歩道橋の上で切磋琢磨することから始まった集団の変わらぬ初心。個々のスキルを提示したニュー・アルバムを貫くのは〈ラップというアートを表現したい〉、そのピュアな衝動だ!!

ラップという快感

 〈ラップのアルバム〉だ。2007年頃より梅田駅歩道橋で行われていたサイファーに糾合し、そこに参加していたR-指定をはじめとするメンバーによってなかば自然発生的に結成された梅田サイファー。離合集散を繰り返しつつ、リリースを重ね、活動フィールドを広げていった彼らだが、その根幹にあるのは〈ラップというアート〉を表現したいという想い。それゆえメジャー2作目となる今回の『Unfold Collective』が〈ラップ・アルバム〉であるのは、当然のことだ。しかしヴォーカルとラップが、フロウとメロディーが接近し、シームレスに繋がる歌唱表現がスタンダードになった現在の音楽状況において、ビートに対してワードと情報を刻み込み、メンバーが競うようにスピットし、〈ラップならではの強度〉を全体に通底させ、そこにプライドを置く本作は、まさしく〈ラップのアルバム〉なのである。今作でそれがより強調された形で表出しているのは、今回のインタヴューに参加した、テークエム、KOPERU、KenyyDoesの3MCがマイクを回し、Cosaquがビートを手掛けた“韋駄天S**t”だろう。32小節というロング・ヴァースのラップを、フロウとライミングとワードセンスで加速させ、BPM 77/154のビートに一気に詰め込んでは駆け抜けていくこの曲は、〈ラップという快感〉を強く表現する。

梅田サイファー 『Unfold Collective』 ソニー(2024)

 「例えばテック・ナインの“Worldwide Choppers”“Speedom (Worldwide Choppers 2)”みたいな、オモロイぐらいのファスト・ラップ、もはや早すぎて笑っちゃうような曲を作りたかったんですよね」(テークエム)。

 「自分で作ってみて『頭文字D』とか、そういうスピードレースの世界に近いと思いましたね。もはや近隣の迷惑になるレヴェルの早口っていう(笑)。本当に世界中の早口ラッパーを尊敬しました。毎回こんなラップを作ってんの!?と」(KennyDoes)。

 「スタジオでも爆笑しながら作りましたね。〈こいつら本当にすごいな、カッコええな〉と思ったし、〈……ようやるわ〉と(笑)。自分ではこんなスタイルのラップはできないぶんエンジニアとしてより精度を求めてレコーディングしたし、結果としてこの3人でしかできない、普通のラッパーやユニットでは作れない曲になったと思います」(Cosaqu)。

 「〈この曲でR-指定をおびき寄せよう、これは絶対乗りたくなるやろ〉という気持ちもあったんですよ。結果的にこの曲には参加しなかったけど、その刺激は“Rodeo13”のR-指定のヴァースに反映されてると思います。でも、これをライヴでやらなきゃいけないんですよね……。だから、まだ“韋駄天S**t”との戦いは終わってない(笑)。ただ、ここで新しい武器を手に入れたという感じはありますね」(KOPERU)。