
岡本太郎のピアノで自分をそのまま出そうとしただけ
――最新作『ラポール』はすべてアップライトピアノによる即興演奏で構成されていますが、この大胆なアルバムが生まれたきっかけを教えていただけますか。
「平野さんに誘われてここ(岡本太郎記念館)に遊びにきたときに、アトリエのピアノを触らせてもらったんです。まさか太郎さんのピアノを弾かせてもらえるなんて思わなかったから、すごく感激したし楽しかった。しかもピアノの感触がすごく良くて、夢中で即興を弾いていたら、平野さんがとつぜん〈コレ、このまま作品にしよう!〉って言い出して。僕もこの空間、このピアノで録るなら〈即興のソロ〉がいいと直感しました。
もっともそのときはそれで終わったんですが、その後に中野の〈Sweet Rain〉でソロのライブをしたときに平野さんが来てくださって、休憩のときに〈今日の演奏もすごく良かった。この勢いで録っちゃおうぜ〉と言ってくれたんです。ただスケジュールを見たら結構ツアーが入っていて、かなり先になりそうだったんだけど、12日後に1日空いている日があって、エンジニアほか関係スタッフの全員のスケジュールも奇跡的に空いていた。それで急遽レコーディングが決まりました」
――その日の〈Sweet Rain〉での演目は全部即興演奏だったのでしょうか?
「即興とスタンダードが半々ぐらいです」
――このレコーディング以前に、オール即興でパフォーマンスをおこなったことは?
「すべて即興というものはありませんでしたが、ライブのときには頻繁に織り交ぜています。ソロ演奏を始めた頃からずっとそうしています。ジャズは基本的にインプロヴィゼーションの音楽ですから。
今回の録音についても、ごく普通に取り組んだだけで、即興であることに特に抵抗はありませんでした。いままでやってきたこと、自分自身をそのまま出そうと思っただけで、特別な気負いもありませんでしたし、何か特別な準備をしたわけでもありません」
――前もって、例えばレコーディングに向かう間に考えたモチーフを本番で発展させたということもないんですね?
「前もって考えていたことは何もないです」
――この日、このときの高橋さんのエモーションがそのまま音に表れている。
「そうですね」

――レコーディングには、岡本太郎さんが愛用した1世紀前のアップライトピアノが使われました。
「こういう機会はなかなかないので、とても感慨深かったです。とうぜんコンサートホールのグランドピアノとは音の質感がちがいますが、あの空間(岡本太郎のアトリエ)にすごく合っているピアノだと感じました。それに、あのピアノを弾くからこそ浮かぶフレーズやタイミングもあるんですよね。そういうものが自然のうちに反映されていると思います」
――曲名は“part I”~“part XII”となっています。思わせぶりなタイトルにせず、番号にしているのも潔いです。リスナーに先入観を抱かせたりはしない。これは演奏順ですか?
「100%の即興なので、意味ありげなタイトルをつけるのもヘンですから。演奏順に番号をつけたわけではなく、録った後に並べ替えたものですが、1曲目(“part I”)はいちばん最初に弾いた演奏です」
――いちばん長いパフォーマンスでも7分少々で、非常に簡潔で、聴きごこちがよいです。
「長尺の即興でアルバムを作るというコンセプトではありませんでしたし、個人的に長い演奏を聴き続けるのが苦手ということもあって、自分でも楽に聴ける長さにしたといいますか……。
実は最初に構成した段階では11曲だったんですが、最後の12曲目を後で付け加えました。一段落した後にもうひとつ展開することで、世界が広がったらいいなと思って」