子・佑果姉妹、田辺あゆみ、麻生久美子を筆頭に時代の顔になりつつある女性たちを起用。Tycoon Graphicsや中村剛氏、谷田一郎氏などテイさんと公私共に交流の深いアーティスト達がスタイリッシュなムードに仕立ててゆくという。

 加えてMETAFIVEのメンバーとしての活躍、Yellow Magic Orchestra関連ワークスでの手腕、Kylie MinogueやBebel Gilbertoなど世界の歌姫の魅力を日本へと紹介する媒介者としてなど、テイさんが関わるもの触るものすべては、まるでUFOに乗って別次元へと導かれてゆくようで。まさに代表曲のひとつである「HAPPY」をシェアするという、人類が本能的に求める悦びへと繋がっているのではないかと。

 音を楽しむと書いて音楽ですが、音だけにとどまらない引力を生み出し総合芸術へと昇華する、完全なるセンスの化身。その威力を思い知ったのはコロナ禍でした。退屈や不安を越えてHAPPYな明日を迎える活力になるような、ワクワクする音の粒を紡ぎ続けたテイさん。本人はきっと何となく自然体に表現しているだけのようですが、その幸福を呼ぶ音に魅せられてあの時を乗り切った方も多いのではないでしょうか。

 


PROFILE: カワムラユキ
バレアリック・スタイルのDJ & プロデューサー、作家。近年は渋谷区役所の館内BGM選曲、オープンワールドRPG「Cyberpunk 2077」の楽曲プロデュースを担当。作家としては幻冬舎Plusにて音楽エッセイ「渋谷で君を待つ間に」を連載中。2010年に道玄坂にて築約70年の古民家をリノベーションしたウォームアップ・バー「渋谷花魁」をオープン。連動して国内外でラジオ番組やネットレーベルを運営中。2025年7月23日にファースト・アルバム『Love Forever』をリリース。

 

〈LIFE MUSIC. ~音は世につれ~〉は「bounce」にて連載中。次回は2025年11月25日から全国のタワーレコードで配布開始された「bounce vol.504」に掲載。