20代半ばで日野皓正バンドのレギュラーメンバーに迎えられ、自らプロデュースした中牟礼貞則との年齢差60歳のデュオアルバム『NŪ』も話題に。自身が主宰する音楽ユニットである秘密基地、世田谷トリオ、三つ巴、m°feなどに加え、STUTS、YUKI、七尾旅人、オカモトコウキらをサポートするなど、360度の音楽活動を繰り広げる高橋佑成が、アップライトピアノによる即興パフォーマンスを収めたアルバム『ラポール』を日本ジャズの新たなプラットフォーム、Days of Delight(ファウンダー&プロデューサー・平野暁臣)から発表する。タイトルの〈ラポール〉は、セラピストとクライアントの信頼関係を表す心理学用語で、仏語の〈橋を架ける〉ことに由来する。
「このピアノ(スタインベルク・ベルリン)は100年前に製造された〈アンティーク〉で、しかもアップライト。とうぜん高級なグランドピアノのようなきらびやかな音は出ないし、タッチもまるでちがいます。だから合わないピアニストもいるんだけど、彼(=高橋)は遊びにきたときに〈すごく楽しいです〉と言いながら、嬉しそうに弾いたんですよね。しかもここは住宅地だから外の音も入ってくる。レコーディング中に緊急車両が通ったり、ヘリが来たりしました。じっさいアルバムをよく聴くと、サイレンや鳥のさえずりが入っている。でも彼は文句を言うどころか、それも面白がって〈是非入れましょう〉と言うんです。そんなプレイヤーはまずいない。そこもいいなと思います」
そう語る平野プロデューサーの中には早くも次作の構想が芽生えているようだが、まずはこの即興ソロピアノ集『ラポール』に耳を傾けて、高橋佑成の表現世界に浸っていただきたい。
高橋が同レーベルから作品を発表するのは、本年8月にリリースされた武本和大、平倉初音とのピアノ二重奏/三重奏アルバム『Thirty Fingers』に続いて2度目。Mikikiでのインタビューもこれで2度目となるが、質問は前回とはまったく重複していない。前回の記事と共に読んでいただければ、この才人のヴィジョンがよりくっきりと伝わることだろう。
ジャズを聴くことに時間を費やしたことが糧になった
――高橋さんがジャズに深入りしたのはいつ頃からですか?
「中学生のころから図書館でジャズのCDを毎日3枚ずつ借りて、家に帰ってすぐパソコンに入れて……。アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ、ビル・エヴァンス、リー・コニッツなど、タイプのちがうものをいろいろ借りまくって聴いていました」
――図書館は、使い道によっては最高の教育機関だと思います。
「僕はジャズを始める前から、ジャズを聴くことに長い時間を費やしましたが、結果的にそれが大きな糧になったように思います。その意味で図書館は僕にとって教育機関だったのかもしれませんね」
――その頃に感銘を受けた作品は?
「当時はハードバップをすごく新鮮に感じていて、キャノンボール・アダレイのライブ盤なんかはめっちゃ好きでよく聴きました。あと、忘れられないのはポール・ブレイと富樫雅彦のデュオアルバムの『エコー』です」
――いい作品と出会いましたね。あれはソニーからの発売ですが、けっこう入手が難しいです。
「さすが図書館ですよね。あと、僕が通っていた塾の先生がジャズ好きで、テザード・ムーンの『Plays Jimi Hendrix+』とか、マイルス・デイヴィス『Bitches Brew』のコンプリート版とか、そういうものを勧められて趣味が変わっていきました」